第400話 一筋の光明
その一瞬の異変に違和感を抱く事が出来たのは。
コアノル自身を除けば、たった一人。
望子は勿論の事、望子と同じ様に最前線で戦っている筈のウルやフィンでさえ気づかなかった、その小さな違和感を。
(多分──……うぅん、間違いない……!)
キューは既に、〝確信〟へと昇華させていた。
そして、その確信は間違いなく〝打開〟となる筈だと。
魔王討伐への打開となる一手に繋がる筈だと、そう確信したキューは絶対にコアノルから見られない様に口元を隠しつつ。
(……フィン、聞こえる?)
『んっ!?』
聴覚に秀でたフィンにだけ聞こえる、それこそ蚊の羽音と同等かそれ以下の音量しかない声で話しかけた途端、ピクッと耳に相当する頭部の横の青い鰭を動かして反応したフィンは思わず声を上げて振り向きそうになったが。
(振り向かないで! そのまま聞いて……!)
『……ッ!?』
それだけは、コアノルに勘付かれる事だけは避けたかったキューは決して声を荒げない様に、されど確かな意思を込めて『戦いながら聞いて』と頼み込み、そんなキューからの要求に全く要領を得ず困惑するフィンに。
(さっき、フィンの
(それが何!? 分かり切った事言わないで──)
明らかに自分の失態だったとしか言えない、コアノルに水の
(もう一回、同じ事って出来る?)
『……はっ?』
(それも多めに、お願い)
あろう事か、どう考えても不味い事になるとしか思えない分身の顕現という策を、しかも大量にと真剣に頼み込んできた事により、いよいよフィンは一瞬とはいえ攻撃の手を止めてしまう程に混乱し切ってしまったものの。
(……そんな事したら、また乗っ取られちゃうじゃん! たった二体でもキツかったのに、あれより増やせっての!?)
ボーッとしていたら死ぬのは自分の方だと即座に気を取り直して動き出しつつも、フィンとしては珍しい尤もな正論を投げかけると共に、そんな無意味な策をキューが提案してくる筈がないとも理解していた為、早口で捲し立ててキューの二の句を待つ。
(うん、それからミコとウルにも
(〜〜ッ! せめて説明してから──)
そうすれば意図の一つでも教えてくれるだろうと考えていたフィンの予想とは裏腹に、さも『説明している暇はない』と急かす様に策の実行を要求してくるキューに対して苛立ちを覚え、ついに視線を魔王から逸らしてしまったその瞬間。
『い"ッ!? たあ"ッ!! もう、邪魔しないでよッ!!』
慢心も油断もしていなかったと断言出来るが、それでもフィンが視線を逸らすという決定的な隙を作ってしまったのは疑いようもない事実であり、それを見逃さなかったコアノルの闇の魔力を帯びた漆黒の溶岩の波動がフィンの尾鰭を灼き焦がす。
『……邪魔? 何の事じゃ』
『ッ、何でもない! さっさと死ねッ!!』
『っと! くははッ、お断りじゃ!』
水で冷やし、カナタが遠距離から神聖術を飛ばした事で事なきを得はしたものの、コアノルは〝邪魔〟という言葉から明らかに己との戦い以外の何かを気にしている様子のフィンに違和感を抱きかけており、このままでは不味いと焦ったフィンによるヤケクソ気味な全方位への水の散弾は思った以上に魔王へ防御や回避を強要し。
(……ッ、みこたちに伝えればいいの!? この
(うん。 キューの予想が合ってたら──)
どうやら気取られずに済んだと安堵しつつも、これ以上は隠し立ても難しくなると確信したフィンは、とにかく望子やウルを巻き込んででもやってみるしかないと判断してキューの策に乗る事を決め、それを悟ったキューは最後の一押しだとばかりに。
(──魔王に〝治らない傷〟を与えられる筈だよ)
(……! 解った、やってみる!)
ある種の〝殺し文句〟を口にした事でフィンもやる気が出てきたのか、こくりと──頷いたらバレる為、言葉だけで受諾を表し。
(……これが、キューが思いつく最善で最後の策。 通用しないなら──もう、この戦いでキューが役に立てる事はない)
おそらく望子とウルにしか届かない声でキューの策を伝えているのだろうフィンを見届けつつ、この策が通用しないとなれば最早この戦いに己の居る意味はなく、あとは捨て駒にでもなるしかないと本心から想い、自嘲していた──。
(たった一つの〝可能性〟を除いて、だけど──)
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