第7話 波乱のテスト 〜実技編〜

昼休みが終わり、だらだらと生徒が戻って来る。机の上に置いてある答案用紙を見てもなんの反応もなく、そのまま鞄にしまう人、机に突っ込む人、くしゃくしゃっと丸める人…まあ、ほんとにやる気がない奴らばっかだな、と小さくため息を吐く。


「今から実技のテストをします。今日は召喚術。正しい魔方陣、呪文、予定通りのものを召喚できるかをみます。事前に配っているテキストにレベル別の召喚方法が載っていますので、好きなものを選んでくれて結構です。ただし! くれぐれも! 自分のレベルにあったものを召喚して下さい! みなさんレベル1ですからレベル1の中から選んで下さいね。それでは、出席番号1番の人から順番に始めます。他の人はテキスト見ながら決めといてください。では始めます」


1番の人から順に召喚していく。時折魔方陣を書き間違えたり呪文を間違えておかしなものを召喚してしまう事もあったが、レベル自体は低いものばかりで十分魔に返せる程度であった為、滞りなく進んでいった。


そう。


18番まで、は。


「はい、よくできました。じゃあ次は19番の人」

「…はい」


そう言って立ち上がったのは銀縁メガネの前髪ぱっつんの神経質そうな顔の若者。そういえば筆記で唯一高得点取ったのこいつだったな、と思いながら魔方陣を描き終えるのを静かに待つ。


そう。


ここで気づくべきだったのだ。


いや、数分前にブツブツ言っていた彼の独り言を聞き逃していなければ。



話は数分前に遡る。



「みんな馬鹿正直にレベル1の魔物ばかり呼び出して、能力ない奴らばっかりだ。僕は高度な魔方陣だって難しい詠唱だって、簡単に覚えられるし描けるんだ。もっと高難易度の魔物を呼び出して先生も驚かせてやる。これで僕は卒業だ」



不幸にもこの時、彼の周りには必死に自分が呼び出す予定の魔物を探している奴か興味なさげにぼけーっとしている奴ばかりで、誰も彼の言動に全く、気が付かなかった。



そして、彼の番。



魔方陣が完成し、詠唱が始まる。


油断していたに他ならない。


もしくは順調に来すぎていたため、気が緩んだのかもしれない。


呪文のおかしさに気づくのが一瞬、ほんの一瞬、遅れた。


はっ、と気づいたときには遅かった。


止めようとしたが間に合わなかった。


詠唱が終わった瞬間。


今までとは全く違う気配が教室を覆った。


圧し潰されそうになるような威圧感。


彼が呼び出したのは…



レベル99の、魔物。



言うまでもないが呼び出した彼は、レベル1。


『ふははは、我を呼び出したのはお主じゃな? どうやら我らとキサマらの不文律を知らないとみえる。だがなあ、小僧。知らなかったは通らんのだ。己の無知を恥じてその命を差し出すがいいっ!!』


呼び出した彼は、金縛りにでもあったかの様に全く動けない。他の生徒もそうだった。凄まじい圧力に声すら出ない。

魔物が大きく叫び、攻撃を仕掛けようとした、まさにその時。


のんびりとした声が魔物の言葉を遮った。


「かっこよく登場したところを悪いんだけどさ。今日のところは魔界に帰ってもらえないかな?」

『何を都合のいいことを言っている。これは我と契約者の問題だ。汝には関係のないことだ』

「ところがどっこい、そういうわけにはいかないのよね。今さ、授業中なのね? 初めての召喚、って授業。私先生で、彼生徒。ほら、人間でも魔物でもさ? 誰にだって間違いの一つや二つあるじゃない? ここは私に免じて見逃してくれないかなあ?」

『何を言っても止めたところで無駄だ。我らと契約者との間に何人たりとも入ることはできん』

「いや、例外はあるわよね? どちらかの存在が抹消された時。私ね、あんた程度の魔物だったら一瞬で抹消できるんだけど、試してみる?」

『ふははは、無駄だと言っている。我と契約者の間には外部からの攻撃を受けないよう、シールドが張られておる。お主の攻撃など跳ね返されて終わりだ。その前に我がこいつを喰らう』

「だ・か・ら。私には、できるって言ったでしょ?」

ニコッと微笑んだ瞬間、リリアの気配が変わった。ゴオッっと音を立ててリリアの周りに風が纏う。

「あんたごときのレベルの奴が張ったシールドなんてね、簡単に破れるの。勝敗は一瞬で決まると思うけど、コレ授業だからさ? あんまり手荒な真似はしたくないんだよねー」

さすがの魔物も怯んだ。さっきまで自分と同レベルだと思っていた女のレベルが急に上がったからだ。この時のリリアのレベルは999。

『ま、まさかキサマっ…!?』

何かに気づいた様子の魔物に、その先を言わせない様、声を張り上げる。

「余計な事言わなくていいから! 帰るの、帰らないの、どっち!?」

『か、帰ります!!』

言うが早いか、魔物が忽然と姿を消した。威圧感も風も消え、教室内が元に戻る。

教室内の緊張が解け、生徒が落ち着くのを待って、リリアは口を開いた。


「魔物はね、あくまでも、魔物なの。人間が好きで人間と仲良くなりたくて召喚されて来る魔物なんていないの。魔物の好物は人間だもの。レベルが拮抗してるか自分より上じゃないと契約は結ばない。喰って終わり。中には人間を喰いたくて馬鹿な勇者や魔導師がレベルに見合わない召喚をするのを待ってる魔物もいる。今回来たような奴ね。魔物も言ってたけど、魔物と契約者の間には見えないシールドが張られて、外部からは基本手が出せないから。そのうちまた授業でやるけど、精霊だってそうよ? 魔物よりは好意的だけど、精霊は気位が高いの。自分を呼び出す資格のない奴にはとことん厳しいわよ。魔物と違って、精霊を消滅させるわけにはいかないし、リミッター解除し過ぎるとこの学校壊れちゃうから。以後、先生の言うことはきちんと守る事! いいわね?」


「「「はいっ!!」」」


その後のテストは緊張感を持って、滞りなく進んでいった。






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