第398話 牙を剥いたモノ
最優先で排除すべき対象が決まった以上。
たとえ己の信条を多少なり曲げてでも、コアノルは聖女カナタの始末に全霊を捧ぐと決意していた。
ゆえに今だけは、
(……赦せ、ミコ)
『『ッ!?』』
火、水、風、土、光、樹、音──様々な属性による攻撃が弾幕の如く飛び交う激戦の最中、一瞬だけ何かを躊躇う様な表情を浮かべたのも束の間。
唐突に溶岩の巨掌を床に叩きつけたかと思えば、そこからウルの嗅覚を潰す程の硫黄臭とフィンの聴覚を妨げる程の爆発音が発生し、ほんの一瞬とはいえ二人の感覚器官を無力化したコアノルが狙ったのはウルでもフィンでもカナタでもなく。
『えっ──』
あろう事か、望子であった。
『……本来なら傷つけとうないが、これは仕置きじゃ。 大人しく妾の
『ぅあっ!?』
コアノルにとっては、それこそ擦り傷一つさえ付けたくはない愛玩動物である筈の幼い勇者相手に彼女が見舞ったのは──。
──……
ただし、単なる
火と土の邪神の力、魔王本来の闇の魔力、女神より受け継いだ神力の全てを乗せつつも殺傷能力だけを極限まで抑えた、まさしく仕置きの一手。
破裂音や衝撃波こそ派手ではあったが、これといって血が出ていたり腫れていたりする訳でもない。
しかし痛みは割と強めであったらしく、その一撃で望子はキューやカナタの少し手前くらいまで吹き飛ばされてしまい。
『ミコ!? カナタ! 治してやってくれ!』
「え、えぇ! すぐに!」
その一部始終を垣間見てしまったウルは、己に回復能力がない事を改めて悔いつつ
それこそが、コアノルの狙いだとも知らずに──。
「大丈夫!? 痛かったよね、すぐ治すから──」
望子へ駆け寄り、その白く細い手に神力を込めた瞬間。
「──……っあ"……? 何、で……」
『かな、さん……!?』
カナタの細く頼りない背中を、
その衝撃的な光景に最も驚いたのは当然カナタ自身であろうが、カナタと同等かそれ以上に目を剥いた者が居る。
それはカナタへ治療を頼んだウルでもなければ、カナタの近くで戦闘を支援していたキューでもない。
『何、を……ッ、やってんの
『『……』』
片方の腕を変化させた鋭利な水の槍で交差する様にカナタの背中を貫いた
それと同時にフィンは謀反を働いた愚か者どもを消し去る為、
『消え、ない……!? 何で……!!』
「っ、う"……」
「カナタ! 大丈夫!? ミコもすぐ治すからね!」
『う、うん……』
どういう訳か分身たちは二体とも消失せず、ずぶりと嫌な音を立ててゆっくりと槍を引き抜いた二体からカナタと望子を出来る限り引き離すべく、キューが荊棘の壁を展開しつつカナタに劣りこそすれ性能としては充分な癒しの力を行使する中。
……フィンはただ、困惑していたが。
心当たり自体は、なくもなかった。
(どういう事……!? ボクが居る限り魔王は精神に干渉する力を使えないんじゃなかったの!? まさか、ボクが勝手に思い込んでただけで──)
そう、コアノルが持つ精神への干渉に関する力についてを思い至っていたものの、それはフィンが生存している限り妨害が可能だと彼女は半ば確信していたのだ。
しかし、もしも全てがフィンの勘違いだったとしたら。
今この瞬間も、フィンが見ている光景の全てが魔王によって魅せられているだけの夢なのかもしれない。
だが、そんな筈はない。
自分やウルが戦いの最中に望子へ触れてまで確認したのまこら、あれが夢であるなどという事は──と思慮していた時。
ふと、フィンが何かに気がついた。
(──……? 何、あの
未だ消し得ぬ
脳がある辺りと表現したが、そもそもその黒い何かは皺こそないもののよく見ると脳そのものの形をしている様に見えなくもなく。
『まさか、アレのせいで……?』
『如何にも』
『ッ!』
もしや──と思い至った瞬間、彼女の思考を読んで肯定してきた魔王の声にフィンが勢いよく振り向いた先には、まるで瞬間移動でもしたかの如き一瞬で二体の
『これは、土を司る邪神の力で模倣した〝妾自身の脳〟。 精神の遠隔支配は其方の存在により封じられておるが、こうして直に脳を埋め込んでしまえば──』
ずぷっ、と鈍い音を立てて
『──この通り。 〝
『〜〜ッ!! 返せッ!!』
まさしく水で出来た魔王となったそれらを侍らせて得意げな貌を浮かべて微笑うコアノルに、フィンは今度こそ特攻していく。
魔力と神力を分けている以上、片割れと称しても差し支えない
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