第445話 無慈悲な要求
それから、ほんの数秒後──。
『──……? ここって、もしかして……』
『魔王の、中? どうして私たちを……』
転移先は、やはりというべきか魔王の体内。
数十分前に望子、カナタ、ローアの三人が肉の壁の掘削に取り掛かり始めた場所の座標を指定して転移した事もあり。
言うまでもなく、そこに望子の姿はない。
勿論、カナタの姿もだ。
後者については探してもいなかったが、それはさておき。
そもそも何故、既に命を落としてしまっているウルの亡骸まで含めた自分たちを、ただでさえ戦力不足で形勢不利極まる戦場から離脱させたのかとハピは問うたのだが。
「最早、一刻の猶予もないゆえ疑問への解答は差し控えねばならぬ。 代わりに、戦闘を中断させてまでこの場へ転移させた理由を明かそう。 結論から申せば、お主ら二人には──」
今この瞬間も〝外〟で戦っているだろう仲間たちの事を思えば押し問答している時間などある筈もなく、ローアは速やかに
「──この場で命を、散らしてもらいたいのである」
『『……はっ?』』
あまりにも、あまりにも無慈悲な要求を口にした。
小難しい言い回しだが、つまりは『死ね』と──。
『な、何を言って……どうして私たちまで死ななきゃ……』
ウルが死んでしまった事実を隠し切る事など出来よう筈もなく、カナタが言う〝蘇生手段〟についても全てを信用している訳でもない身としては、これ以上の心的負担を望子にかけたくないと思っていた矢先の要求に、ハピは動揺する。
望子の為に命を懸けるという意味では確かに、いつ死んでもいい覚悟をしていたのは間違いないものの、だからといって何の説明もなく『死んでもらう』と言われて了承出来る訳がないだろう、という当然の反論を試みようとする一方。
『……まさか、今さら寝返る気? それなら今ここで……』
『ちょ、ちょっと! 貴女は貴女で話が飛びすぎよ……!』
望子の所有物かつ勇者一行の主戦力であるぬいぐるみたちの命を貢物として、かの恐るべき魔王を相手に助命を嘆願するつもりではないのかと、フィンは苛烈な殺意を放つ。
事ここに至ってもなお、ここまで共に旅をしてきた仲間を疑い、望子の障害となり得るならば〝敵〟へと認識を変えて殺害まで視野に入れる事が出来るのがフィンという
たとえ、その相手がウルやハピであったとしても。
「否、断じて否である。 信じ難くば、言い方を変えよう」
しかしローアは自認が〝望子のお友達〟であり、魔族でさえなくなった以上、そこに望子への翻意など欠片もなく。
それを信じてもらうべく、この二人に刺さる様に──。
「お主らが命を散らさねばならぬのは、
『なッ!?』
全ては望子の為だと念を押してきたローアに、ハピは何度目かも分からない驚きの感情を露わにせざるを得なかった。
『……』
何かを思索するかの如く視線を外したフィンをよそに。
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