第404話 巨城を穿つ隕石

 最後の戦い。


 恐るべき魔王は、確かにそう言った。


 その言葉が意味するのは、これがである事。


 それと同時に、これがである事。


 つまり、この一手を覆す事さえ出来れば。


 一行の至上目的、〝魔王討伐〟が成るという事。


 望子やウルでさえ、それは理解出来ているのだが。


『お……っ、おっきすぎ、ない……?』


 望子は今、魔王城そのものを触媒とした為に先程まで相対していた時の大きさとは比較する事すら馬鹿らしくなるくらいの巨躯と化してしまった魔王を見上げ、もう呆気に取られるしかなくなっていた。


「こ、こんなの、どうしたら……っ」


 そのサイズたるや、かつて勇者一行が相対した生ける災害リビングカラミティ全なる邪神アザトートをも遥かに凌駕する程であり、あまりの衝撃に望子のみならずカナタまでもが唖然とする中。


『城のデカさが、そのまま魔王の力のデカさとでも言いてぇのか……!? ふざけんじゃねぇぞクソが……ッ!!』

『言ってる場合!? 何とかしなきゃ……!!』


 圧倒的なまでのスケールの違いを見せつけられても、ウルとフィンは戦意を失っておらず、この絶望的な状況に陥らされた事による悪態こそ吐きつつも恐化の力を更に強めていき。


「ね、ねぇキュー……ハピやローアは……カリマやポルネはどうなったのかしら……もしかして、まだあの中に……ッ」


 その一方で、カナタは城そのものではなく辺りをきょろきょろと見回しながら、こうして自分たちは城の外へと放り出されているが、では今この場に居ない仲間たちは──と案じていたものの。


「……あの城が魔王そのものに変異してるんだとしたら、それこそ身体の内側からの攻撃なんて真っ先に警戒する筈だよ。 実際、キューたちは排出されてるんだし。 ハピたちも多分、別のところから吐き出されて──……たら、いいね」

「……っ、今は判断しかねるって事ね」


 あまりに突然の事態に陥ったせいで逆に冷静さを取り戻していたキューからの、『おそらく』と前打った上での大丈夫な筈だという全く以て安心出来ない憶測中の憶測を聞いたカナタもまた、キューに分からないなら自分が考えても仕方のない事だと思考を切り換える。


(っ、みんな……あんなにおっきくなっちゃったまおうをみても、たたかおうとしたり、とりさんたちのしんぱいをしたりしてる……それなのに、わたしは……)


 そんな四人の仲間たちの動向を傍から見ていた望子はと言えば、こんな絶望的な状況の中でも四人は各々が出来る事を成そうとしているというのに、どうして自分だけが呆然としていられるのかと思い直して気を落としつつも。


 ──ぱちんっ!


(しっかりしなきゃ……! わたしは、ゆうしゃなんだから!)


 両手で頬を挟み込む様に叩いて気合いを入れ直し、それでも自分は召喚勇者、父親と同じ様に魔王と対峙し、今度こそ封印ではなく討伐しなければ──と、そこまで難しい事を考えていた訳ではないが、大体その様な事を考えた上で背中に大きな翼を生やし。


『っ、いるかさん! みんなをまもってあげて!!』

『えっ!? な、何!? 何から!? 魔王から!?』

『うぅん──』


 六つの超級魔術の内、龍化ドラゴナイズの比重を大きくした全解放状態の望子からの、『みんなをまもって』という短い指示を出されたフィンは、〝何を〟護ればいいのかは分かっていても〝何から〟護ればいいのかが分からず。


 さりとて望子を責めるつもりはなく、あくまでも声音だけは優しく、それでいて切羽詰まった様子で問うたところ望子は否定を示すべく首を横に振りつつ。 


(もう、だれにもけがなんてしてほしくない……! だからわたしが、いちげきでおわらせないといけないんだ!!)


 これ以上、大切な人たちに傷ついてほしくないという決意と覚悟の下、〝絶大なる一撃〟で戦いを終わらせるべく。


『──わたしの……っ、〝いんせき〟からっ!!』

『『「「ッ!?」」』』


 そうやって叫び放った時には既に。


 魔大陸の真上より、光り輝く〝巨星〟が煌めくと共に。


 漆黒の巨城を穿たんと落下してきていた──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る