第2話 イニシエーション
少年が大人になる、その明確な瞬間というものはあるだろうか
ある日椎名純が目覚めた時、なにかいつもと違う違和感のようなものを感じた、なんというか自分と世界との距離が。
なんだか騙されているような気分でベッドから這い出し、部屋の片隅にある姿見に自分の姿を映す。
まるで女子のように骨格の細い華奢なからだ。
純は思春期にありがちな性同一性の問題を抱えていた。
嗚呼……自分が女だったらどんなによかったろう。
既に12の歳になる純は精通を済ませていた。性への憧れとその恐れ、嫌悪感と肉体的なレベルでの欲求。彼は相反する気持ちを内面に飼っていた。
そんな時、窓の外に目をやってみると夜の帳に街灯が灯っている、目の前の塀の上に黒猫が立っていてこちらを見つめている、毛艶のいい黒猫だ。
かわいいので窓を開ける、すると猫が突然、
「ねぇ、純くん大変なの! 私達に手をかして!」
わぁ! 猫が喋った!
純は驚いて退いた、
「大丈夫よ、安心して」
黒猫は続ける。
「私の名はメリル、純君に力を貸して欲しいの!」
突然の怪奇現象に膝と顎ががたがた震える。
驚嘆も落ち着き、純は酷く戸惑いながらも、現実を受け入れ、喋るメスの黒猫、メリルを部屋に入れ話を聞いていた。
「突然の話でごめんなさい、でもちゃんと聞いて、純くんには魔法少女になってもらいたいの」
「……はぁ?」
「だから魔法少女」
「俺、男だけど」
「うん、でも大丈夫、魔法少女っていうのは、少女たちの純粋な夢の力なの、まだ若く、心の清い純くんは魔法少女になれる資格がある」
俺の心が清いだって?
魔法少女? プリキュアか何かか?
俺はそういったのは見ない方だ、この猫が何を言っているかわからない。
「うーん……まだちょっと意味がわからないけど、それで、魔法少女になってどうすればいいの」
「ヤクザさん達を救って!」
「?????????」
この段になっていよいよこれは本当に夢か幻覚かわからなくなってきた。
夢だとしたら俺の深層心理には何が隠れているのか?
男の俺が魔法少女になってヤクザを救う? こんなふざけた話はない。
「もう一度よく聞いて、今、多くのヤクザさん達がいいえ他にも大勢の人たちがなにか悪いもので人間の魂を失ってる。このまま彼らが死んでしまえばその魂は地獄に落ちてしまう。その魂たちを救済、天国に送ってあげられるのは魔法の力だけなのよ」
「そんなこと俺が……」
「みんなを魔法の力で成仏させてあげて! 地獄は延々に続く苦しみ、天国は歓喜と喜びの世界なのよ! もう一度よく聞いて、今、多くのヤクザさん達がいいえ他にも大勢の人たちがなにか悪いもので人間の魂を失ってる。このまま彼らが死んでしまえばその魂は地獄に落ちるか無に帰してしまう。その魂たちを救済、天国に送ってあげられるには魔法の力だけなのよ」
「ふーん……」
「変身の呪文を教えるわ! 私に続いて純君も唱えて!」
メリルは一拍起き、呪文を唱える。
「ケミカルマジカルラブ&ピース!」
「…………」
「どうしたの純君! さあ、ケミカルマジカルラブ&ピース!」
「ケミカルマジカル……」
「もっと大声で!」
純はやけくそになって叫んだ。
「ケミカルマジカルラブ&ピース!」
すると純の身体は光に包まれピンクのフリフリな魔法少女の衣装に変身した。
身体も女性へと変化していた。
小さく胸は膨らみ、股間にあるはずの物は無かった。
「なんだこれ……」
「純くん、この家にホウキはある?」
「そりゃああると思うけど、なんで?」
「ホウキに乗って現場まで飛んでいくのよ、早くしないと事態は悪くなる一方だわ」
「魔法少女がホウキで空を飛ぶなんてベタベタだなぁ」
「だから、魔法少女は少女たちの夢の力なのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます