第34話 乙女のピンチ

「これは大分エマージェンシーね。」


あたしは いきなり襲ってきたに、全身から冷や汗が出るのを感じた。

このエマージェンシーで、致命的なトラブルを解決できるであろう、SSゴールのある、次の町までは、ルートブックによると、あと100キロほど。

町に行けば、致命的なエマージェンシーなトラブルを解決できるがあるはずだ。

今いる場所は、見渡す限りまっ平らな草原だ。

ここで、致命的な事態になったら、まずい!絶対にまずい!

今のペースなら、多分、1時間半弱で、到着できるだろう。でも、それまで、

考えている余裕はない。

こうしている間にも、致命的な事態へのカウントダウンは進んでいる。


「やるしかないわね。」


あたしは呟くと、450RALLYのスロットルを引き絞る。

ギャップに跳ねられたマシンは、フロントタイヤを跳ね上げてフル加速に移る。


前走車に追い付く。


相手も450RALLYだ。

でも、かまわない。

ホーンを鳴らして、こっちを確認したのを見計らって、一気に追い抜く。

モンゴル人ライダーが、驚いたような仕草を見せるが、構わない。


はわかってる。

CPの近くにあったゲルの女の子が、ボウルに入れて、持ってきてくれた、羊のお乳。〈羊乳〉だ。

手越さんにも、やめとくように言われてたのに・・・。


あと30キロ。

もつか。


さらに、4輪の前走車。

ぶち抜く。


あと20キロ。

やばいわ。


あと15キロ。

あたしは、もう、限界に達したことを知った。

ここは今までと変わらず、360度の地平線が広がる草原だ。


・・・でも、もう・・・。ダメだ。


あたしはあきらめて、ピストから外れた。

多少、離れても、意味がないことはわかっているが・・・。


さらに、運悪く、ヘリコプターの爆音が聞こえてきた・・・。


◇◇◇


「はると君よ。見ろよ。このリザルト。」


3日目のスタート前。大会本部ゲルに張られたリザルトを見て、僕は驚く。


「昨日のSSで、みずきが2輪部門8位!?」


地元のモンゴル人ライダーを数人抜いての、ベストテン入りに僕たちは驚く。


そこへ、なにか呆けたような表情のみずきがやって来た。


「すごいじゃないか!みずき。ベストテン入りだぞ!」


「・・・ふん。そのくらいで驚くなんて、は、まだまだガキね・・。」


「み、みずき?」


「あたしはね。昨日、オトナの階段を上ってしまったの。もう、乙女には戻れないのよ・・・。」


「・・・?」


なにかを悟ったような表情のみずきに、僕は手越さんと顔を見合わせる。


僕たちの様子を見ていた、オフィシャル数人も、僕の視線に気がつくと、目をそらす。


なにがあったのかわからないまま、僕たちは 車両保管所パルクフェルメに向かう、みずきの背中を見送った。

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