第77話 謎の少女の正体は?(1)

「ふぁ~ああ~。眠たい~」


 あらあら籍は、大きな生あくびを漏らしているよいだね。毎晩の如く、ではなくて。毎夜毎夜と己の枕元に立ついわくつきの物の怪、お化け……。




 と、言っても。古の英霊、精霊さまと言う奴でね。


 その名は、中華四千年最強の武士(もののふ)、一騎当千万夫不当の強者であり将軍さま……。




 そう、【楚】の元祖覇王項羽が、籍の枕元に立ち──だけならいいのだが?



「チュキ、チュキ、籍、儂はお主のことを愛している~。だから~。儂をお主の側においてくれ~。頼むよ~。籍~。お願いだから~」と。


 彼の枕元に立っては、なくて?



 籍に添い寝……。




 そう、彼の横で添い寝をしている拍や梁のことを、『うんとこ、しょ~、うんとこ、しょ~』と、掛け声を叫びながら、ではないからね。


 籍の横で、添い寝をして熟睡をしている二人に対して、ダークエルフの精霊覇王妃さまは、己の歌──。



 そう、生前の覇王項羽の妃であった【虞美人】にも劣らぬ、声と喉を使用して魔法の歌──。特定の人物を深い眠りへと導く歌を唄いながら詠唱を続け、朝──。早朝まで二人が深い眠りから覚めないようにすると。


 今度こそ、『うんとこ、しょ~、うんとこ、しょ~』と、掛け声を心の中で呟きながら。籍の二人の妃を移動──。



 その後は、やはり。各国で古から伝わる怪談話のヒロイン達みたいに、己の主の生気と精気を吸い尽くしてあの世へと……。





 そう、黄泉の国と呼ばれる世界へと帰還するのだよ。満足そうに、何度も昇天して帰還を果たす。


 だから籍は、このように不眠症……眠たく致し方ないのだ。

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