絵に描くように独り立つ
孤高の〜という表現が芸術の世界ではしばしばなされる。先般のイラスト・コンテストの審査委員長で僕も敬愛するイラストレーターの仲間先生もそう呼んで差支えない一人だ。
「気が付いたらあなたしか描けていなかった、というのが理想でしょうね」
授賞式の後の立食パーティーで僕にそうアドバイスして下さった言葉が今になって身に染みてくる。
僕は決して孤立するつもりなんてなかった。小学校でいじめられている時だって、もし『許して』と乞うて本当に許して貰えるのならばいくらでもそうしたと思う。でも許して貰うという問題ではないだろうと理解していたので単にしなかった、というだけの話だ。
「
「はいはい」
まあ今の生活じゃ
この間の唐辛子・バイオテロ事件以来
「Midさん」
「あれ」
電車の中での遭遇。
Girlちゃんと。
「学校の帰り?」
「はい。Midさんは?」
「営業車が車検でね。今日は電車で営業。佐藤とは珍しく別行動なんだ」
僕とGirlちゃんは並んでつり革につかまり、いわゆる『世間話』というやつをやった。
「Midさんって音楽とかよく聴くんですか?」
「え。うーん、高校の時なんかはよく聴いたけど最近はあんまり。Girlちゃんは?」
「わたしは結構聴きますよ。古い物も新しい物も」
「へえ・・・古いのは誰?」
「YMOとか」
「うわ!僕もよく聴いたよ。何が好き?」
「RYDEENとか」
「おおおー」
けれどもそこから思わぬ話になっていった。
「Midさん。今の最先端の音楽がどうなってるか知ってます?」
「えっ。さあ・・・どちらかというと耳慣れたものしか聴かなくなってるから」
「寄り集まるんです」
「寄り集まる?」
「はい。今最もバズってる・・・あ、わたしバズる、って言葉あまり使わないようにしてるんですけど、でもすごく拡散されてるのは芸術を専門に勉強してきた人たちなんですよ。それで様々な理論を駆使してより広まる楽曲を創ろうと」
「ふーん・・・まあ、YMOも坂本龍一さんは『教授』なんてニックネームだったぐらいだから。そういうのもアリなんじゃないのかな」
「はい・・・でも・・・『群衆』って芸術の対極にあるような言葉だって思ってました」
「Girlちゃん?」
「Midさんがそういう感覚じゃなかったらすみません。わたし、もし音楽や絵が誰のためにあるのかって訊かれたら、『わたしだけのためにあって欲しい』、って思うんです」
ああ。大晦日に原宿のカフェでGirlちゃんと
佐藤は『Girlちゃんだけの女になるっ!』ってカッコよかったな。
「Midさん」
「うん」
「芸術って、恵んであげるものじゃないですよね」
うおっ。
なんて表現をするんだ、この子は!
「Girlちゃん。それはとても繊細な問題だね。現実を言うと『作品をありがたく思え』っていう創作家は少なからずいるよ」
「そうなんですか・・・」
「僕だってそういう部分がゼロとは言い切れない」
「それは!・・・そうですよね。そういうことが自信につながるのかもしれませんよね・・・」
「でもね、Girlちゃん。自分の才能だけで創ってる内は必ず天井に突き当たるよ」
「天井、ですか?」
「うん。僕があの灯台の絵を描けたのは、死んだ画家のお蔭さ」
「あ。九段下の画廊の息子さんですね。以前お話ししてくださった」
「そう。とてもストレートな言い方をすると彼は日本中を旅して回って売れない絵を描き続けた。それが彼の人生だった」
「・・・はい」
「だから、僕のココロに火がついた」
「えっ?」
「バカと思うかもしれないし、それは僕の不遜かもしれないけど、彼の人生をなんとしても多くの人の眼前に晒したかった。もっと言うとね、僕は彼の人生を喰らってでも自分の絵を世の人たちのココロにねじ込みたかった。Girlちゃんは分かってくれるかい?」
「わかりません」
そうだろうな。
「わかりませんけど、ねじ込まれました」
「えっ」
「Midさんの迫力に、わたしのココロが屈しました。Midさん。やっぱりわたしはあなたが好きです」
「・・・・・・」
「わたしは、あなたが、ほんとに、好きです」
喋らないまま互いの駅に着いて、喋らないまま下車した。
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