第405話 隕石潰す巨城
他に例えようもない超巨大な飛来物体─〝隕石〟。
単純な規模だけならば魔王と一体化した漆黒の巨城にも劣らず、ひとたび落下すれば城はおろか大陸そのものさえ崩壊させかねない程の破壊力を秘めた鉱物。
加えて、その隕石は以前と全く同じものではない。
たった今、望子が魔大陸特有の暗澹たる黒雲と漆黒の闇を切り裂く様に宇宙から落とそうとしている隕石もまた、その組み合わせの一つを体現していた。
──
破壊の権化たる隕石の落下は勿論の事、落下時だけでなく落下中、今この瞬間も魔大陸のほぼ全土という超広範囲へと、あまねく生物も非生物も腐敗させるカビを散布させており。
実際に落下し、そして炸裂しようものなら〝清浄〟の力を持つ聖女カナタの庇護下に居る勇者一行数名以外の生物は死に絶え、まず間違いなく二度と生命が活動していく事の出来ない完全なる死の大地と化すだろう。
かつては
(隕石……
当然と言えば当然ではあるものの、その〝隕石を呼び寄せる〟という絶大なる力の礎となった巨龍の存在を覚えていたコアノルは、ふと千年前の戦いを懐かしむかの如く漆黒の城壁が変異した目蓋を閉じかけたが。
(──いや、過去を偲んでおる場合ではないか。 元のままでは死なぬように凌ぐ事が限界だったじゃろうし……まぁ、それも過去の話じゃがな)
コアノルの推測通り元の姿のままでは十中八九あの隕石を相殺する事など叶わぬばかりか、どうにか命を拾う程度の抵抗しか出来なかっただろう。
しかし今や、コアノル自身が生きている限り絶対に傷つく事がないとされる漆黒の巨城と一体化した彼女からすれば──。
『今の妾は──……〝不朽の巨城〟、そのものよ』
『!? あれを、受け止めやがった……ッ!!』
「うぅん、受け止めるどころか……!」
隕石など最早、少々重く速いだけの落石でしかなかった。
ウルとキューの叫びからも分かる通り、コアノルは最早それだけで脅威と呼べる超巨大な両腕で隕石を受け止め、そして受け止めるのみならずカビを散布させない為にと両手で包み込む様に圧縮していき。
『砕け散れ、忌々しき亡龍の辰星よ』
『そ、そんな……っ』
そう呟いた瞬間、幾つか望子の〝切り札〟の一つたる隕石がコアノルの手の中で完全に押し潰されてしまったのだった。
六つの超級魔術の中で最も大きな規模で攻撃する事が可能な
一撃で終わらせられる筈だと信じていた。
だから望子は、その二つの魔術を組み合わせたのに。
『ミコよ、この強大なる力を目の当たりにしてなお屈さぬと言うのか? もしも其方が妾の所有物になると言えば、この力を其方の仲間たちに振るう事はせぬと誓おうではないか。 さぁ、これが最後の情けじゃぞ?』
『……っ、みん、な──』
その後、〝規模〟と〝破壊力〟だけなら切り札の中でも最強の一撃を易々と打ち破られた事で唖然としていた望子に、もう何度目かも分からない誘惑を仕掛けるとともに、これが最後の慈悲だと心からの情けを勇者一行にかけてやろうとするコアノル。
他にも幾らか手段はあるが、あれが通じなかったとなると打てる手が限られてくるのも事実であり、ならば自分が再び魔王の懐に入って別の搦手を打つべきかもしれない──そんな子供らしくもない自己犠牲の感情を浮かべた顔を仲間たちに向けた瞬間。
『馬鹿言ってんじゃねぇよ、クソ魔王が』
『ボクのみこを誘惑しないで下さーい』
「ちょ、ちょっと二人とも……!」
「でも、カナタも答えは同じでしょ?」
「……えぇ、そうね──」
『『「「
『みん、な……っ!』
四人は一斉に中指を立て、魔王の提案を一蹴した。
クソ食らえ──と言わんばかりに。
そのポーズの意味は分からなかったが、少なくとも自分を大切に思ってくれたがゆえの行動なのだろう事は先の言動から望子でも理解出来ており、その澄んだ黒い瞳を潤ませる中。
『……ならば良し、己らの愚かさを悔いて死ぬがいい──』
ゴゴゴゴという鈍い音を立てて巨大な羽を広げ、まさしく天を衝く程の巨躯で一行を見下ろしながら、いよいよコアノルは己の中に残っていた〝情〟の一切を捨て去り。
『──……否ッ!! 後悔する時をも与えんぞ!!』
『征くぞお前ら!! これが最後の戦いだァ!!』
最後の戦いの幕開けを宣言した──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます