第422話 足りないのは──

 キューが羅列した、八つの〝必要な人材コマ〟。


 八つも必要なのか、と気が遠くなるかもしれないが。


 実を言うと、いくつかの人材コマは既に揃っていて。


 足りない人材の数の方が少ない以上、キューの策が成るとのも決して現実的でないなどという事はないのである。


 では、揃っている人材コマと足りない人材コマとは?


 ……一つずつ見ていこう。


 まず一つ目、〝魔王の動きを一瞬でも止められる者〟。


 これを成し遂げ得る人材コマは、ポルネとウェバリエ。


 邪神にさえ届く〝声〟と、魔王さえも蝕む〝呪毒〟。


 一瞬というのは比喩でも何でもなく、ほんの数秒にも満たぬ刹那である事は疑いようもなかろうが、それでも隙は隙。


 ましてや一瞬の隙が命取りとなるこの戦いで、その一瞬の隙を作り出せる存在が二人も居たのは僥倖と言う他なかった。


 二つ目、〝不壊となった魔王の肉体を穿てる者〟。


 これについては、リエナに託す以外の選択肢がない。


 何せ勇者一行において最強のフィンでさえ、ウルの攻撃を上乗せしてもなおヒビ一つ入れる事が出来なかったのだから。


 しかし、かの千年前の戦いで先代の召喚勇者と共に最前線へ立ち続けた世界最強の亜人族デミならば、きっと──。


 三つ目、〝心臓部の破壊を担える者〟。


 これは言うまでもなく望子が担い手となる。


 勇者と魔王は表裏一体、魔王が存在するからこそ勇者が存在し、勇者が討たねばならぬ〝悪〟こそが魔王なのだから。


 四つ目、〝担い手を穿たれた隙間へ送り込める者〟。


 これはまだ確定しているとは言えないが、おそらくハピとルド、ファタリアとピアン、エスプロシオ辺りが適任か。


 この面子を見れば分かる通り、担い手──もとい望子を送り込む為の加速を促す事が可能な者たちが候補となっている。


 五つ目──……は、ひとまず後回しとさせてもらい。


 六つ目──……も、これまた後回し。


 では七つ目、〝担い手の思わぬ負傷を癒せる者〟はどうかと問われれば、カナタ以上の適任は居ないと断言出来る。


 当然ながらカナタ以外にも癒しの力を持つ者は居て。


 フィンやキュー、何であればリエナにも可能ではある。


 しかしカナタは一行どころか増援まで含めて唯一、〝寿命の分配による死者の蘇生〟を可能としている為、万が一の事態に備えるのならば、やはり彼女を置いて他には居ないと言えるだろう。


 そして最後の八つ目、〝担い手を送り込んだ後、心臓部を破壊するまでの間、魔王の猛攻を凌ぐ事が出来る〟。


 者たちと称している時点で明け透けだろうが、これに関しては今まで名前が挙がってこなかった者たち及び三つ目、六つ目、七つ目を担う者たち以外の全員が対象となる。


 ただし勘違いしてはならないのは、この役割を担う者たちは決して他の役割を担えなかったがゆえの溢れ者などではなく、むしろ他の七つに比べて最も死の確率が高い任務に挑まねばならぬ、文字通り命を懸ける者たちであるという事。


 それでもなお死者の蘇生が可能なカナタを望子の傍につけるのは、望子を大切にしたいというぬいぐるみたちの個人的な感情以前に、勇者みこを失ってしまっては勝てるものも勝てなくなってしまうからという現実的な判断であり。


 ……最悪、八つ目を担う誰が死んでも望子さえ生き残ってくれれば、きっと最後には魔王を討ち倒してくれる──。


 少なくとも、キューはそう信じていた。


 しかし、その為にはやはり不足を補わなければならない。


 現状、キューの策を遂行する為に足りない人材コマは──?


 五つ目、〝担い手の為に追い風を吹かせられる者〟。


 そして六つ目、〝担い手を心臓部まで導ける者〟。


 以上、二つの役割を担う者たちの存在である。


 無論、今この場に居合わせている仲間たちにその二つの役割を無理やり担ってもらう事も不可能とは言い切れない。


 それこそ、リエナなら一人で二つを担う事も出来る筈。


 だがそれではあまりにリエナの負担が大きくなるし、そもそもこれは今代の召喚勇者である望子を中心とした戦い。


 出しゃばりすぎるのも違うと、リエナこそが考えていた。


(じゃあ一体どうする? 何を、どこを削れば補える──)


 しかし、そうなってくると最早キューには取れる手立てがなく、ここに居る仲間たちに多少なり無理を強いてでも策を遂行するべきか、それとも別の策を急いで用意するべきかと聡明極まる頭脳をフル回転させていた、その時。


「なぁに簡単な事さね、キュー。 足りない人材コマは──」


 知恵熱で自然発火しそうな程に頭を悩ませていたキューとは対照的な、まるで緊張感など欠片もない様に聞こえる声音と共にくしゃくしゃとキューの髪、というか手触りの良い葉っぱを撫でつつ振り向きながら──。


「──〝補充〟すればいいのさ」

「え──……ッ!?」


 リエナがそう告げた先に居た者たちの存在に、キューは驚くと同時に己の策が遂行出来る事を確かに感じ取っていた。

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