第3話 ゾンビ襲撃
山下組内部では恐ろしい惨劇が繰り広げられていた。
タケとヤスはぶらんと力なくその腕を垂らし濁った目つきで身体も口周りも血だらけにしフラフラと歩いている。
どうやらあの新型ドラッグ、イノセントシンドロームは、血液中に残るわずかな成分でも相手を”感染”させてしまうようだ。
食事会の誰かが吸引したのだ。
隆二は目の前の光景が信じられなかった。副組長の出所祝い、幹部会の食事の席は一瞬の騒乱で血の海に染まった。そして起き上がる死者たち、そう、あれはまるでゾンビ、人の目をしていない生きる屍、残った若人が家具でバリケードを作り今は事なきを得ている。だがゾンビたちはもう力の加減を知らない、このバリケードもいつまで持つだろうか。
ゾンビは二十人程居る。
隆二は震える腕をもう一方の腕で押さえつけ、チャカを確認した。だが、もしかしたら症状が収まる可能性もある、それなのに幹部連中を撃ってしまったら組が潰れる。
隆二は揺れるバリケードとチャカを交互に何度も見比べた
「タケ、ヤス、兄貴、すまんのう、こうするしか無いじゃけぇ」
隆二の前のバリケードは破壊され既に突破されていた。ゾンビたちは既に幹部の食事会が開かれていた広間の外にまで飛び出していった。人を見つけると全力で襲いかかってくるゾンビたち、身を隠しているだけじゃいずれ見つかる。だが、幹部連中を殺してしまえば組が終わる、放おっておけば自分が殺される。それらを天秤にかけ、被害を少なくするためまだ料亭内に残っている下っ端のタケ、ヤス、自分の兄貴分を射殺することに決めた。
獲物を探しキョロキョロとしているところを確実に一人づつ、頭が弾ける。最悪の気分だ。こんな時にあれがあれば……
三人がいなくなり一先ず静かになった廊下を駆け抜け、兄貴分の胸ポケットをまさぐり、ビニールパッケージを取り出す。シャブだ。
根っからのシャブ中だった兄貴はポケットに入れたメガネケースにパッケージに入ったシャブと注射器も隠し持っている。それを拝借し、注射器にシャブを詰め水差しから水を引き一心不乱に注射器を振り水溶液を作る。
荒い息をたて、左腕の内肘に針を立てる、一発で静脈に当たる。独特の臭いが鼻を付き、全身の毛が逆立つ。
「……っふぅ。それにしてもこの状況はなんなんだ。さて、どうするか」
ゾンビ共はまるで獣のようで、頭は働かないらしい、こちらにはチャカがある。
危険を承知で叫んだ。
「おい! 誰かまともな奴はいるか!」
「隆二さん!? 隆二さんですか! こっちです、カウンターの影にいます!」
最近入った下足番のフミヤスの声だった。
隆二は身を低くしてカウンターのフミヤスの元へと走る。
「フミヤスだっけか、足はあるか」
「駐車場に車があります」
「これの被害はどれくらいの規模だ?」
「歌舞伎町のトー横はゾンビでいっぱいらしいです、ヤクザだけじゃなくてトー横のキッズ達の間でも例の人食いドラッグ、イノセントシンドロームが流行ってたみたいでトー横は若者のゾンビで溢れている様です、警察も自衛隊も出てますが、ゾンビといえども一般人なんで、手が出せずにバリケードで隔離されている様です」
隆二はそれを聞いて言う。 +
「そうか、歌舞伎町まで車は走らせられるか、歌舞伎町のキャバクラに俺の女がいる」
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