怪奇! ヤクザゾンビVS魔法少女

しいな らん

第1話 始まり

「怪奇! 魔法少女VSヤクザゾンビ」

      しいな らん


第1話 始まり


 八月の夜だった、兄貴は問う、

「タケ、最近はどうなんじゃい」

「どうもこうもありませんよシノギは全くです、合法物が禁止されてからシャブもマリファナも槍玉にあげられて規制が厳しくなってます」

 ここは歌舞伎町にある事務所の一室、ヤクザ事務所だ。

 高畳が六畳ほどあり、仁義と書かれた掛け軸と日本刀が飾られている。

 コンクリートの床にはソファとテレビ、麻雀卓とそして監視カメラ。

 事務所の端には段ボールが山積みになっている。

 粗悪品として帰ってきたものだ。

「兄貴ぃ、この大量のブツどないしまひょ」

「タケ、このご時世ヤクザも腹すかして生きとんのや、どないしまひょじゃやってられねぇ、どうにかするんがお前の役目じゃい」

 まったく滅茶苦茶な事を言う。

 タケは山積みになった新型ドラッグを見つめ頭を悩ませた。

 中国ルートで新しく出回った新型ドラッグ「イノセントシンドローム」は人の脳を根本的に変えてしまう。

 強力な酩酊、高揚によって一吸いしただけで理性を壊す。

 特に人の根源的な欲望、食欲を刺激する。

 そしてこれも人の消せない欲望、暴力を刺激する。

 つまり人食いになるのだ。

 合法ドラッグは安価に手に入り、まだ法規制されていない頃は飛ぶように売れた、可燃性の葉っぱに化学薬品を染み込ませて売るのだ。

 だが法規制が入った、そこで科学式を少しだけ変えてまた販売する、また規制が入り、また化学式を変える。元はカンナビノイド、マリファナに似た化学物質を作っていたはずが、今やただぶっ飛べればいいだけの異形のドラッグ、いや、ドラッグとも呼べない毒になり下がっていた。

 その効果を知り、買うものはいなくなり法で徹底的に規制された。

 そうなったら仕方ない。タケの足りない頭では、ヤクザ内で内需を高めるしか方法は思いつかなかった。

「なぁヤス、面白いものがあるんだけどやってみないか」

 ヤクザに情もへったくれもなかった。

 仁義など建前だ。

 ヤスは何も知らない弟分のタケに可燃性の葉っぱに薬品を染み込ませただけのお粗末なドラッグを吸わせた。

 一吸いしただけでドラッグが体中にに回り脳に達し、うめき声を上げる、みるみるうちに目が血走る。

 獣のようなうめき声をあげる。

「おい、ヤス、大丈夫か。

 タケはヤスの変貌ぶりに焦った。

「あ、兄貴ぃ……があぁあぁぁぁぁ!」

 ヤスはタケののど元に嚙みついた。

「ぐわぁぁぁっぁぁぁぁっ!」

 映画のように鮮血が噴出し、部屋は赤黒く染まった。


第2話 イニシエーション

 少年が大人になる、その明確な瞬間というものはあるだろうか

 ある日椎名純が目覚めた時、なにかいつもと違う違和感のようなものを感じた、なんというか自分と世界との距離が。

 なんだか騙されているような気分でベッドから這い出し、部屋の片隅にある姿見に自分の姿を映す。

 まるで女子のように骨格の細い華奢なからだ。

 純は思春期にありがちな性同一性の問題を抱えていた。

 嗚呼……自分が女だったらどんなによかったろう。

 既に12の歳になる純は精通を済ませていた。性への憧れとその恐れ、嫌悪感と肉体的なレベルでの欲求。彼は相反する気持ちを内面に飼っていた。

 そんな時、窓の外に目をやってみると夜の帳に街灯が灯っている、目の前の塀の上に黒猫が立っていてこちらを見つめている、毛艶のいい黒猫だ。

 かわいいので窓を開ける、すると猫が突然、

「ねぇ、純くん大変なの! 私達に手をかして!」

 わぁ! 猫が喋った!

 純は驚いて退いた、

「大丈夫よ、安心して」

 黒猫は続ける。

「私の名はメリル、純君に力を貸して欲しいの!」

 突然の怪奇現象に膝と顎ががたがた震える。

 驚嘆も落ち着き、純は酷く戸惑いながらも、現実を受け入れ、喋るメスの黒猫、メリルを部屋に入れ話を聞いていた。

「突然の話でごめんなさい、でもちゃんと聞いて、純くんには魔法少女になってもらいたいの」

「……はぁ?」

「だから魔法少女」

「俺、男だけど」

「うん、でも大丈夫、魔法少女っていうのは、少女たちの純粋な夢の力なの、まだ若く、心の清い純くんは魔法少女になれる資格がある」

 俺の心が清いだって?

 魔法少女? プリキュアか何かか?

 俺はそういったのは見ない方だ、この猫が何を言っているかわからない。

「うーん……まだちょっと意味がわからないけど、それで、魔法少女になってどうすればいいの」

「ヤクザさん達を救って!」

「?????????」

 この段になっていよいよこれは本当に夢か幻覚かわからなくなってきた。

 夢だとしたら俺の深層心理には何が隠れているのか?

 男の俺が魔法少女になってヤクザを救う? こんなふざけた話はない。

「もう一度よく聞いて、今、多くのヤクザさん達がいいえ他にも大勢の人たちがなにか悪いもので人間の魂を失ってる。このまま彼らが死んでしまえばその魂は地獄に落ちてしまう。その魂たちを救済、天国に送ってあげられるのは魔法の力だけなのよ」

「そんなこと俺が……」

「みんなを魔法の力で成仏させてあげて! 地獄は延々に続く苦しみ、天国は歓喜と喜びの世界なのよ! もう一度よく聞いて、今、多くのヤクザさん達がいいえ他にも大勢の人たちがなにか悪いもので人間の魂を失ってる。このまま彼らが死んでしまえばその魂は地獄に落ちるか無に帰してしまう。その魂たちを救済、天国に送ってあげられるには魔法の力だけなのよ」

「ふーん……」

「変身の呪文を教えるわ! 私に続いて純君も唱えて!」

 メリルは一拍起き、呪文を唱える。

「ケミカルマジカルラブ&ピース!」

「…………」

「どうしたの純君! さあ、ケミカルマジカルラブ&ピース!」

「ケミカルマジカル……」

「もっと大声で!」

 純はやけくそになって叫んだ。

「ケミカルマジカルラブ&ピース!」

 すると純の身体は光に包まれピンクのフリフリな魔法少女の衣装に変身した。

 身体も女性へと変化していた。

 小さく胸は膨らみ、股間にあるはずの物は無かった。

「なんだこれ……」

「純くん、この家にホウキはある?」

「そりゃああると思うけど、なんで?」

「ホウキに乗って現場まで飛んでいくのよ、早くしないと事態は悪くなる一方だわ」

「魔法少女がホウキで空を飛ぶなんてベタベタだなぁ」

「だから、魔法少女は少女たちの夢の力なのよ」


第3話 ゾンビ襲撃


 山下組内部では恐ろしい惨劇が繰り広げられていた。

 タケとヤスはぶらんと力なくその腕を垂らし濁った目つきで身体も口周りも血だらけにしフラフラと歩いている。

 どうやらあの新型ドラッグ、イノセントシンドロームは、血液中に残るわずかな成分でも相手を”感染”させてしまうようだ。

 食事会の誰かが吸引したのだ。

 隆二は目の前の光景が信じられなかった。副組長の出所祝い、幹部会の食事の席は一瞬の騒乱で血の海に染まった。そして起き上がる死者たち、そう、あれはまるでゾンビ、人の目をしていない生きる屍、残った若人が家具でバリケードを作り今は事なきを得ている。だがゾンビたちはもう力の加減を知らない、このバリケードもいつまで持つだろうか。

 ゾンビは二十人程居る。

 隆二は震える腕をもう一方の腕で押さえつけ、チャカを確認した。だが、もしかしたら症状が収まる可能性もある、それなのに幹部連中を撃ってしまったら組が潰れる。

 隆二は揺れるバリケードとチャカを交互に何度も見比べた

「タケ、ヤス、兄貴、すまんのう、こうするしか無いじゃけぇ」

 隆二の前のバリケードは破壊され既に突破されていた。ゾンビたちは既に幹部の食事会が開かれていた広間の外にまで飛び出していった。人を見つけると全力で襲いかかってくるゾンビたち、身を隠しているだけじゃいずれ見つかる。だが、幹部連中を殺してしまえば組が終わる、放おっておけば自分が殺される。それらを天秤にかけ、被害を少なくするためまだ料亭内に残っている下っ端のタケ、ヤス、自分の兄貴分を射殺することに決めた。

 獲物を探しキョロキョロとしているところを確実に一人づつ、頭が弾ける。最悪の気分だ。こんな時にあれがあれば……

 三人がいなくなり一先ず静かになった廊下を駆け抜け、兄貴分の胸ポケットをまさぐり、ビニールパッケージを取り出す。シャブだ。

 根っからのシャブ中だった兄貴はポケットに入れたメガネケースにパッケージに入ったシャブと注射器も隠し持っている。それを拝借し、注射器にシャブを詰め水差しから水を引き一心不乱に注射器を振り水溶液を作る。

 荒い息をたて、左腕の内肘に針を立てる、一発で静脈に当たる。独特の臭いが鼻を付き、全身の毛が逆立つ。

「……っふぅ。それにしてもこの状況はなんなんだ。さて、どうするか」

 ゾンビ共はまるで獣のようで、頭は働かないらしい、こちらにはチャカがある。

 危険を承知で叫んだ。

「おい! 誰かまともな奴はいるか!」

「隆二さん!? 隆二さんですか! こっちです、カウンターの影にいます!」

最近入った下足番のフミヤスの声だった。

 隆二は身を低くしてカウンターのフミヤスの元へと走る。

「フミヤスだっけか、足はあるか」

「駐車場に車があります」

「これの被害はどれくらいの規模だ?」

「歌舞伎町のトー横はゾンビでいっぱいらしいです、ヤクザだけじゃなくてトー横のキッズ達の間でも例の人食いドラッグ、イノセントシンドロームが流行ってたみたいでトー横は若者のゾンビで溢れている様です、警察も自衛隊も出てますが、ゾンビといえども一般人なんで、手が出せずにバリケードで隔離されている様です」

 隆二はそれを聞いて言う。 +

「そうか、歌舞伎町まで車は走らせられるか、歌舞伎町のキャバクラに俺の女がいる」


第4話 九十九起動

 山下組専属、岡部科学者は焦っていた、電話は鳴り止まない。外に姿を見せるわけにも行かなかった。

 山下組がゾンビに制圧されその外に出て感染者を増やしてから数日が過ぎた、あまりの異常な状態に政府の対応も鈍っている、科学者岡部は新型ドラッグ、イノセントシンドロームを作った張本人なのだ。

 粗悪で安価なドラッグで儲けるつもりだった、外国から入ってきた合法のトベる化学薬品を少し化学式を変えて可燃性のただの葉っぱに吹き付け、歌舞伎町のマンションの一室で店舗兼奥の部屋をドラッグ生成部屋としていたのだ。

 だが外国でもすでに人が人を食う事件は起きていた、高速道路脇でホームレスが人間の顔を生きたまま食べていたという事件があった、だがこんな自分が作ったものでこんなことが起きるとは予想外だ。

 自分が作ったドラッグで世間が大変な事になっている。自ら自体を収集するため、彼は寝ずに動いた。自身のせいで起こった騒乱のを自身でどうにかしようとするくらいの善意は持ち合わせていた。

 彼は世間から逃げ続け、ゾンビは街にまで進出し、数を着実に増やし事態はどんどん悪化していき世間は狂騒極める中遂に完成させた。少女型武装戦闘ロボット九十九式を。

 九十九が目を開き尋ねる。

「マスター、私の使命は」

「殺せ、すべてのゾンビをこの世から消せ」

 九十九は高校生くらいの少女に見える、それは岡部の趣味だろうか、制服を身にまとてっている。

 九十九は軍で研究されていた人型決戦兵器を流用して作った。

 岡部の腕とコネを使えば、必要なものを取り寄せるだけですぐに出来上がった

 ミニバンに乗り、ゾンビをかき分け騒乱の中心になっている歌舞伎町、騒ぎの中心地トー横を目指す。

 イノセントシンドロームは歌舞伎町のマンションの一角で売っていた。トー横に集まるのは居所の無い若者たちばかりで、朝までたむろしてそこで寝る奴らもいる。

 居場所がない子共達のたまり場になっているのだ。

 若い子に処方箋や一人一つずつしか買えない、過剰摂取するとトベる市販薬を売る奴らがいた、そいつらは合法ドラッグも若者に売り出したのだ。

 ただ、ぼーっと立っているトー横キッズと呼ばれる若者たちは魂が抜けたようだ、なぜかゾンビ同士の殺し合いは少ない、元気に動いている獲物を優先して狙うようだ。

 九十九は走っている車から身を乗り出し、

「目標発見、直ちに排除します」

「よし、目的を遂行しろ」

 博士からの命令が下った。

 九十九の指令はゾンビを抹殺すること。

 トー横から歌舞伎町の入り口にかけて、特殊車両でバリケードが作られていた。

 警察も自衛隊も人間を撃てないのだ。

 少女型武装戦闘ロボット九十九はパニックの中の人混みかららゾンビだけを選別認識し、人間では出せない規格外の速さで駆け抜け中を飛び、空中で身体を反転させゾンビの首を日本刀で切り落とした。

 いくら痛覚の鈍ったゾンビでも首をはねてしまえばイチコロだ。群れの中を駆け抜け、健常な人間とゾンビとを選別しながら次々と首をはねていく。

 新宿東口から通って歌舞伎町の入り口大広場は血の海で染まった。

 すると生体レーダーに不可思議なものが映った。

 レーダー上で建物を無視してそのまま直進しこちらへ向かってくる。

 九十九は夕闇に染まりかけた空を見上げた、するとそこにはプラスチックホウキに跨ったフリルの付いた極端に装飾された服を着た少女と、ホウキの柄の先にちょこんと座る黒猫がふわふわ空を飛んでいた。

 ……あれはなんだ。

 博士にもあんな存在の話は聞いていない、フリルの少女はこちらへ向かってくる。

 ゾンビの首をワイヤーアクションの様に飛び跳ね次々と刎ねていく九十九を見てメリルは叫んだ。

「あなたっ!? 人間じゃない!?」

「あなた達は何者」

 無表情で九十九は答える。

「私達は魔法少女! あなたのそのそのやり方ではゾンビさん達の魂を救えない!」

「魔法少女……わからない……何を言っているのかわからない……」

 純は困った、何がなんだか分からなかった。

 突然変な「ケミカルマジカルラブ&ピース!」という謎の呪文で少女の身体になり、ピンク色を基調とした皆が思い浮かべるフリフリの魔法少女の衣装をまといホウキで飛んで行けばゾンビがうじゃうじゃいて謎の少女が虐殺している

「純くん、早く降りて! まずあの女の子を止めて!」

 ゆっくりと下降しホウキから降りた。逝っちゃった目をしたゾンビと呼ばれる人間がうじゃうじゃいいる。

 新型ドラッグ、イノセントシンドロームのは人の理性のタガを外し、欲望を増幅させる。

 12歳の華麗な少女になった純を見てゾンビ達は目の色を変えた。

 全速力でゾンビの群れが向かってくる。

 純は為す術もない。

 フリルのかわいい服はビリビリと無残に破られ肌が露わになる。

 純は成す術が無い。

 服を破った男ゾンビの性器は屹立している、イノセントシンドロームは性欲のタガも外してしまうのだ。

 魔法少女になった純は変身し、性器まで女性になっていた。

 純の引き攣る顔、浮かぶ涙。

 女性器にはまだ違和感を感じていた。

 だが、男ゾンビは屹立したモノを濡れてもいない純の性器に挿入された。

 そのままされるがまま犯される。

 純のプライド、尊厳が恐怖と供に壊れた

 純の悲鳴は歌舞伎町のど真ん中で虚しく霧散する。

 九十九は事の成り行きを静かに見守っていた。と。

 ボトリ。

 すると、純を犯していたゾンビの首が落ち、血しぶきが舞った。

 九十九が純を犯していたゾンビの首を刎ねたのだ。

 純は血の気が引き、我に帰る。

「あなた、殺されるわよ」

 九十九は静かに純に言う。

 メリルは泣きそうな声で言う。

「純くん大丈夫!? どうして……どうしてこんなことに……ごめんなさい、私のせいだわ……」

「なんなんだよコレ……」

 純は羞恥でビリビリに破れた衣装で身体を隠し言った。

 その間にも九十九はバサリバサリとゾンビの首を血で滑る日本刀で切り落としている。

「純くん! 一度お家に帰りましょう!」

 メリルが叫んだところで銃声が響いた。

 軽トラックがゾンビの群れをなぎ倒しながら向かってくる。窓から銃を構えゾンビ達を撃っているのは隆二だった。


第10話 乱射


「ふはははははっ! フミヤス! もっと飛ばせ!」

 そう言う助手席の隆二の目はらんらんと輝いていた。顔からは冷や汗をかき、両眼がブルブルと左右に細かく揺れる。

 息は荒く、腕はガクガクと痙攣していてゾンビを狙う照準はまるで定まっていない。

 高笑いを浮かべながらただ銃を乱射しているのだ。

 隆二はもうシャブを大量に打っている。

 もう完全にハイになっていた。

 隆二軽トラを下足番のフミヤスに運転をさせ、歌舞伎町のキャバレーで働く自分の女を奪還しにきたのだ。

 だが今の隆二の頭にはもはやそんな事はなかった。

 ただキラキラと舞い散る血しぶきと弾け飛ぶ頭に完全にハイになっている。

 歌舞伎町東口のトー横広場辺りにつくとなにやら異様な格好をした衣服の乱れた少女と日本刀を持った少女が対峙している。

「フミヤス! 止めろ! なんか面白いもんやってるぞ」

「わ、わかました……」

 少女たちの前に車を止め降りると全員がこちらを向く。ちょこんと居座るネコが喋る。

「こ、今度はなに!? あなた達は!?」

「わっ、わはははははっ! ネコが、ネコが喋った! ふははははっ!」

 喋るネコに銃を乱射する、震えた腕では全く当たらなかった。


11話 帰宅

 純とメリルはプラスチックホウキにまたがり一時帰宅する。

 服はボロボロでほとんど裸だ。

 家に着き、鍵のかかってない二階の窓から自室に戻る。

 純はうつむいてだまっている。

 メリルは心配して言う。

「純君、とりあえず着替えましょう、魔法少女のドレスは変身時に復活するわ!」

 純は黙ってフリースに着替える。

「純君、本当にごめんなさい……」

「…………」

 純は先ほどのことがトラウマになっていた、返答を返せなかったが無理やり続けた、

「いや……いいんだ、それよりさっきのは何? ゾンビ? 日本刀を持った人はロボット? 何が起きてるの?」

「元の元の元を辿れば悪神のせいなの、それが日本にやってきて平和を乱している。合法ドラッグと称して外国から安く仕入れ安く売っている、しかしそれはゾンビドラッグだった、そのドラッグは人を人食いにし、噛まれた場所から少量の血や体液だけで感染する、日本の神の力は弱っている、一旦ゾンビになった人を天国に連れて行くには魔法の力で葬ってあげるしかないの、そのためには純君が必要だわ、神は総てをわかってる、そして、一番適任だったのがあなただったのよ」

「どうして俺が適任に?」

「あなたは最も清い魂を持っている、自身で気づいてなくてもね」

「僕が最も清い……」

「あなたは男の巫女なのよ、神に祝福されてる、どうか私たちに力を貸してちょうだい、もっと作戦を練りましょう」

 このステッキを振れば光線上に魔法がまっすぐ出るわ、それをゾンビさんたちの心臓や頭に与えれば一撃で倒せるわ、もしくはステッキでその場所を殴る事ね」

「わかった……」

「少し休みましょう、癒しの魔法を与えるわ、今日は寝ましょう」

 純がベッドに横になってメリルがそのお腹の上に載って癒しの魔法を唱えると、純の心は穏やかに溶け入り、多幸感に包まれた。

「ふぁあ」

「ふふ、本当の多幸感というのはこういうものなのよ、ドラッグなんかと違って」

「これが多幸感」

「神の国は幸せだけよ、私たちは人間さん達を導くためにやってきた」

「神の国……」

「天国ってやつよ」

「僕はどこの宗教にも入ってないよ」

「神は在るわ、すべてを愛してる、大丈夫よ、清い純君は天国に行けるわ」

「よかった……」


12話「焦燥」

 TVをつけてみる日本中でゾンビが確認されている。

 特に新宿歌舞伎町はゾンビの群れでバリケードが敷かれていた。

 歌舞伎町には合法ドラッグ屋として店舗があったのだ、岡部科学者の依拠もそこだ。

 マンションの一室を店舗とし、奥の部屋でドラッグを作っていた。

 岡部は神に祈るように自体が収集するのを願った。

 ドラッグを作った張本人であるが、人の心は持ち合わせていたのだ。

 九十九をモニターしていると謎の少女が訪れた、ホウキに乗ってまるで魔女っ娘のような衣装を着て、だがその子はゾンビ共に犯され元来た場所から帰ってきた。

 どうやって空を飛んだ?

 本物の魔法か?

 岡部は信じられないと思いながらも考えを巡らせた。

 魔法の力で葬らないとゾンビたちの魂を癒せないと言っていた、だが、どんどんゾンビは増えている、早く事態をおさめねばならない、ゾンビは拳銃で身体を打ったところでひるまない、痛覚が麻痺しているのだ、余計興奮しかねない、確実に殺すには首をはねるしかない。

山下組の隆二という男が魔法少女の元へ訪れていた、岡部は隆二に電話した、山下組と連絡と取らないといけない。

 数度のコールで隆二は電話に出た。

「おう! どうした学者先生よぉ!」

「このゾンビの大群は山下組がさばいていたドラッグによってもたらされたものだ、山下組で処理したい、君もコンビニ上のマンションの合法ドラッグ屋に来てくれないか」

「俺の女が歌舞伎町の店にいるままなんだ、でもチャカの球も尽きてゾンビが危なくて行けねぇ、先生も手伝ってくれないか?」

「ああ、一度落ち合おう」

「しょうがない、分かった、コンビニ上のマンションの店舗だな」

「そうだ、よろしく頼む」

 隆二は電話を切って、

「フミヤス! 車を回せ、角の店に学者先生がいる、そこへ迎え!」

「はい! わかりました」


 九十九の凄技でトー横のゾンビ騒動は落ち着いた、死体はその数100人ほど。

「九十九、帰ってこい」

 岡部は九十九に帰還を命じた。


 九十九はすぐに帰ってきた、そのしばらく後に隆二とフミヤスがマンションの一室の合法ドラッグ屋を訪れた。

「さて、これからどうするかですが……」

 隆二は瞳孔の開いた瞳で岡部を見つめ言う、

「俺の女が連絡つかねぇんだ、時間的にまだ店にいると思うんだけどよ」

 隆二の女はキャバクラ譲だった、時間は夜九時、店は開店して間もない時間だった。

 フミヤスの運転で九十九を含め四人でキャバクラ『ルージュ』までやってきたが、店のカギは空いているのに中には人がいない、どこかに逃げたのだろうか。

 関係者のスマホも通じない、どうしたものだろうか、岡部は焦っていた。

「くそっ、どこいきやがった」

 隆二は自分のふとももを殴る。

「とりあえず、女用意してくれや」

「はいっ!」

 フミヤスは自分のスマホから都合の好さそうな女に電話をかける。

 隆二は覚せい剤をキメている、覚せい剤とは、皆表立って言わないが、セックスドラッグなのだ、注射でキメれば、やることは100パーセント、マスターベーションかセックスだ。

 フミヤスは合法ドラッグ屋を出て一人で女を迎えに行った。

「それにしてもよう、これはなんなんだい、先生」

 隆二はソファに浅く座って上目遣いで岡部に尋ねる。

「まだよくわかっていない、ただ、山下組がさばいてた合法ドラッグで人がゾンビになっている、銘柄はいろいろあるからどれかわからないが、どれか一つがゾンビドラッグらしい、いままでそんな話は聞いたことなかったからな」

「そろそろ警察は何やってんだ」

「とりあえずバリケードを作って閉じ込めてるよ」

「ふうん」

「殺しはしないようだ、時間が過ぎれば元に戻るかもしれないからな」


「マジカル・ケミカル・ラブ&ピース!」

 純が唱えると、身体が光に包まれ、身体は女の子になり、フリフリ衣装の魔法少女になった。

 以前犯された事を思い出し吐き気がした、

「純君! 大丈夫!?」

 心配するメリルを制し、純は言った。

「行こう、ゾンビたちをこれで倒そう」

 手に持ったステッキはピンク色で先端に星の形の輝く石がついている。

 姿見に移る自身の姿はカードキャプターさくらのさくらちゃんのようだった。

 女性性にあこがれていた純は胸がときめく。

 プラスチックホウキに乗ってふわふわと二人は歌舞伎町を目指す。


 バリケードを守っている警察が純たちに気づき叫んだ、

「なんだあれは!」

 かまわず純はバリケードの中に入った、ほとんどは九十九が首を跳ねてしまって残りのゾンビは店の中などに潜んでいる。

「私たちは正義の味方です! ゾンビを葬るためにきました!」

 警察は驚いたようで黙っている。

「えいっ!」

 純がステッキをゾンビの方に振ると、ゾンビは静かに倒れた、顔色は戻り、安らかな顔で死んでいる。

「天国へ行ったのよ」

 メリルが言う。

「あとどれくらいゾンビはいるのかな」

「わからないわ、警戒しながら進みましょう」

 すると角を曲がったところでゾンビに見つかりゾンビは全力で走ってくる、純はおもわずステッキで殴る、ゾンビは安らかに倒れた。

 ゾンビは全力で自身の筋力も無視して、一度暴れだすと抑えきれない、ホウキで逃げる前につかまってしまう、十分に気をつけなければならなかった。

 純とメリルはゲームセンターに入った。

 すると凄い声が聞こえた、

「痛いぃぃぃぃぃぃ! 痛いぃぃぃぃぃぃ!」

 悲痛な女性の叫び声だ、女性が男に馬乗りになられて、生きたまま腕を食われていた。

 「なんてことなの……純君、仕方ないわ、あの女性も一緒に天国へ送ってあげて!」

「わかった」

 純はステッキを二人の方へ振る、ゾンビと女性は穏やかな表情でゆっくりと眠りに落ちるように崩れる。

「ふぅ、ひとまず安心ね、純君は大丈夫?」

「う、うん」

 純は先日のレイプがトラウマになっていた、思い出すと吐き気を催す、それにおびただしい程の血、精気の無い生首たち。

 なぜ自分が選ばれたのか不思議だった。

 だが、天国というものが本当にあることを知った、純はなんとか自身を奮い起し立っている。


13話「」

隆二はフミヤスが用意した女とともにホテルにしけこんだ、フミヤスと岡部は今後どうするか話あった。

「隆二さんもあんなんだしどうしますかねぇ」

「ここに時期警察が来るかも知れない、事務所に逃げよう」

「わかりました、車出します」

 フミヤスは隆二に事務所に戻る事を電話で伝え、岡部を助手席に乗せフミヤスは車を発進させた。

事務所には二人の死骸があった、それらを端によせ、岡部は九十九を呼び寄せた。

麻雀卓にはドラッグのパッケージがあった、

「ケッ」

 岡部はそれを片手で払いのけた。

「九十九、まだゾンビはいそうか」

「残り少なくなってきています、あの魔法少女という存在がゾンビをやっつけているようです」


 純とメリルがゾンビを倒して廻っているとき、隆二はフミヤスの車でまたトー横まで来ていた。

「そこをまがったルージュって店だ、そこに俺の女がいる」

 フミヤスは黙って車をカーブさせた。

 キャバレー、ルージュの前で車を止めると、隆二はすぐさま降りて階段を上った。

 フミヤスもついていき、三階まで上がるとルージュの扉を開いた。

 化粧と酒場の匂いに満ちた店には誰もいなかった。

「くそっ、lineも既読にならねぇ」

 隆二はスマートフォンをソファに投げた。

 すると化粧室からひっそりと女が出てきた。

「あの……このお店の関係者ですか……?」

「そうだが、アキって女知らねぇか?」

「たぶんみんな逃げたんだと思います、私は後から来て歌舞伎町の状況を知ってお店に隠れてて……」

「lineの既読もつかねぇんだ」

「あ、もしかしてこれ……」

 化粧室に入るとそこには隆二がアキに買ってやったグッチのカバンが有った。

「荷物置いたまま逃げたのか……」

「ほかのキャストの子たちも逃げたんですかね」

「店長に電話してみる」

 隆二はスマートフォンでコールする、するとしばらくして相手が出た。

「よう店長、隆二だけどよ、アキそっちにいるか」

「いますよ、みんな西口の別店舗に逃げたんです、ケセラって店です」

「わかった、ありがとう。フミヤス、西口だ」


14話「」

 九十九はあらかたトー横のゾンビを一掃した。

 警官隊が盾を持って突入し、九十九をとりかこむ。

「私はゾンビ掃討用ロボット、警察についていく気は無い。ロボットの私には拷問も効かない」

 そういって九十九は規格外の速さで走り去っていった。

 岡部のいる合法ドラッグ屋になっているマンションの一室を目指し走る。

 幸い追手は巻けたようだ。

 部屋に入ると誰もいなかった、岡部に連絡をする、今は他の人間と一緒に別の所に居るようだった。

「九十九、お前は待機しておいてくれ」

「はい、マスター」

 九十九はシャワーを浴びて全身の血を洗い流した。

 九十九は魔法少女と名乗った女の子と喋る猫の事を調べる、何も引っかからない。

 九十九は着替え、日本刀に一緒に綺麗に拭いた。


15話「」

 隆二はシャブの副作用でグリ(勘ぐり)が入っていた。

「あの女……俺から逃げるわけじゃないよな……」

「…………」

 岡部は後部座席で黙っている。

 フミヤスは言う。

「隆二さん、グリ入ってますよ、ゾンビもいるんですからシャブは控えて下さい」

「そうだな……そうだよな……」

 隆二は冷や汗を拭きながら一人納得していた。

 警察の目にもつかず、隆二たちは歌舞伎町を抜け出せた。

 西口に向かい、隆二の女が務めているキャバクラの系列店、ケセラにまでやってきた。

 営業はしていなかったが、鍵は開いていた。

 フミヤスと岡部、隆二は店内に入った。

 女性キャスト達は身を寄せ合い大型ビジョンに移されたテレビのニュース番組を見ていた。

 そこには歌舞伎町の空撮が映されていた。

 ヘリまで来たか……

 岡部は舌打ちし、言う。

「この人食いドラッグを売ったのは俺らの組だ、どうにかしたい、警察にはつかまりたくない」

「アイ! アイは居るか!」

 隆二は岡部を無視して自分の女を探す。

 呼ばれたアイは叫ぶ。

「こんなところまで来て! またシャブキメてるでしょ! ゾンビもあんたたちの組だって! もうやくざになんか関わりたくない!」

「俺と別れるつもりか……アイ……」

 隆二はアイの胸ぐらを掴もうとすると、横にいた女が間に入りそれを阻止する。

「邪魔だ!」

 隆二はその女を払いのける。

 女は叫ぶ。

「うるせぇ!」

 咄嗟に隆二は拳銃で女の足を撃った。

「きゃあああああああああああああ」

 アイ以外にも十数人の避難していた女キャストが全員叫んだ。

 岡部が叫ぶ。

「やめろ! 救急車が来たら俺らは捕まるぞ、そうしたら組まで潰れかねない」

 フミヤスは言う。

「救急車呼びます、隆二さんはシャブ抜けるまで休んでもうやらないで下さい、チャカも預かって置きます。

 岡部は頭を抱えていう。

「俺らは逃げるぞ……」

「こんなやつ殺しちまえばバレやしねぇよ」

 アイが覚める。

「もう本当に縁切るよ! 救急車呼んで!」

 そういわれて隆二は焦る。

「わかったなにもしねぇ、アイ、お前は俺らについてこい」

「ここの方が安全だし嫌」

 隆二はパアンあとアイの頬を叩いた。

「もう本当にイヤ……」

 隆二はアイの腕を引っ張り、無理やり店の外に連れ出す。

「岡部は言う、おいやめろ、救急車を呼んで俺らは歌舞伎町の合法ドラッグやのマンションに逃げるぞ」

 岡部、フミヤス、アイ、隆二は、ケセラを後にして、車に乗り込み、歌舞伎町の合法ドラッグ屋まで着いた。

 岡部は頭を抱える。

「感染源がばれたらここもすぐ見つかるな……」

 テレビでは空撮で歌舞伎町が上空から映されていた。

 ゆらゆら棒立ちの大勢の人たち、人食いになることはすでに知られていた。

 ネット上では既に合法ドラッグ、イノセントシンドロームのせいだと書き込みが何件もあった。

 組が終わる。

 隆二のシャブが抜けてきた、渇望が始まる、だが下足番のフミヤスは既にシャブをトイレに流していた。

「どうにかしろ……っ!」

 隆二はフミヤスの胸ぐらをつかむ」

「どうしようもありませんよ、クスリやってる場合じゃありません」

 隆二は腕を払い、椅子を蹴った。

 岡部は頭を抱えている。

「組長たちがまだ居るかも知れねぇ、一旦帰らねぇか」

 岡部は言う。

「俺はここにいる、君たちもここでおとなしくしてた方がいい」

「先生がそういうならそうするか」

「とりあえず酒だ」

 隆二は店のウイスキーと勝手にコップに注いで一気に飲み下す。

「で、先生、この事態はどうしたら収拾がつくんだ?」

「そのためにゾンビ殲滅用ロボットを作って送り込んだ、歌舞伎町は封鎖されてるから、歌舞伎町のゾンビを一掃すれば事態は収拾する」

「ロボットねぇ……それと、フリフリ着た空から飛んできた女の子はなんだ?」

「それが分からない……」

「先生にもわからないんじゃどうしようもないな」

 岡部はレシーバーで連絡する。

「どうだ九十九、調子の方は」


「」

「あなた! いったんやめて!」

 メリルは九十九に叫ぶ。

「そのやり方じゃ彼らの魂を救えない! ゾンビさんたちは私達に任せて! 魔法の力ならゾンビさんたちを天国へ連れていける!」

 そういって純はステッキをゾンビの群れに振る、すると20人位のゾンビが安らかに倒れた、

「マスター、今のは」

「見ていた、九十九が前に出るよりいいかも知れない、ゾンビの数も減ってきている、九十九、一旦帰れ」

「はい、マスター」

九十九は一階がコンビニの、3階、奥が精製所になっている合法ドラッグ屋まで帰った。

 中には誰も居なかった。

 岡部から連絡が来る。

「俺たちは西口のキャバクラに隠れてる、九十九は歌舞伎町周辺で待機していてくれ」

「はい、マスター」

「今のところはあの魔法少女を名乗る子にまかせておけ」

 九十九は考えることはせず、岡部の言葉に従った。


 「」

 純とメリルはトー横のゾンビをあらかた片づけた。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る