第1話 スタートライン
こないだの血液検査の結果が。
「あー、数値が……数値が……」
私はものつくりに入る前に必要だ。十分な糖分摂取が。
急に気になりだすいつもの定番。
ロイヤルミルクティーに砂糖三杯は甘すぎたろうか。
最高四杯で、薄めて飲んだらまずかった。
今では一杯だろうが二杯だろうがロイヤルミルクティーならよしとすることにした。
ずうっとお世話になっているのだ。この男にも。
「こんな時間に」
「スワロフスキーって言ったろ。いつまでに必要とか言わないから」
それはあなたが最後まで話をきかないせいであって。
「まだ完成前よ」
「おまえ、年を考えろ、年を」
完徹くらい、何でもないのよ。
「置いて帰って、スワロフスキー」
「三千円」
「何粒ある?」
「五粒」
ならいいわ。
「そこに置いていって」
「ここまでしているオレに興味なし!? 茶ぐらい出せ」
「だれがあんたなんかに。お財布は空だし、年金入ったら出す」
「ならいいだろう」
深夜の0時。そっと体重計のほこりを拭いた。
乗ってみたら、懐かしい感触。
「あ、60キロこえてる」
マイペースでずさんな健康管理をしてたせいだ。
糖分と夜更かし。毎日なので余計に太るわけよ。
均整のとれた体は、今日までの不摂生でズタズタになってしまっていた。
今の私はアクセサリーをつくるのに夢中になっている。
以前はつけるのに時と場合を選ばない、淡水パールのコサージュなんかをつくってた。
バザーや、毎日曜ごとのフリーマーケットに出品しているけれど、売り上げはボチボチ。
今年は、ううん、と、いうよりかは、私の今はシルバーだ。
世代がシルバーじゃなくて、彫金の方。
ミカンのヤツは、この年で、その年でとうるさくいうが、ヤツだって幼少から手にしていたお三味線を捨てて、アコースティックギターを習い始めた口だ。
やりたいもんはやりたい。
いくつになったって三つ子の魂は変わらないのだ。
株主優待券で参加したツアーで、工場を見学したけれど、一人前の仕事が任されるようになるまでは十年以上かかるらしいと説明を受けた。
けれど、この年になって、他人の制止で止められるほど、時間は残されていない。
今やらずに、いつやるのだ。
油絵やってて金箔つかいたいと思ったけれど、無理そうだからあきらめた私だけど、彫金なんて、金箔よりもよっぽど下積みいるけれど、やらずにおいて死ぬもんかと思う。
百歳になってようやく一人前なら、むしろそこからがスタートラインだ。
百歳まで修行が必要? OK.OK.
だって私は、この場所で、この道で、真剣に生きていく以外、ないのだから。
意地を張って言うわけじゃない。
技を磨くっていうのは、自分の内面と向き合う作業だ。
己を磨くっていうことだ。
だから、何歳になったって、やめるわけにはいかないんだ。
おまえはしょせんそこまでだと、誰に言われたとしても、もう今更止められない。
どこまでだっていいじゃない。高みを目指そうよ。そして私だけの世界を創り出す――それが、今の私の夢なんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます