第406話 質量の差
最後の戦いの幕開け、と仰々しく言いはしたものの──。
そもそも、まともな戦いになるとも思えぬ程の〝差〟が両陣営の間にある以上、決着の刻は意外に早く訪れるかもしれない。
──〝力量〟の差?
それは間違いないだろう。
──〝技量〟の差?
それもあるかもしれない。
──〝熱量〟の差?
それについては大差ない可能性もあるが。
最も大きな〝差〟は何だと問われれば、それは──。
──……〝質量〟の差。
ウルたちの質量、もとい体重はせいぜい50kg程度。
筋肉質な為か最も重いウルでも70kg、そして年齢も相まって最も小さく軽い望子に至っては30kg程しかない。
対して、あの巨城はどうだろうか。
比喩でも誇張でもなく天を衝く程の建端、広大な魔大陸の三分の一を占めようかという程の間口、密度の高い闇の魔力によって隙間なく積み重ねられた石垣。
どれをとっても重厚なる質量を感じさせる以上、罷り間違っても勇者一行が質量で上回っているという事はなく、おそらくは如何なる攻撃を加えても崩すどころか揺るがす事さえ出来ないだろう。
力が足りないとか、技の巧みさが違うとか。
もう、そんな次元ではない。
……戦いにすら、ならない。
残念ながら、それは邪推でも誇張でもなかったようで。
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『──ぶち抜いてやらァ!!
『こっちも行くよ!
かたや火山岩が如き巨大で赤熱する大地を蹴り飛ばし、かたや海龍を模した二頭の巨大な浮遊砲台を召喚し、それぞれが間違いなく山を穿てる程の威力と規模を誇る一撃を見舞ってみせたのだが。
『この程度か〝成り損ない〟共!! 足りぬ、足りぬわ!!』
『マジかよ、ヒビ一つも……ッ!!』
『分かってたけど凹むなぁ!』
それらは巨大かつ頑強な漆黒の羽を模った城壁に易々といった具合に阻まれてしまい、その城壁に傷やヒビはおろか焦げ目一つ付けられなかった事に、いよいよウルもフィンも唖然とせざるを得なくなってきている。
「そもそも、あの城は魔王が生きている限り絶対に傷つく事のない不朽の魔城……! 幾ら何でも理不尽だよ、こんなの……!」
「ッ、でも神聖術なら……!
そしてフィンの叫びに補足するが如く、あの魔王城が持つ厄介極まりない性質──魔王の命が尽きぬ限り崩壊どころか損傷さえしないという不条理な性質を、あろう事か魔王本人が城と融合して取り込んだ事で〝絶対に傷つかない魔王〟が完成した事実にキューが軽くない絶望感を抱く一方。
それでも神聖術ならば、全ての魔族へ特効となる神聖術ならば結局は魔王が自身の力で創造した城を崩せてもおかしくない筈だと、そうであってくれと縋る様な思いでカナタが放った無数の聖なる光線は。
『無駄じゃ聖女カナタ! 最早、今の妾には神聖術さえ通用せぬ! まさに至高! まさに究極! 最初から妾だけで充分だったのじゃあ!!』
「そ、そんな……こんなの、どうしようも──」
光線と同じ数だけバラけた尻尾を模った城壁の先から放出された闇の波動で相殺されてしまい、まさしくコアノル自身が叫んでいる通り至高にして究極の存在へと昇華したのだと理解したカナタが膝をつきつつ俯きかけていた──その時。
『──……しい』
「えっ?」
いつの間にか近くに来ていた望子が誰にも聞かせるつもりでもなかったのだろう小さな小さな呟きをこぼし、それを偶然に、そして一部だけ聞き取ったカナタが俯きかけていた顔を向けたところ。
『……何じゃ、ミコ。 よもや今になって降伏の意を示すつもりか? もう遅い、もう遅いぞ! 既に妾は決めたのじゃ! 今は心を魔王にしてでも其方らを蹴散らし、そして其方を手に入れると──』
どうやら今のコアノルは先程までの姿よりも感覚さえ優れている様で、その小さな呟きすらも聞き逃さずに今更ながらの降伏など認めるつもりはないと、そんな事は一言も言ってないというのに勝手な妄想を繰り広げた上で、あくまでも己が定めた手順に則って望子を手中に収めるのだと宣言しようとしたコアノルだったが。
『……おかしい、おかしいよ』
『……何?』
『それじゃあ、どうやって──』
そんな風に自分の世界へ入り込んでいた魔王をよそに、ぶつぶつと望子が何かを呟き続けている事に気がついたコアノルがピタリと演劇じみた叫びを止めて耳を傾けた瞬間、望子は
『──おとうさんは、あなたをふういんしたの?』
『ッ!!』
真に至高にして究極の存在を謳うのならば千年前、如何にして望子の父親であり召喚勇者でもあった勇人は、その至高にして究極の存在を見事、封印してみせたのかと問うた。
封印された、張本人に対して──。
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