第443話 馬鹿な犬
「フィン! 単独での特攻は……ッ!」
この場において、ぬいぐるみたち自身を除けば最もフィンとの付き合いが長いレプターも、そんな事は当然の様に理解していたが、それでも相手は世界を支配せんとする超巨悪。
如何にフィンといえども、これまでの戦いと同じ様な何の策もない吶喊で勝機を見出せる訳がないと分かっているがゆえの制止を口にしかけたものの、それを受けるまでもなくフィンは魔王を前に──……力なく、ほんの少し口角を上げ。
『……本当、馬鹿な犬。 もう少し粘ってれば、みこが内側から魔王を殺してくれてたのに。 これじゃあ、みこが哀しんじゃうじゃん。 〝わたしがもっとはやくやれてたら〟って』
『ッ、フィン! 貴女……!』
明らかにウルの死を侮辱している様にしか聞こえない嘲りの言葉や、この場に居ない望子への心配を呟くという、どう聞いても仲間が吐いたものとは思えないセリフの数々に、ウルの遺体を抱えたままのハピは苦言を呈そうとしたが。
そんなハピの苦言は紡がれる事なく漆黒の空へと消える。
『……みこを元の世界に帰してあげるまで、一緒に頑張ろうって約束したのに……何で、勝手に死んでんの……ッ!』
『フィン……貴女、本当は──』
涙こそ流れてはいないものの、ほんの僅かに震える声音はウルの死を悼む感情を確かに思わせ、それを聞いたハピの方が涙を流し、ウルの死を受け入れざるを得なくなっていた。
……ウルとフィンは、そこまで仲が良い訳ではなかった。
望子を大切に思っているという、その一点を除けば寧ろ犬猿の仲とも言うべき──犬と猿ではなく狼と海豚だが──関係であり、ともすれば険悪とさえ言える間柄だったのだが。
今のフィンを見れば分かる様に、どうやらそこには恋とも愛とも違う、確かな〝友情〟があった──のかもしれない。
……しかし、そんな事が魔王に関係ある筈もなく。
『貴様の様な怪物に〝悲嘆〟や〝愁傷〟といった
『……そうだよ。 だから、お前を殺すんだ』
『そう来なくてはのぉ!!』
ここは戦場、死者を悼んでいる暇などないというのは正論という他ないが、さりとて己と同じなどと勝手に共感してきた魔王の言葉を流す事も赦す事も出来なかったフィン。
本来の力である水や音ではなく、コアノルも有する闇の魔力や神力にて〝毒で以て毒を制す〟を地で行こうとしてきた最凶の
「──待った」
『はっ?』
『んん?』
フィンの背後に突如として現れ、その華奢な肩に手を添える形で闇と闇の衝突を一瞬とはいえ止めてみせたのは──。
『ロー、ア……?』
今も魔王の体内に居る筈の元魔族、ローアだった。
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