第11話 鑑定
「ウォール君のアビリティは【盗聖】だって……」
「とうせい?」
「盗賊の盗に聖職者の聖だよ」
「なるほど……」
それって、なんか盗みの達人みたいだけど、悪くなさそうなアビリティだな。
「ねえねえ、ダリル、それどんな効果なの!?」
「どんな効果なのぉ?」
リリアとロッカも興味津々な様子。俺もそこが気になっている。ただ予想はできるんだよな。
「盗みに関するアビリティだろうから、モンスターからレアアイテムをゲットできるとか?」
「みんな、ちょっと待って。……んーと……これを使うことで、近くにいる対象から一番大事なものを盗むことができるって」
「「「一番大事なもの……?」」」
「ああ。物だけじゃなくて心とか能力とか命とか、なんでも一発で盗めるみたいだ」
「……」
何か言おうとしたが言葉が出てこない。それくらい凄すぎた。
「いいなあいいなあー。ウォールずるい!」
「ウォールお兄ちゃん、ずるい!」
「はは……」
それまでノーアビリティだったのが嘘のようにすっかり羨望の的だ。
「ウォール君……とんでもない可能性を持ったアビリティだよ、これ。どんどん情報が出てくる……」
どうやらまだ『鑑定』で情報を読み取ってる最中らしい。かなりの情報量っぽいな。
「ダリル、【盗聖】のランクもわかるかな?」
「うん。もちろんSランクだよ」
「「「おおっ……」」」
「ただ、Sランクといってもピンからキリまであるからね。これはその中でも上位に位置すると思う」
「そ、そうなんだ……」
Sランクってだけでも嬉しいのに、その中でもさらに上位だなんてな……。諦めなくてよかった。これでようやくみんなとダンジョンへ行ける。急がば回れと言われてはいたけど気にしてたんだ。遅れた分を取り戻さないとな。
「みんな、ありがとう……」
照れ臭くて小声になってしまったけど、みんな笑ってうなずいてくれた。
「よし、ついにウォール君にアビリティがついたことだし、明日にでもダンジョンに行くとしようか。今夜は祝杯をあげないとね。覚悟はいいかい?」
「う、うん」
ダリル、どれだけ飲ませる気なんだ……。
「その前にちょっといい? ウォール」
「り、リリア?」
なんか凄く悪人っぽい顔してるんだけど……。既にロッカが捕えられてるからなんとなく読めてしまう……。
「さあ、試しにロッカから何か盗んでみて!」
「ちょ、待てよ……」
「嫌だよ、怖いよぉ……」
「……」
そのつもりはなかったんだが、怯えて涙ぐむロッカの姿が嗜虐心を煽ってきて盗みたくなってくる。少しくらいなら……って、何考えてるんだ俺は。
「命とかだったらまずいし……」
「むー。それもそうね……」
「ふぅ……」
安堵した様子のロッカだが、リリアはがっかりした様子だ。
「あ、でも返却もできるみたいだよ」
ダリルが新情報を伝えてくれた。へえ、盗むだけじゃなくて返却もできるのか。それなら一度試してみても……。
「――あ、ロッカ、待ちなさい!」
いち早く逃げたロッカをリリアが猛スピードで追いかけて行った。まあ生き返るとしても、試しに死ぬような経験はしたくないよなあ。
※※※
「――うぷっ……」
さすがに飲みすぎて気分悪い。一番酒が強かったのはダリルで、どれだけ飲んでもちょっと顔が赤いくらいで平然としていた。
ロッカはリリアにたった一口飲まされただけで倒れてたからある意味凄いけど……。リリアもロッカほどじゃないもののすぐグロッキー状態になってしまって、前夜祭は早くも終焉を迎えようとしていた。
「ウォール君、ちょっといいかい?」
「あ、ダリル、もういいから……」
これ以上飲んだら死んでしまう。
「いや、お酒のことじゃないんだ。君のアビリティについて話したいことがある」
「俺の……?」
「うん。気になることがあってね。みんなの前じゃ言い辛かった」
「それって、どういう……」
「本当は君にも言いたくないんだけど……どうしても言わないといけないことだと思って。ウォール君のアビリティは強力すぎる。それを使いすぎると正気さを失う可能性がある」
「え……」
ダリルがいわんとしていることがなんとなくわかった。あの日のことを俺に思い出させたくなかったということも。
「できれば、一日に使う回数を最小限にとどめてほしいんだ」
「うん、わかった。そうするよ」
「あと……もう一つだけ」
「もう一つ?」
「……アビリティが強すぎるせいか、説明のところで僕の『鑑定』スキルでは見えない部分もあるみたいなんだ」
「まだ何か秘密があるってこと?」
「ああ。僕の『鑑定』スキルの熟練度はかなり高いほうだって自負してるんだけど、このアビリティクラスになると完全解読は難しい」
「そうなのか……」
「おそらく、【慧眼】っていうSランクのアビリティを持っている人じゃないと見られないと思う」
「【慧眼】って、確か心の中まで覗けるアビリティだっけ?」
「ああ。よく知ってるね」
「というか、俺の出身地のエイムトンで博士とか仙人って呼ばれてた人がそのアビリティを持ってたんだ」
「その人はまだそこに?」
「それが、大分前に自殺しちゃって……」
「……そうか。【慧眼】は相手の心の奥深くまで覗けるから、使いすぎて精神を病んだのかもしれないね」
「うん」
ダリルの言う通りのような気もするけど、どうして自殺したのか、真相は誰も知らない。自分の部屋で喉を突いて死んでいたそうだ。そういう死に方だけはしたくないし、ダリルの忠告通り【盗聖】を使いすぎないようにしないとな。
「靄の部分が何か気になる。【慧眼】持ちなんて滅多にいないだろうけど……もしそういう人がいるって噂があったら飛んでいってここまで連れて来るよ」
「うん。ありがとう、ダリル」
「……あ、ああ。ウォール君のためだから……」
「……」
中身がお姫様なのは知ってるんだが、それでも眼光鋭い男の姿で照れ臭そうにされるとどうにも変な感じがする。
「この姿が気に入らないなら、戻ろうか?」
「え、い、いや、そこまでしなくても……」
「ウォール君も男の子だからね。僕の配慮が足りなかった……」
気付かなかったが少し酔っぱらってるんだろうな。
「……ど、どうでせうか……うぷっ……」
「だ、ダリル?」
「……ご、ごめんらはい……酔ひが回ってきちゃひまひた……」
あっという間に潰れてしまった。あんなに酒が強かったのに。あー、そうか、元々下戸だったのが【反転】して強くなってただけなんだな。そりゃ元に戻るとこうなるわけだ……。
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