第429話 穿て!!
──〝
ウルの業炎とフィンの激流を同じ力で合一させ、まるで天高く昇る巨龍の如き形状の火水で以て敵を粉砕する一撃。
その威力は凄まじく、ついぞ試す機会は訪れなかったものの、もし魔王軍幹部に直撃させられたなら大きな痛撃を与えるどころか討伐さえ可能だったかもしれない程ではあるが。
つい先程、今の魔王には瑣末な痛撃すら与えられないと判明したばかりであり、ならば何故それを今と思う事だろう。
……しかし答えはいとも簡単。
「
フィンを据え置き、ウルをリエナに入れ替えての。
火と水の混合という意味では同じだが、ウルとリエナでは比較するのも馬鹿らしい程の絶対的な実力差があり。
秘めたる才能自体は劣らぬものの、少なくとも現時点でウルがリエナに勝るものなど何一つ存在しないと断言出来る。
……まぁ、〝望子への想いの強さ〟をカウントしていいならリエナに勝る点もあると言えなくもないのだが、それを加味してもウルの位置をリエナに入れ替えない理由には足らず。
フィンにしても言葉にはせずとも、ウルの方が自分との連携は取れている事は分かった上で、リエナの方が優れているという事実を優先したのだろう事は明白だが、それはさておき。
『さぁいくよリエナ!! 殺すつもりでぶっ放すから!!』
「あぁ好きにやりな! この
そんな葛藤を全く感じさせない殺る気満々な様子で激流を顕現させるフィンに同調する形で、リエナもまた彼女にしては珍しく声を張り上げつつ、ありったけの蒼炎を発生させ。
これが最後の戦いであるからか、これまでにない程の殺意が込められた結果、異世界召喚の直後に
『「出て来い──〝
激流と蒼炎は、巨大な〝九尾の狐〟と化した。
ただし単なる狐ではなく、ところどころに魚類の様な鱗が生えているだけでなく指の間には水かきもあり、まるで『狐が水棲生物だったとしたら』といった様な外見の、蒼と黒の縞模様が全身を覆う美形の狐。
『やっちゃえ
『オォオオオオ……ッ、コオォオオオオオオンッ!!』
そんな狐はフィンの号令に呼応する形で周辺の魔素を一瞬で吸収するとともに、その九本の尻尾の先と巨大な口に充填させた十の魔力を一点に集中させた後、間髪入れずに火と水を帯びた光線として吐き出し。
『う"……ッ!? ぐ、おあぁああッ!?』
「やった! あんなに大きく穴が……!」
未だ声と呪毒の影響を受けていた為、防ぐ事も出来ず胸の中心辺りに光線を直に食らってしまったコアノルが、これまでの戦闘では一度たりとも上げなかった痛撃による鈍い叫びを響かせた事でキューが目を凝らすと、そこには確かに円形の穴が穿たれていたが。
(穴じゃと……!? 斯様に些細な傷をつけた程度で何を──)
コアノルにしてみれば、この程度の損傷はキューが言う様な『大きな穴』とは言えず、不壊と化した肉体に傷をつけられた事への憤りこそあれ、ああも高揚している理由が分からず困惑していたものの、その疑念は即座に解消される。
(──ッ、そうか、そういう事か! 此奴らの狙いは……!!)
仮にも彼女は魔の王、支配者と成り得る器の持ち主。
わざわざ説明されるまでもなく一行の狙いを看破した。
『不壊の妾を、体内から殺す事……!!』
『はッ、今さら遅いっての!』
「
『ッ! これ以上、好きにはさせぬぞ!!』
外側から満足な破壊が出来ぬなら、内側から蝕む様に破壊してしまえばいい──そう気づかれたと知ってもフィンの強気な態度が揺らぐ事はなく。
その一方、砲弾の軌道が落ち始めていた事に気づいたリエナの指示出しを聞いたコアノルが、やっとの事で声と呪毒の影響から解き放たれて無数の触手を集中させ、とにかく全てを阻もうとしたものの。
「遅いよ魔王、技や力であんたに勝てるなんざ思っちゃいないけど……これでも、〝速さ〟にゃ自信があるんだ──」
その時は既に、スピナが己の役割を果たすべく魔術の発動に必要な魔力の充填を終えており、まるで己に言い聞かせている様な呟きはコアノルに届いていなかったかもしれないが、そんな事はもう関係ない。
スピナはただ、望子とカナタを後押しするだけ──。
「──あたし自身が、〝
『
次の瞬間、魔王であるコアノルすらも驚愕する程の魔力と風圧が発生し、その原因が超級魔術の一つである
その魔術の名は──〝
ただ〝風になる〟だけでは終わらず、その風に圧倒的な破壊力を持たせる事で他を寄せ付けない〝嵐〟と化す魔術。
最初にスピナが姿を現した際の竜巻も、スピナが嵐と化した自身の肉体を膨張させる事で発生させたものだったのだ。
そして今度は、その風勢の全てを望子とカナタを乗せた砲弾の軌道を元に戻し、更に加速させる〝追い風〟に利用。
『さぁ行きな小娘ども!! この戦いに終止符を打ちに!!』
『うん!』
「えぇ!」
快調とまではいかずとも、少なくともウルやハピでは反応は出来ても対応は出来なかっただろう超高速で蠢く触手の一瞬の隙間を縫い、二人は魔王の体内へ侵入していった──。
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