第45話 オフロード

「や、やるって何を?」


ドライバーの意図がわからず、柴田は聞き返す。


「1番近い町まで、50キロくらいだ。そこまで行けば、中継局があるから、通常の携帯電話が使える。」


シェリルにエマージェンシーブラケットをかけ、ハーネスで首を固定すると、ドライバーは、KTM690を引き起こす。

一通り確認すると、セルボタンを押し、エンジンをかけた。


ズボボボ・・・・!

荒野にエンジン音が響き渡る。


「マシンは問題ない。お前が町まで行って、携帯電話でヘリを呼ぶんだ。」


「ちょ、ちょっとまってくれよ!俺、荒れた道なんか走ったことないんだぞ、日本でも舗装路しか・・・。」


「バイクには乗れるんだろう?」


「ま、まあとりあえずは・・・。」


今回のラリー同行に柴田が選ばれたのは、「とりあえず、二輪の免許を持っているから。」というのもあった。

とはいえ、学生時代に、2輪の免許は取ったものの、せいぜい、スクーターで町を走った程度の経験しかない。

オフロードを走るなんて、全くの未経験だ。


「む、無理だ。50キロもオフロード走るなんて!そうだ!あんたが行けばいいじゃないか!あんた、ダカールに出るくらい、バイクに乗るのうまいんだろう!」


ドライバーは柴田の方を向くことなく、GPSを操作しながら、


「俺が行って、この子の様態が急変したらどうする?お前が処置できるのか?」


淡々と答え、マシンのスタンドを立てる。


「!?」


ドライバーは無言で柴田の襟首を掴み、マシンのところまで引っ張っていく。


「痛い!おい何を!痛い痛い!」


彼はグローブのような大きな手で、柴田の頭をわしづかみにし、ナビゲーションタワーについているGPSのディスプレイを柴田に示す。


「いいか。目的地の街までの座標を入力しておいた。お前はなにも考えずに、この矢印の通りに走ればいいんだ。」


口調は淡々としているが、そのドスの利いた声は恐ろしい。

GPSには方向を示す矢印と、町までの距離だろう。54.35KMという数値が表示されている。


「・・・でも。」


「いいか。お前が拒否しようが、そのまま逃げようが構わん。ただ、そんなことをして、この子が死んだら、俺はお前を絶対に許さん。この荒野でお前一人くらいいなくなったって、わからん。俺の言っている意味はわかるよな。」


頭を万力のような握力で締め上げつつ、つぶやかれる脅し文句に、


「わかったよ!やるよ!やればいいんだろう!」


ドライバーは、ピックアップに戻り、オンロードタイプのヘルメットと、カーキ色のワークグローブを持ってきて、柴田に手渡す。


渋々ながら、柴田はヘルメットをかぶり、グローブを装着し、エンジンがかかったままのKTMにまたがる。

車高が高く、柴田の片足のつま先しかつかない。


「頼んだぞ。お前にこの子の命を預ける。」


柴田はシールドをおろし、目の前の荒野に視線をこらす。延々と赤茶色の砂の路面が続く。


道なんかない。


「畜生!!!!」


叫んで、柴田は生まれてはじめてのモンゴルのオフロードを走り出す。











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