第394話 葛藤する鳥人
一方その頃、
他二つとは異なり、どちらもが意識を手放してしまっていたが為に片方が片方に肩を貸して先に進むといった事も出来ず、しばらく沈黙が支配する部屋に倒れ伏していた二人だったが。
「──……っ、う、うぅ……」
その内の一人、
ハッキリ言ってしまえば、ハピもポルネも数日単位で眠り続けていても不思議ではない程の重傷を負っていたのだが。
この短時間で意識を取り戻す事だけでも出来たのは、ひとえにハピが脚に装着している触媒、体力や魔力を微量ながら回復し続け継戦能力を高める効果を持つ
しかし、それでも回復量は微々たるもの。
「……あ、れ……? 私、何を……何で、倒れ、て──」
ふらつく身体、ぐらつく視界。
記憶さえもボヤけてしまい、どうして自分が床にうつ伏せになっていたのかさえ思い出せなくなる程に消耗しており、そして消耗している理由すらも不透明であるという事を自覚した上で辺りを見回し始め。
ふと視界の端で捉えた
「──ッ!! そうだわ、私……! ポルネと一緒に……!」
そう、彼女はポルネと共に魔王軍の最高戦力である三幹部の一角、
「ぽ、ポルネ……っ、大丈夫……じゃないわよね……」
「……」
「あの
痛む身体を押して這いずり、うんともすんとも言いそうにないと分かった上でポルネに声をかけつつも、とにかく自分もポルネも聖女の力を借りない事にはどうしようもないと判断し、おそらく先に続いているのだろう扉の方へ目を向けた時。
(……待って)
ここで、ハピが
(そう言えば、ウィザウトとの決着からどれくらい経ってるの? もしかしたら、もう皆は魔王との戦いに挑んでるんじゃないの? それとも、もう──)
そう、ウィザウトを倒す事が出来たというところまでは思い出せても、それから一体どれくらいの時間が経っているのかが全く分からず、もしかすると既に自分たち以外は魔王との戦いに臨んでいるのではと、もしかすると既に戦いは終わっているのではないかと。
一度、嫌な想像してしまうと──……もう、止まらない。
もし、もしもだ。
既に望子を含めた勇者一行全員が敗北しているとしたら。
こんなところで、ぐずぐずしている場合ではない。
たとえ万全の状態でなくとも、駆けつけなければ。
(……私たちの最優先事項は、魔王を討ち倒す事。 延いては望子を元の世界に帰す事──……置いていく、べきなの? こんな満身創痍の
しかし、そうなると目覚めそうもないポルネを引き摺って連れていく訳にもいかず、たった独りで魔王城の一室に取り残すという選択肢を採らなければならないものの。
最早、応急処置では間に合わない様な満身創痍の仲間を置いていくなど、ハピには出来なかった。
……フィンなら躊躇なく、その選択をしただろうが。
それも決して間違いではない。
ただ、優先すべきものの序列の間にある差がハピとフィンでは遥かに離れてしまっているというだけなのだから。
そして、そんな風に葛藤していた次の瞬間。
「ッぐ……!? げほ……ッ!!」
迫り上がる様にして胃袋から喉、喉から口へと溢れてきた真っ赤な血が、ハピの形の良い口から吐き出される。
……
元より大きな回復を促す触媒ではない為、目覚められるところまで回復出来ただけマシという話もあるが。
(何が、満身創痍よ……他人の事、言えないじゃない……こんな状態じゃあ足手纏いにさえなれないわよね……)
辛うじて保っていた意識が再び暗転しかけている事を自覚しながら、ハピは己を嘲る様に力ない笑みを浮かべつつ。
(ごめんなさい、望子……私は結局、貴女を元の世界に帰す手助けどころか、その場に居てあげる事さえ……)
偉そうな事を言っておきながら、こういう肝心な時に力になれない──対邪神戦もそうだったが──己を赦してほしいと、この場に居ない最も大切な少女の顔を思い浮かべて謝罪し。
「……み、こ──」
ついに視界の半分以上が落ちてくる目蓋に遮られ、どうにか動かせる右手だけを扉の方へ伸ばす事しか出来ないでいたハピの動きは次第に鈍くなり、またも意識を手放して──。
「──……まさか、あんたがこんなところで寝転がってるとは思わなかったよ。 ハピ」
「ぇ……貴女、は──」
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