第31話 モンゴルラリースタート
チンギス・ハーンホテルのエントランス。
大きな屋根の下に、お馴染みのスタートゲートが設置され、ゼッケン1のマシンが進んだ。
このラリーに何度も優勝している、モンゴル人ライダーだ。
彼は家族らしき、老若男女の数人と写真撮影を行うと、モンゴルの民族衣装に身を包んだ女性が彼のマシンに馬乳酒をかける。
セレモニーが一通り終わると、白いジャンプスーツに身を包んだ、このラリーのボスのカウントダウンが始まる。
すべての指を折り、手をあげると、彼のKTM450RALLYは歓声と拍手の中、スタートしていった。
「で、GPSの件は大丈夫だったのかい?」
ゲートの外からスタートの様子を眺めつつ、手越さんが僕に声をかける。
ラリーで使うGPSとは、カーナビのように案内をしてくれるものではない。
ルートはあくまでも、〈ルートブック〉で記されて行くが、ルートを見失ってしまった場合、目標のない荒野を行く、海外のラリーの場合は、CPやゴールにたどり着くのはかなり困難になる。
そのため、主催者側から、1日に数ポイント分の緯度経度を示したシートを渡されるので、それを事前にGPSに打ち込んでおく。
ルートを見失ってしまった場合は、そのポイントを設定すれば、GPSはそのポイントまでの直線ルートを示してくれる。
そういうことなら、ルートブックを無視して、すべてそれで走ればいいのでは?と思えるが、直線ルートの途中に越えられないような山があったり、GPSポイントはすぐそこなのに、断崖絶壁があって到達できない・・・。なんてこともあるので、GPS走行は、あくまで非常時のものとしてとらえるべきではあるが、その際、使い方を知らなければ、どうしようもない。
「まあ、僕も教えましたし、ブリーフィングの時にGPSの講習会もありましたんで、大丈夫だとは思います。」
そう言っているうちに、みずきのスタート番になった。
ゼッケンは11番。
いつものピンク系のウェアと、青と赤のマシンは、今一つ、カラーリングが合わないが 、モンゴルのナショナルカラーのマシンの登場に、地元観衆は大盛り上がりだ。
ラリーがスタートしてからの撮影は、柴田氏が行うが、ここではテレビクルーが、みずきのスタートシーンを撮影している。
すっかり、みずきを気に入った元横綱も、マシンにまたがるみずきと並び、記念撮影をしている。
モンゴルの英雄の登場に、観衆はさらに盛り上がる。
「しかし、本当に、どこに行っても目立つコだよなあ。」
「そうですね・・・。」
大勢の人に囲まれ、歓声を浴びるみずきを見て、僕はちょっと複雑な気持ちになる。
時間となり、みずきはスタートしていった。
ーーーーーーーーーーー
初日とはいえ、今日はリエゾンが522キロ。
スペシャルステージが205キロという長丁場だ。
四国のラリーのように、平均速度が上がらない山道を走るわけではないし、リエゾンは舗装道路を走ることが多いので、到着時間はそれほど遅くならないだろうとは思う。
「よし。俺たちも行こうか。」
白に赤の歌舞伎の隈取をモチーフにしたというカラーリングを施された、巨大な〈日野レンジャー〉カミオンを最後に、全エントラントがスタートしたところで、僕はサポートメンバーの移動のためのランクルに乗る。
経済成長著しい、モンゴルの首都ウランバートルの大渋滞の街を抜け、西へルートを取る。
天気は晴天。
モンゴルと言えば、ほとんどの日本人がイメージする、大草原の真ん中を貫いていく舗装路を、僕らのサポートカーは進んでいく。
緊張と、はじめてのモンゴルの景色に、興奮気味の僕を尻目に、常連のメカニックや 手越さんは寝てしまった。
4300キロ。
8日間におよぶ、僕とみずきのモンゴルラリーは始まった。
※このお話しに出てくる〈ダカールラリー〉やその他のラリーの開催地や競技フォーマットについては、2011年から2018年のものを指針としています。
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