第11話 剣戟演舞。

数日後。


エイブラムとの協議を経て、アーサーとの念入りな打ち合わせを経て。

アーサーのクラスとの合同授業が実現した。



「なんでアタシらが新人君達と合同で授業受けなきゃなんないわけぇー?」

「剣術なんて基礎さえできてりゃ、後は剣の性能がモノをいう訳だしさ」

「魔法剣とかもあるしなー。何を今更って感じだよなー」


好き勝手言う落ちこぼれ連中に、見物に来た講師陣が失笑する。


「リリアの懸念が大当たりってところだな」

「なんかあいつら腹立つぅー。リリア大変ー」

があった後でもあの子達大して変わりませんでしたからねえ。喉元過ぎれば、ってところでしょうか」

「鶏頭」

「ティナ。鶏に失礼だぞ」

「このデモンストレーションがいい薬になってくれればいいんですけどねえ」


難しいだろうなあ、ってため息を吐いたところに、本日のメイン講師二人が華麗に登場した。


「えー、みなさん。本日は合同授業ということで。アーサーと私、リリアが剣戟のデモンストレーションを行います。あくまでもデモンストレーションなので、真剣でも魔法剣でもなく、授業でも使用する木刀を使いたいと思います」


なんだー木刀かよー、つまんねーなー、地味だよなあなんて言葉があちこちから聞こえてくる。主に落ちこぼれ組からだが。

だが、そんな言葉はきれいに無視スルーして、リリアは続けた。


「念の為結界シールドは張りましたが、危ないのでその場から動かないように! それじゃあ、始めましょうか、アーサー?」

「おう。打ち合わせ通りの型でいいな?」

「ええ。それでは!」


言葉が終わると同時にリリアは前へと一歩踏み出した。

その瞬間、リリアとアーサーの姿が消える。


「消えた!?」

「いや、違う! 上だっ!!」


その言葉に全員の視線が上を向く。

飛んでいるわけではない。魔法は一切使っていない。地面を蹴った勢いで飛び上がっただけだが、跳躍ジャンブ力が半端ない。空高く飛び上がった二人は、落ちるスピードを利用するかの如く剣を合わせる。

途端に空中で激しい剣戟戦となった。肉眼で追うのが難しい程、手数が半端ない。地上が近づくと合わせた木刀の反動を利用して身体を捻り、一回転させて音もなく着地する。

地面に足がつくと同時にお互い反対方向に飛び退き、今度は小さく地面を蹴って正面から激突した。空中戦よりスピードが早く、手数が多すぎて追えないが、打ち合う音だけはしっかりと聞こえてくる。

生徒たちが息をするのも忘れて見入っている中、講師陣はデモンストレーションを純粋に楽しんでいた。


「相変わらずのスピード感だな」

「アーサー腕上げたんじゃなぁい?」

「型が決まってるとはいえ、見応えがありますねえ」

「アレで抑えてるんですよねぇ、リリア」

「事前に決めた型通り動いてるだけだろうしな」

「最近は誰でも扱える便利な道具が増えましたからねえ。技術は性能で補えると本気で思っているようです」

「世も末だな」


生徒たちが固唾を呑んで見守る中、激しく打ち合っていた二人はピタリ、と手を止めた。一歩足を引き、剣を振り払って腰紐へと戻す。

お互いに礼をすると、リリアは生徒の方を向いた。

あれだけ激しい動きをしたのに、リリアの呼吸はほとんど乱れた様子がない。


「昨今、レベルに関係なく素人でも使える道具が増えてきてます。その事自体は素晴らしいことだと思いますが、道具に頼りきってはいけません。道具はあくまでも、道具です。道具は使うものであって、使われては絶対にいけません。便利な道具も使い方によっては諸刃の剣になりかねません。みなさんも、基礎を疎かにせず、しっかり剣術を学べば、最低でも今のデモンストレーションの半分の技術は習得できるはずです。頑張ってください」


デモンストレーションの衝撃が強かったのか、しーんと静まり返っていた生徒たちはリリアの言葉に我に返ったのか、パチパチとまばらに拍手をし始め、その拍手があっという間に大喝采になった。

興奮醒めやらない生徒たちが落ち着くのを待って、今度はアーサーが口を開いた。


「よし、では各自の実力を見たい。今から言う班に別れて手合わせをしていく。経験がある者、腕に自身がある者もいるかもしれないが、全員まずは基礎からおさらいしてもらう。先程の俺達の動きについていける自身があるやつがいれば、聞こう。名乗り出てくれれば、俺かリリアが手合わせしてやる。言っておくが、手加減はしない」


どこからも手は上がらなかった。







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