第248話 李信対覇王妃  (37)

 立ち上げれば彼女自身の横──。逃げることもなく彼女の横で嘶きしながら大人しく立つ葦毛の馬。と、言っても? 良く競走馬に使用されるサラブレットとのような容姿の整った馬ではない。


 そう? 以前にも説明をしたと思うのだが。始皇帝の慕梁辰で発見された兵馬俑仕様の怪馬なのだが。拍殿が落馬──。怪馬の横で『ドスン!』と、大きな音を立てて尻餅をついても。驚愕して、この場を立ち去ることもなく。主人である拍殿と一人一匹と並んで、覇王妃さまと秦の黒騎士李信との激しい攻防戦を鑑賞していたのだ。


 だから不思議でならいないのだ。と、言いたいところなのだが?


 只今の三人の会話……。


 そう? 武信君こと梁さまと覇王妃さま。そして拍殿、項家家族の会話を敵である李信も? 今迄自身と、お互いが武功を立てるために荒々しく争っていた覇王妃さまへと争いを中断……。三人の会話を物静かに聞いていたから不思議でならないのだが。覇王妃さまは? 母と姉との会話……。


 そして? 拍殿が愛馬へと騎乗──。乗り終え梁さまの許へと走り出す様子を確認すれば。


〈ガン! ガン! ガン!〉と。


 自身が握る方天画戟を振るい──。そして、李信へと叩きつけながら。


「李信! この度の勝負はここまでだ! 継また会えば! 槍を交えよう!」と。


 覇王妃さまは微笑みながら、秦の黒騎士李信へと告げる。


 ……だけではい。そのまま覇王妃さまは、李信へと「さらばだ~! 李信~! また会える日を楽しみにしているぞぉ~!」と、告げて。自身の跨る巨大な怪馬『騅』と共にその場を後にしたのだ。


 風と共にね。



 ◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る