第37話 手打ち
翌日は休息日だったので、スタートはない。
ここまで走ってきたマシンの整備を手越さんとしていると、青い〈ハマー〉がビバークにやってきた。
バイクで参加しているモンゴル人の息子のサポートをしている年配の男性と、そのライダー、他数人がハマーに向かっていく。
すると、ハマーから蹴飛ばされるように、数人の若い男が出てきた。
続いて、ハマーから出てきた屈強な、相撲取りのような男たちに年配の男性の前に引っ立てられる若者数人。
すると、年配のリーダー格の男性が、一人一人の顔を確認したうえで、僕たちの方を向く。
そのしぐさを合図にしたように、車から降りてきた屈強な男たちが、昨日のコンボイのリーダーだった〈長老〉とこちらへ一斉に向かってきた。
「なにごとだ!?」と小山のような男たちの進撃に焦っていると、そのなかの一人が、
「昨晩、おまえの連れに、非礼をはたらいた連中を連れてきた。見分をしてもらいたい。」
と僕に言ってきた。
◇◇◇
「そうね。この人たちだわ。」
みずきを立ち会わせ、顔を確認させると、昨晩、みずきに悪さを働こうとしていた一同ということだった。
彼らの服は破け、顔にはあちこち、殴られたような痣があった。
〈長老〉が言う。
「俺はこのラリーには第1回から参加している。このラリーのボスには30年世話になってる。だから、このラリーの参加者に害をなす奴は絶対に許さない。」
昨日のコンボイと同様、モンゴル人は、とにかく年長者を大事にする。というよりも、畏れ、敬い、命令には絶対に服従する。
昨夜、みずきのことを聞いた、〈長老〉は、配下の若者に一斉にふれを出し、みずきに悪さをしようとしたやつらを見つけ、連れてくるよう、指示を出したらしい。
すると、ある町で〈KTMのシートと、ピンクのヘルメットを雑貨屋に売りに来た連中が居た。〉ということが、彼らの情報網にかかり、お縄・・・。となったようだ。
屈強なモンゴルのライダーや、ドライバーたちにボコボコにされ、若者たちは見るも無残な風体だった。
「お嬢さん。悪かった。こいつらには俺が制裁を加えておくから、許してほしい。」
と言いつつ、長老の脇に立つ若者が、シートとヘルメットを差し出した。
その間中も、彼らは、殴られ、蹴られ続け、涙とよだれにまみれ、うなだれた表情は、みじめこのうえない。
そのあまりの惨劇具合に、
「ああ!もう、わかりましたから。あたしも、なにもされてませんし、もう、許してあげてください!」
みずきがたまりかねて、叫んだ。
「本当にそれでいいのか?あんたが望むんなら、草原の石に一週間括り付けといてもいいし、おれの知り合いに、1ヶ月監禁して、無償で働かせる罰を与えさせてもいいんだぞ?」
その言葉を聞いた若者たちは、一斉に表情をこわばらせる。
手越さんに通訳されると、
「だいじょうぶです!本当に、もう、許してあげてください!」
あまりにもぞっとする罰を無表情で言う長老に、みずきはもういい。と伝える。
「お嬢さん。あんたは、モンゴルは何回目かね?」
「初めてです。」
「そうか。じゃあ、これでこの国を嫌いにならないでほしい。どんな国にもいいやつもいれば、悪い奴もいる。その悪い奴を徹底的に改心させるのが、俺たち年長者の義務だと思っている。もう、こんなことはさせないから、また、この国に来てほしい」
そういうと、長老はみずきに、握手の手を差し出す。
「大丈夫です。あたしはこの国も、この国の人たちも嫌いになんかなってません。大好きですよ!」
手越さんの通訳と同時に、みずきは両手で長老の手を取る。
「そう言ってもらえるとうれしい。」
若者たちはみずきの前にひったてられ、「オーチラーレェ」と謝罪をした。
みずきは、彼らに、「めっ」と目くばせをした後、「OK!」と言って、手を振った。
これで、手打ちだ。
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