第414話 魔王と人狼の力比べ
──……〝ゴリ押し〟。
これ程までに、ウルに似合う戦法も他にないだろうが。
別に、ゴリ押ししか出来ない脳筋という訳ではない。
ウルには確かな〝
炎を使った必殺技の中には、
……そう、存在しはするのだ。
しかし、やはりと言うべきか彼女の本領は〝力押し〟であり、ここまでの戦いにおいては〝
それは、ここ魔大陸での全ての戦いにおいても同様であると言わざるを得ず、ウル本人も己を〝
だが先程、魔王は確かにこう言った。
貴様の望む〝殴り合い〟じゃ──と。
ならば、ウルに出来る事は一つだけ。
ウルが為すべき事は、一つだけ。
『ありったけ寄越せ! こっからはあたしの領分だ!!』
「わ、分かった! 受け取って!!」
それを誰より自覚しているウルからの要請を受け、キューはフィンや望子に割いていた分の支援の全てをウルへと集約させるべく、ともすれば己が枯れてしまいかねない程の神力を込めた種子の弾丸をウルの背を目掛けて放つ。
貫いてしまわない様に威力を調節された撃ち出された煌々と輝く種子は、ウルの逞しい背を通じて全身へ神力を流し。
血液が如く全身を駆け巡った神力は、やがてウルの肉体の外へと飛び出し、とうに纏っていた化石の鎧を巨大化させ。
『〜〜ッ、キタキタぁ!! さぁヤろうぜ魔王サマよォ!!』
『履き違えるでないわ! これは一方的な殴殺劇じゃ!!』
最早、魔王城と遜色ない程の巨大かつ半透明な
……そこからの戦いは、それはもう酷いものだった。
ウルが爪で殴りつけたかと思えば、コアノルも即座に巨掌で殴り返し、だから何だとばかりにウルが牙で噛みつくやいなや、コアノルもまた城の主郭を変化させた頭部の口で燃え盛る骨格を噛み砕かんとする。
打つ、噛む、払う、叩く、殴る、砕く──。
おそらく一撃ごとに尋常ではないレベルの痛みが襲っている筈だが、それでもウルは愉しげに口を歪めて笑っている。
これこそ自分の望む戦いの形だと言わんばかりに。
……しかし、それも長くは保たないだろう。
先述した通り軽くない痛みが襲っている事もそうだが、そもそもウルの地力では魔王を倒し切る事は出来ないのだから。
『……っ』
「ミコ?」
『わたしも、なにかしないと……!』
それを分かっているからなのか、そうでないのかまでは定かでなくとも、フィンの
「今はやめときな、ミコ。 あんたの
『え──……あ、れ……?」
『みこ!? 大丈夫!?』
「う、うん、でも……」
ぽん、と軽く肩を叩いただけで全解放状態が完全に解除されて普段の望子へと戻ってしまった事からも、リエナの言う通り今さっきまでの魔王との戦いで体力も魔力も神力も精神力も、何もかもが相当に擦り減っているのは間違いない様で。
フィンが案じて駆け寄る中、小さな身体を襲う異常な程の疲労感や倦怠感を押してまで立ち上がろうとする勇者に対し。
「今のウルなら心配しなくても大丈夫さね、ただの力比べなら魔王相手でも引けを取ってない。 それに、もし仮にウルが遅れを取る様な事態に陥ったとしても問題はないよ」
少なくとも現状、魔王が言った様な〝一方的な殴殺劇〟とやらでウルが敗北する事はないと見抜いていた──尤も、それは魔王が単なる力比べに乗ってくれている間だけなのだが──リエナは少しでも望子を安心させるべく優しい手付きで黒髪を撫でつつ。
「あんたたちが思う以上に、あんたたちの味方は多いから」
『え……?』
魔王城、ではなく魔王城の更に向こう側に居る何某かを見ているかの様な遠い目をして、にこりと微笑んでみせた。
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