第423話 補充されたのは──
──〝補充〟。
それは、読んで字の如く〝充〟ち足りぬ物を〝補〟う事。
この場においては、キューが脳内で組み立てた策を遂行する為に必須なのに不足している
この最後の戦いに割って入る事が出来る者など本当に一握り中の一握りしか居ない筈だし、そもそもリエナの様に並み外れた転移の
尤も普段通りであれば難しくはなかったのだが、コアノルが魔大陸周辺の海域に漂う魔力にまで手を伸ばしていた影響で、魔大陸は今や
つまり、補充するも何も一体どこから
「……うん、そうだね。 これならいけるかもしれない」
「だろう? それじゃあ早速、進めようじゃないか」
リエナの背後に現れた〝二人の
そんなキューとは対照的に、ともすれば楽観的にも思える余裕綽々な表情と声音で策の成功と勝利を確信し、チラリと己の背後に立つ二人の人材に視線をやると、そちらも準備万端だと言わんばかりに無言で首肯してみせた。
まるで、微塵も勝利を疑っていなさそうな表情で──。
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一方その頃、現時点ではリエナを除けば唯一と言っても過言ではない〝魔王に通用する力〟を持つウェバリエを中心とした陣形を組んで戦っていた勇者一行だったが。
『──……ふん。 何が〝呪い〟、何が〝呪毒〟。 所詮は害虫の悪足掻き、デクストラと比肩する程度の力で現在の妾に楯突こうなど烏滸がましいにも程がある。 そう思わんか?』
「ッ、黙りな、さい……! 私は、まだ……!」
これでもかと見下しつつも、やはり鬱陶しく思ってはいたのだろう事が、どう見ても戦力的にはフィンやウルといった者たちの方が上であるのに、わざとウェバリエに狙いを集中させた事からも嫌という程に分からされ。
「……不味いね、このままだとウェバリエだけが削られていく一方だ。 おまけに私たちも攻勢に移りきれないときた」
「遠隔で治癒しようにも魔王に阻まれるし……ッ!」
ウェバリエを失う訳にもいかない一行は、そんな彼女を護る事を強いられるばかりに先程から全く以て魔王への攻撃を加えられておらず、カナタによる遠距離からの癒しの力も無数の触手に阻止された結果、カナタは
……ジワジワと、ジワジワと劣勢になっていく。
元より魔王が今の姿になってから優勢だったタイミングなどないに等しく、強いて言うなら増援が追加された時が〝劣勢ではなくなった瞬間〟だったかもしれないが、それについてもリエナとウェバリエが居たからこその仮初の優勢でしかない以上。
やはり、キューの策を完遂させる以外の道はないものの。
今は最早、完遂どころか遂行可能かどうかも怪しい。
何しろキューが打ち立てた策における最初の役割、〝魔王の動きを一瞬でも止める〟事が出来る者の片割れであるウェバリエは満身創痍までいかずとも既に重傷であり、このままでは不足を補うどころではなくなってしまうのだ。
──……こんな風に。
『……いい加減、目障りじゃ。 跡形もなく滅べ害虫』
「ぐ、う……ッ」
『にげて、おねえさん!』
「ッ、お願い! ウェバリエを護っ──」
これまでは本気を出していなかったのか、それとも今の姿が馴染み切っていなかったのかは定かでないが、ここに至るまでの戦闘行為の数々とは比較にならない程の速度、威力、規模を兼ね備えた紫、赤、黄の三色が入り混じった魔力と神力の光線を放つ魔王に対し。
防御か回避を選ぼうにも、そんな活力は欠片も残っていなかったウェバリエが己の巣に脚をかけつつ跪く様な姿勢で力尽きそうになっているのを見て、かたや望子を始めとして飛行可能な面子が救援に入ろうとし、かたやキューが悲鳴にも似た懇願の叫びを上げる中。
「「「『『『ッ!?』』』」」」
『何じゃ、次から次へと……!!』
──〝それ〟は、
『何だありゃあ……!! 緑と青の〝竜巻〟……!?』
『この感じ、もしかして……ッ』
光線を遮る様にしてウェバリエの眼前に発生した緑と青の入り混じる巨大な竜巻は、ただ〝防ぐ〟のではなく風圧と回転で巧みに光線を〝受け流して〟みせ、ウルが突然の事態に状況そのままを叫ぶ事しか出来ないでいる一方、ハピだけは強い既視感を抱いて視線を竜巻とは違う方へと移す。
「ま、マジか……!? 何で、あの人まで……!!」
そこには、増援の一人である
「遂行の瞬間まで隠れとけって話だったけどね、いくつになっても未来ある若人を見捨てるなんざしたくないんだよ」
『……貴様、何処ぞで──』
その数秒後、光線を受け流し切ってから役目を終えたとばかりに掻き消えていく竜巻の中心から現れた、ハピの鳥要素を更に強めつつも美しさはハピと同等かそれ以上かもしれない長身かつ有翼の美女に、コアノルはハピが抱いた以上の強い既視感を覚えていたが。
そんな魔王の声を遮り、その美女に声をかけたのは──。
「はッ、お互い歳食ったねぇ──〝
「あんた程じゃないさ──〝
『
祖母と孫という血縁関係にあるルド──……ではなく。
かつての戦友という血にも勝る関係を持つリエナだった。
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