第428話 撃て!!
キューの号令が轟いた瞬間、全員が速やかに動き出し。
『ミコ! カナタ! 準備はいいな!? 覚悟決めろよォ!!』
『ッ、うん!』
「お願い……!」
大砲を発射する役割を担う六人が実際の大砲における尾栓の辺りに集合する中、こんな状況下にあっても望子を信じているからか、それとも望子を不安がらせない為か笑みを浮かべて激励を飛ばすウルに二人が頷いた後、全員が位置についた事を確認したキューは思い切り息を吸って。
「
『うあっ!?』
「く……ッ!」
「う"ッ!? お、おォォ……ッ!!」
発射を指示する号令を叫んだ瞬間、ウルを始めとした六人が各々の役割を全うして結界で創造された砲弾を途轍もない速度で撃ち出し、レプターが肩代わりしていてもなお響く衝撃をオルコが強靭な肉体で支え切る事で、ついに望子とカナタの発射に成功。
……当然ながら、その衝撃と轟音は魔王にも伝わり。
(……? 何じゃアレは、何を撃ち出し──)
ポルネの声とウェバリエの呪毒によって満足に動く事は叶わずとも、視覚を始めとした感覚全ては正常に機能している為、ギョロリと眼球に相当する部位だけを動かし、発射された物が何かを確認しようとしたところ。
(結界を球状にした砲弾に、ミコと聖女が……?)
それが複数の使い手により創造された〝結界の砲弾〟である事と、その内側に望子とカナタが二人仲良く包含されている事に気がついたまではいいものの、その目的が分からず。
(この軌道……標的は妾か? 一体、何を目論んで──)
加えて、発射された砲弾は軌道を見るにコアノルの胸に相当する部位の辺りを狙っており、強固な結界を攻撃に転用するなどという陳腐な策で今の己を倒せるとでも思っているのかと、だとしても勇者と聖女を飛ばす意味がどこにあるのかと、ますます疑問が深まっていた──……その時。
砲弾よりも更に速く、コアノルの思考が飛躍した様で。
『──ッ!! よもや貴様ら!! ミコを妾の手で潰させるつもりではあるまいな!? させぬぞ、その様な鬼畜!!』
『鬼畜はテメェだろ!! 支配者気取りのクソ蝙蝠が!!』
彼女が心から欲して止まない愛玩動物を彼女自身の手で殺させる事で、この戦いにおける〝至上目的〟──つまりは望子の獲得を他でもない魔王の手によって達成させない様にするつもりかと邪推し、ウルでなくとも『どの口が』と叫ばずにはいられない身勝手な悪態を吐く。
……まぁ、だとしたらカナタが一緒に居る意味は何なのかという疑問は全く無視される事となるが、それはさておき。
「まだ、まだだよ……! 君たちが魔王を穿つのは、ミコたちが魔王に衝突する寸前……! くれぐれも砲弾に傷はつけない様に、城壁の一部だけを一点集中で破壊して!」
『分かってるって! そん時が来たらすぐ飛ばしてよね!』
「あぁ、あんたもそれでいいね? 瑞風」
「異論なんざないよ、好きにしとくれ」
望子たちを魔王の体内へと送り込む為の要となる二人、フィンとリエナに加えて最後の一押しとなる追い風の役割を担うスピナを含めた三人に『
衝突の寸前、リエナの魔術でフィンとリエナを城壁と砲弾の間に、そしてスピナを砲弾の後方に配達する事でキューの策は完遂されるが、まだその時ではないのも事実。
声と呪毒による拘束が解けるまで、あと数秒。
……いや、正確に言えば満足にこそ動けずとも下半身に相当する無数の触手が鈍いながらも動き出すまで、あと数秒。
もしも先に動き出されてしまったのなら、叩き落とされる事がなかったとしても受け止められてしまう可能性は高く。
結界は破壊され、望子は奪われ、カナタは殺される。
しかし、そんな最悪の未来が訪れるより早く砲弾は魔王の懐へと辿り着き、されど届き切る前に高度が落ちてしまう為、正しく勝負は一瞬であり、キューの見極めで全てが決まる。
(まだ、まだまだ……! もっと、もっと近づいてから……!)
早すぎても駄目、遅すぎても駄目。
ここぞというタイミングでなければならない。
あと三秒、あと二秒、あと──。
「──ッ!! リエナ!!」
「了解」
瞬間、名を呼ばれただけで全てを察したリエナが発動した魔術、
『ッ!? 火光、瑞風、
『教えると思う!? 大人しく止まってなよ
『ッ、貴様──』
コアノルとフィンによる程度の低い舌戦が繰り広げられていたりもしたが、それはそれとしてリエナやスピナ以上に集中していたキューは、精霊の力で強化された視力を更に凝らして絶好の機会を見計らい、そして──。
「──穿てッ!!」
険しい戦場へ直々に立つ指揮官の様に、そう叫び放った。
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