第49話  アフリカエコレース

宴が終わり、みなが去ったカフェで、僕は手越さんと二人でテーブルをはさんで向き合っていた。


「残って貰って悪かったな。明日も大学と試験勉強があるんだろう?」


「いえ、大丈夫です。明日の講義は午後からですし、試験はまだ先ですし。」


僕は高校卒業後、初めてのモンゴルラリーの時に思い付いた、みずきのダカール出場はもちろん。モンゴルをはじめとした海外ラリー参加者のサポートを行う、株式会社ダカールの役員と共に、某国立大学の法学部に籍を置いている。


しばらくは会社の役員と大学生をやって、司法試験に合格・・・。スポーツマネジメントをするためには、法律上の知識が必要であるのと、アメリカでは、契約交渉の際には、弁護士が契約交渉の窓口になるのが一般的・・・。。という状況をみて、将来的には日本とアメリカで弁護士資格をとっておこうと思っている。


「ここしばらく、リカルドと連絡をとっててな・・・。」


手持ち無沙汰なのか、手越さんはタバコを取り出し、くわえた。

思い付いたように、「いいか?」のジェスチャーを僕に送り、僕はうなずく。


「この数年、君たちを見ててな。」


そういって、タバコに火をつけ、一息吸い、煙を吐き出す。


「火がついちまったんだよ。」


タバコの先の赤い光を見つめつつ、手越さんはつぶやく。


「火がついていまいましたか。」


手越さんの言わんとしていることをなんとなく察した僕は答える。


「ああ、行くつもりだ。」


「・・・。」


「アフリカに・・・。アフリカのダカールに・・・。」


「・・・アフリカ・エコレースですね。」


「ああ、だ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


『アフリカエコレース』


ヨーロッパをスタートし、地中海を渡ってモロッコから本格的なステージが始まり、サハラ砂漠を越えてセネガルの首都ダカールの海岸にゴールする。

かつての『パリダカ』とほぼ同じルートを走るこのラリーは、2008年。ダカールラリーが南米へ舞台を移した後、『パリダカ』のテイストを再びアフリカで。という理念で、かつてのパリダカの英雄達、4輪のジャン・ルイ・シュレッサーとルネ・メッジ。

2輪のレジェンドである、ユベール・オリオールらによって開催された(オリオールは、ダカールラリー主催組織のASOに提訴され、後に離脱。)


「エコレース」という名称から誤解されがちだが、このラリーは低燃費を競ったり、非化石燃料車を主役にしたものではない。「エコ」が意味するのは、大量消費や開催地の自然環境、社会・生活環境を無視したラリーではなく、共存と持続可能性を強く意識したラリーを目指すことで、ラリーが開催されることで得られた収益で、小学校や図書館を設立したり、生活環境の改善に寄与するなど通過地域に貢献。また、ビバークでの太陽光発電の利用を進めるなどの取り組みが行われている。

一方、競技そのものは、純粋な「レース」だ。


かつてのパリダカのように、いくつも国境を越え、サハラ砂漠、モーリタニア砂漠を越えていく、概ね2週間。6500KMの日程の厳しいものだ。


ゴールがダカールであることから、かつて、「パリダカ」を目指した世代のアマチュアライダーには、近年では南米ダカールよりも人気が高い傾向だ。


パリダカと同じく、ダカールをゴールにすることから、南米で開催されるダカールと区別して、〈リアルダカール〉とも呼ばれる。


「リカルドのチームでマシンを用意して出場する。1回で完走できるかわからないから、長期戦になるかもしれない。」


手越さんは店名が入った灰皿にタバコを押し付け、


「だから、会社の業務にも支障がでるかもしれない。はるとにも迷惑かけるが・・・。」


「大丈夫ですよ。僕はまだまだ余裕がありますし、ここしばらくの手越さんを見てて、なんとなく、察しはついてました。」


僕は冷蔵庫から、バドワイザーの瓶を2本取り出し、栓を抜いて、1本を手越さん渡す。


「乾杯しましょうよ。」


僕は手越さんとカチリと瓶をあわせて、言う。


「RealDAKARに乾杯。」








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