第409話 侵入する為の策

 コアノルが城と一体化する前ならばまだしも、この姿に変貌を遂げてからは窓や露台、扉や門といった〝誰かが城内へ入る為の路〟は全て封鎖されており。


 一口に『城内へ侵入して心臓に相当するを破壊する』と言っても、がっちりと全ての口を閉じた漆黒の巨城のどこから入っていけばいいのか?


 まず、そこから考えなければならない。


 真っ先に思いついたのは──〝正面突破〟。


 城壁を破壊し、その奥に位置する城内のいずれかの部屋に侵入するという、策と呼ぶにはお粗末な強硬手段だが。


 望子でさえ真っ先に思いつくという事は、コアノルならば当然ながら既に思い至って久しいという事であり、『そんな粗末な手は打ってこないだろう』と既に切り捨てている可能性の方が高く。


 何なら逆に通用するかもしれない、というのが望子やキューの結論であり、一旦この案は消さずに放置しておいて。


 次に思いついたのは──〝地下経路〟。


 キューは、ここまでウルやフィンと違い最前線へ立って魔王との戦闘を繰り広げる事なく、カナタとともに遥か後方で二人や望子への支援に専念していたが、その実それだけを行っていた訳ではない。


 ウルとフィンに視線が向いているのをいい事に、キューは魔大陸の漆黒の土壌全体へ、戦力にならぬ分だけ他の事でも役立つ為に少しでも情報を集められればと根を張り巡らせていたのだ。


 動けないのではなく、動かなかっただけだったのだ。


 そして、その甲斐あって一つの有益な情報を得ていた。


 その情報とは、〝魔王が一体化しているのは魔王城だけではなく、正確に言えば魔王城の真下に位置する地面ごと一体化している〟というもの。


 地上に出ている魔王城を魔王の上半身とするのなら、地下の土壌の全てが魔王の下半身に相当するという事に等しく。


 微かな希望だが、そこから侵入出来るかもしれない。


 実際に、その土壌に僅かながら根を張る事も出来た。


 一つ目に比べれば余程、可能性のある策と言えるだろう。


 そして、最後に思いついたのは──……いや。


 これを策と呼んでいいのかどうかは、それこそ一つ目の正面突破よりも怪しい気がするが、それでも敢えて挙げるとするのなら。


 それは──……〝お願い〟。


 ……お願い? お願いとは? と疑問符が浮かぶ事だろう。


 誰が誰にするお願いだ? と疑問が加速する事だろう。


 しかし、この場においては『どんなお願いなのか』という事も『誰からのお願いなのか』という事も、そして『誰へのお願いなのか』という事も全て明らかになっている。


 望子から魔王への、『中に入らせて』というお願いだ。


 いやいや、それは流石に──と思う事だろう。


 キューだって、そう思っていた。


 やりとりがなければ。


『おしえてくれないの? どうしても?』

『……いや、まぁ……うぅむ……』

『嘘だろ? チョロすぎねぇか』


 あの、茶番じみたやりとりがなければ。


 そんな間の抜けた策を思いつく事もなかった筈だ。


 とはいえ現状、三つ目となるこの策──〝お願い〟こそが最も成功確率が高いというのがキューが出した結論であり、それを一体どうやって望子に伝えるべきかという事について悩んでいた様だが。











 キューが思いついていた策は、その三つだけではない。


 もう一つだけ、キューには策があった。


 その策は、先の三つに比べて最も実現する可能性が低く。


 それでいて、最も成功確率が高いという矛盾した策。


 ……キューが〝それ〟に気づいたのは、ほんの数分前。


 情報を集める為に大陸全土へ根を伸ばしていた時の事。


 キューが手に入れた情報の中には〝魔王が大陸とも一体化している〟というものだけでなく──……


 〝離れてはいるが自分たちと同じ様にハピたちもまた城外へ排出されている〟という情報と、そして〝満身創痍だったハピたちを纏めて保護した存在が居る〟という情報。


 では、その存在とは何者なのか?


 この魔大陸には魔王と魔族しか棲息していないし、その魔族も全て魔族側のいざこざによって消滅してしまっている。


 つまり、勇者一行を除けば他に自分たちを助けてくれる存在など本来なら魔大陸の何処にも居る訳がないのだ。


 ……そう、本来なら。


 だが、この世界には確かに存在する。


 不可能や不条理といったものを全て飛び越える程の、言ってしまえば理不尽なくらいの力と輝きを誇る──。











 ──……〝蒼炎〟が。

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