第408話 一つの仮説
当然、言うまでもない事だが。
望子が公園の砂場にて一人で作っていた小さな砂の城と、見上げなければ全貌も分からない程に大きな漆黒の城とを比較する事に意味はなく、望子も本気でそんな事を言った訳ではない。
しかし、そう例えずして他に何と言えばいいというのか。
どれだけ強くとも、どれだけ勇ましくとも。
誰もが振り向く美貌と長身を手に入れていたとしても。
この少女は──……望子は、まだ八歳なのだ。
何も知らないとまでは言わない。
地球における普通の八歳児よりは間違いなく聡明である。
だが、どこまでいっても子供は子供。
語彙力に限界があって当然なのだ。
そして、それを分かっているからこそウルを始めとした一行は『砂場遊びと一緒にするな』などとは間違っても口にせず。
『ミコ! 時間はあたしらが稼いでやるから隙を見つけろ!』
『キューも手伝ってあげて!』
『「うん!」』
寧ろ『望子の言う事に間違いはない』という、まるで尊き存在に忠誠を誓った従者や使徒か何かの様な思想で以て動き出し、ローア以上の知力を誇るキューと協力して策を練る時間を作る為の働きをするべく威力を落とし、手数と範囲重視での攻撃を開始する一方。
「……二人はああ言ってるけどさ、ミコ」
『えっ?』
「実は、ちょっと心当たりあるんだよね」
『! ほんと!? きゅーちゃん!』
「っと……ま、まぁね」
どうやらキューには既に妙案──とまではいかずとも突破口に成り得るかもしれない心当たりがあったらしく、啖呵を切ったはいいものの何も思いついていなかった望子は勢いよく顔を近づけ、あまりの顔の良さにくらりと来かけたキューだったが、すぐさま気を取り直し。
「……魔王は、どうしてキューたちを城の外に出したんだと思う? 城そのものを生物に見立てて支配して、その形を自在に変えられるっていうなら、わざわざ排出なんてしなくてもそのまま押し潰せばよかった筈なのに」
そもそもの前提として、コアノルは敢えて望子たちを城外へと放り出さずとも城の部屋という部屋を圧縮し、ぺしゃんこなどという可愛らしい表現では済まない程の末路を辿らせる事も出来た筈なのに、どうして──という一つの疑問を提示する。
実際、魔王が存命である限り絶対に壊れない筈の漆黒の城は今や魔王の上半身そのものを模っているし、それ以前に魔王が変貌を遂げるよりも前に望子たちの足元の床が丸々消滅していた事を考えれば、壁や天井を操作して一行を潰してしまう事も出来て然るべきであり。
望子だけを潰さず、それ以外を潰すという事も出来て然るべきであるというのに──だ。
しかし、それでも排出を優先したという事は。
『そとにださないといけないりゆうがあったってこと?』
「多分──……うぅん、間違いなくそうなんだと思う」
「待って、その仮説が正しいなら──」
望子の言う様に〝排出しなければならない理由〟があったという事の裏付けにもなり、もしもキューが立てた仮説が正しかったという事を前提するのであれば。
「そう、城内──違うな、体内に何かがあるんだ。 罷り間違っても触れられる訳にはいかない〝弱点〟みたいな物が」
「生物に見立てた城の中の、弱点……それって、もう──」
最早、確実に始末出来る好機を棒に振ってでも城内へ居続けさせる事は出来ない程の弱点ないし急所が存在すると考える他なく、カナタが気づいたのと殆ど同じタイミングで望子もまた確信するに至り。
『──〝しんぞう〟が、あるってことだね?』
「うん。 それを壊せば、きっと……」
「魔王を、倒せる……!」
生物における絶対的な弱点──つまり〝心臓〟が城のどこかにある筈で、それを破壊しさえすれば城そのものは壊せずとも魔王を討つ事が出来るかもしれないという、まさに一筋の光明が見えた瞬間だった。
「ミコ。 これからミコには城の中に、魔王の体内に入って心臓を見つけ出して、そして──破壊してきてもらうよ」
『でも、そんなすきあるかな……?』
「大丈夫! キューたちも隙を作るし、それに──」
『それに……?』
そして、やはり魔王にとどめを刺すのは勇者であるべきだという考えは変わらないキューからの指令に微かな不安を抱く望子に対し、にこりと戦場には似つかわしくもない笑顔で安堵を促した事により、これから行う〝最終作戦〟の概要は決定した。
……まぁ、尤も。
「
『「……?」』
その一言にだけは、きょとんとしてしまっていたが。
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