第60話 はるとの過去ー2
「昌樹おじさまが、はるとのお母さんと、はるとと一緒に住んだ?」
言われてみるとなんかおかしい。
「私の父と、はるとの母親は、大学時代にちょっと縁がありまして・・・。」
言いよどむ俊彦に、みずきが問う。
「えーっと、ぶっちゃけて言うと、つまり、はるとのお母さんは、昌樹おじ様の元カノ・・・。」
「まあ、そういうことです。父は私の母親とは離婚してましたし、知らない仲ではないから、一緒に住んだんですけど・・・。」
「・・・いやいや、そりゃダメでしょ。ダンナさんが死んで、元カレのとこに行っちゃ。しかも、お兄さんの元奥さんでしょ。そりゃダメよ。それに、弟さん亡くなって、すぐ一緒に住んだら、世間体が・・・。」
昌樹おじさまも、俊彦さんもいいよどむわけがわかった。そりゃ、はると、いろいろ考えるわ。
「まあ、父もはるとのお母さんも?そういうこと気にしないタチだったみたいで。ははは。」
「はははじゃない!!気にしろよ!そこは!」
ーーーーーーーーーーーーー
さっきまでハイスペックで、すごいと思ってた家族と思ってたけど、ちょっとこの人たち、ずれてる?
みずきは所在なさげに視線をさまよわす俊彦を睨み付ける。
「あ、あの、続けてもいいでしょうか?」
「はい、ぜひ続けてください。」
みずきはカフェオレを一気に飲み干すと、ずいっとテーブルの上に身を乗り出す。
一瞬、俊彦はひるんだ表情を見せる。
「そんな感じだったので、はるとは家にいづらかったみたいで、毎日、遅くまで、ジュニアハイから、ハイスクールまで、アメフト部のスチューデントマネージャーをやってました。」
「スチューデントマネージャー?」
「ええ、アメリカのハイスクールではよくある制度で、部のマネジメントを取り仕切る役目です。」
「日本の高校野球の女子マネ的な?」
「いえ、日本のマネージャーみたいな備品の整備とかもやりますけど、スチューデントマネージャーは、練習メニューを作ったり、試合の段取りを相手チームとやったり。コーチや監督みたいなことをやりますね。
強いチームだと、スチューデントマネージャーのトライアウトみたいなことをやる学校もあります。はるとも決して運動ができない方ではないですけど、その仕事に夢中になった。」
なるほど。スポーツマネジメントの仕事につきたいって言ってた起源はその辺だったんだな。
みずきは、あっちこっちに交渉して、自分の夢を叶えてくれた彼の姿を思い出す。
「はるとが指揮をとりはじめてから、チームはどんどん強くなった。地区大会の2回戦突破すればよいくらいのチームが、地区優勝の常連チームになった。」
「SeniorHigh・・・。あ、アメリカは、日本の中学3年生で、高校にあたるSeniorHighschoolに行く制度なんですが、Juniorの時のチームメイトも一緒に進学して、行った学校のチームもすごく強くなりました。」
ここまで話して、俊彦は表情を曇らせる。
「父も、はるとの母親もこの頃までにけじめをつけるべきだったんですが、ずるずると同居を続けてしまった。はるとの母親も、10代前半は東海岸で育ったそうなので、居心地もよかったんでしょう。そうして、僕の父と、自分の母親の暮らしぶりを見て、はるとには疑念が湧いてきた・・・。」
みずきは、はるとが時々言っていた言葉を思い出す。
「自分の父親は昌樹おじ様・・・。」
「そうです。もともと自分は、私の父の子供だったのに何らかの事情で、自殺した父親に預けられた。母親もグルになって、自分を騙している・・・。」
「成長するにつれ、はるともわかってきました。Seniorhighに行ってからは、バイクの免許も取ったので、機動力も出来て、父と、はるとの母親が以前に交際していたことも、どこかで突き止めたようです・・・。」
「さらに、Seniorhighの2年。アメリカの制度では、2年で高校を卒業するの一般的なんですが、地区大会の決勝戦。当日、選手が来なかった。」
「・・・。」
「このときの試合は、ある名門チームの傘下の学校が相手でした。名門チームが新進のチームに負けて、地区予選敗退するようなことは絶対に避けなくてはならない。そこで、そのチームのマネージャーが、はるとのチームの監督にささやいたんです。〈今度の試合を実施しなければ、そちらのチームの数人を、特待生としてうちの学校に受け入れる・・・と。〉」
「・・・ひどい。」
「このチームの監督も、はるとが指揮官みたいになっているのも、選手とうまくやっているのも面白くなかった。
でも、おおっぴらに試合は中止なんて言えない。
そこで、選手一人一人に個別に連絡したらしいんですね〈明日の試合に出なければ、お前は特待生として、名門校に行けるクチがあるぞ・・・。〉と」
「当然、選手は反発したらしいんですが、このチャンスを逃すのも、もったたいない・・・。とほとんどの選手が思ったらしいですね。
それで、各選手達が〈俺1人ぐらい行かなくても大丈夫だろう〉。と、それぞれ思って、当日行かなかった結果・・・。」
「誰も来なかった・・・。」
「そうです。当日、選手は誰も来なかった。信頼していた人たちに裏切られたはるとのことを思うと、本当に辛かったと思います。」
「結局、このことがきっかけで、はるとは学校をやめて、私の父とはるとの母親のこともあったので、アメリカを離れて、日本に戻り、あの高校の1年生に編入しました。
私は日本にいたので、彼の生活の基盤づくりを手伝いましたが、はるとは生活費以外は、全て自分で賄っていました。」
・・・そうか、高1であたしをバイクの後ろに乗せることができたのは、アメリカでの運転経歴があったのと、17歳を越えてたからか・・・。
みずきは8年前の、年齢よりは大人びて見えた彼を思い出す。
「そんなこともあって、はるとは日本でいろいろやり直そうと思ったみたいですが、また、つらいことになってしまった・・・。」
「私たちにももっと頼ってほしいんですが、父親と自分の母親のことも、まだ誤解したままです。あなたの契約の時も、騙しうちのように、父が行ったんですけど、結局まともに話せなかったようですし。」
みずきは、あの時、直ぐに席を立ってしまった昌樹を思い出す。
うしろめたい気持ちもあるかも知れないけど、昌樹おじ様もちゃんと話すべきだろう。このままの成り行きじゃ行けない。
みずきは考える。
「大体の事情はわかりました。」
そう言って席を立つ。
「NYで弁護士、それが自分でやりたいことなら、それでもいいけど、このままじゃダメですよ。」
みずきは俊彦の傍らに移動し、言う。
「あたしに考えがあります。神田会長に聞いたんですけど、昌樹おじ様って、バイクに乗れますよね。」
みずきは、ハンドルを持つ仕草をしつつ、俊彦に言う。
「ええ、若い頃は、モトクロスやっていましたし、今でもそこそこ走れるはずです。」
方針は決まった。
みずきは、俊彦に礼を言って、店を出ると、再び、大股でマンハッタンのビルの谷間を走り出した。
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