第384話 勇者一行、一部合流
魔族領の中心に建立されたその巨城は。
何があろうとも壊れたり崩れたりする事はなく、ましてや傷つく事さえありはしない。
それは何も外側に限った話ではなく、あれだけ激しい戦闘を三幹部との間で繰り広げた勇者一行が居るその部屋も、ほんの少し焦げ目だの裂け目だのがついている程度である。
……という事は、だ。
一行が入ってきた扉が固く閉ざされている以上、三幹部との戦闘を終えたところで扉や壁、天井や床を壊して先へ進む事も出来ないのではないか──……と思うかもしれない。
しかし、ここは魔王城。
魔王自身が、あらかじめ『扉が開く為の条件』を設定してさえいれば、たとえ状況的には敵にとって有利になるとしても扉は開く。
現に──。
────────────────────
「──あ、フィン! そっちも終わったの?」
イグノールとの激闘を終えた割には、そこそこ元気そうにも見える
「まーね。
「それはこっちも同じだよ──ほら」
魔王軍幹部筆頭との戦いを終えた後とは思えないほど余裕綽々な
……ちょこっとだの、こっちも同じだの。
まるで擦り傷だと言わんばかりだが──。
「「……」」
かたや浮遊する大きく柔らかな葉っぱに包まれた状態で、かたや望子の時とは違う雑な感じで水の分身の肩に担がれた状態で、ぐったりしている
「あちゃー……これ、生きてんの?」
「うん、何とかね。 そっちは?」
本当に息をしているのかどうか分からない程ピクリともしないウルの姿に、はっきり言って不安より情けないと思う気持ちの方が強そうなフィンの溜息込みの質問を、キューはさらっと流しつつ、そちらの相棒はと問う。
ウルよりも遥かに深刻そうに思えたから。
「……一応、見えるところの傷は治ったって感じかな。 目覚めるかどうかは専門外だし分かんないから、
「そっかぁ、まぁ幹部と戦ったんだもんね」
フィンの返答としては、とにかく外傷だけは治せたものの、いくら何でも内側の負傷までは知った事ではない──少々無責任にも思えるが──というものであり、カナタに回復してもらうのが一番だろうと結論づけるそんな彼女の意見に、キューも肯定の意を示す。
戦う力に限って言えば絶対に自分の方が上でも、こと癒す力の場合で言えば自分はどうやっても聖女に及ばぬと理解しているから。
などと思考していた時、フィンが何かを不意に思い出したかの如く視線を動かしつつ。
「……あれ、そういやハピとポルネは?」
「まだ終わってないんじゃない?」
「えぇ? そんな事ある?」
「ん、どういう事?」
よくよく考えれば──……いや、よくよく考えずとも今ここに居ない二人の仲間、
「だってさぁ。 戦闘音? 剣戟音? って言うのかな。 ハピたちが居る筈の方から何も聞こえないんだけど、本当に終わってないの?」
「そうなの? うーん……」
超人的な聴力を持つフィンの聴覚に一切の音が届いてこない事から、もう戦闘は終わっている筈、終わっていないならこの静寂は妙だという説得力のある反論を受け、キューが魔力を探知出来る植物を顕現させんとした。
その時。
「──……ぅ、うぅ……っ?」
「「!」」
満身創痍な状態のまま宙に浮かぶ大きな葉っぱに包まれていた
数秒程、似た様な声で喉を鳴らしていたウルだったが、それが鳴り止むと共に目覚め。
「ここ、は──……っ!! お……っ、おいキュー!! あいつとの……イグノールとの戦いはどうなった!? あたしが勝ったのか!?」
「え? あー、うーん……」
「何だその歯切れの悪さはよぉ……!」
その途端に、すぐ近くに居たキューに這々の体で詰め寄って、イグノールとの戦いの結末を問うたものの、ウルの望んだ結末ではない事を理解しているキューとしては、どう説明したものかと頭を悩ませずにはいられず。
あーだの、うーだの全く要領を得ない声をしか上げないキューに対して歯切れの悪さを指摘するウル自身の声も正直、覇気はない。
当然と言えば当然だろう。
相方をキューとしていたから助かっているのであって、もしキュー以外の二人が相方だったなら、たとえ辛勝が叶ったところで誰も癒してくれず、仮に何らかの要因で回復してもらえたとしても、キューが持つ癒しの力でなければ彼女は普通に死んでいたのだから。
「勝ったんじゃない? ってか、そうじゃなきゃキミはここに居ないでしょ。 ねぇキュー」
「……まぁ、そうだね」
それを知ってか知らずか、そもそも今この場に居るのだから、まぁ方法はともかく勝利した事に違いはないだろうと何の気なしに声を挟んだフィンに、キューは控えめに同意。
申し訳ないとでも思っているのだろうか。
そんな必要、ありはしないというのに。
「フィン……お前は、勝ったのか……?」
「よゆー!」
「そう、か……あたしは、そんな気しねぇ」
翻って、ここで漸くフィンの存在に気がついたウルが分かっていながらも敢えて勝敗を問うたところ、フィンから返ってきたのはブイサイン付きの余裕綽々な勝利宣言であり。
そんな笑顔の彼女とは対照的に、とても勝ち名乗りをする気分になれないウルを見て。
「あっそ。 まぁいいじゃん」
「は?」
裏表のなさそうな、きょとんとした表情を浮かべるフィンに、ウルもまた『何言ってんだ?』と同じ様な表情で固まってしまった。
己の感情全てを否定された気がしたから。
「ボクらは、ミコを元の世界に帰す為に何でもしなきゃいけないんだよ。 それこそ他の全てを差し置いてもね。 もしかしてウル──」
しかし、そんな理不尽な感情を抱くウルに構う事なく、ウルを含めた三体のぬいぐるみが為すべき事を改めて諭す様に確認させたフィンは、『まさかとは思うけど』と嘲笑し。
「──ミコの事、大切じゃないの?」
「はぁっ!? んな訳──」
他に優先すべき事がある時点で、あの幼く愛らしい勇者を大切に想っていないという事に他ならない──……などという、きっと三体の間でしか通用しない無茶苦茶な理論で以て煽り、それが見事に直撃したウルは痛む身体を押してフィンの胸倉を掴もうとしたが。
「ないよね? それなら良かった! じゃあ、そろそろ行こうよ! ハピたち待ってる時間が勿体ないし、さっさと
「っ、あ、あぁ……」
それはあっさりと、いつの間にか出現していたもう一体の分身によって阻まれ、その隣で屈託なく笑うフィンからの『望子の為にも先を急ごう』という親が子を言い諭す時の様な優しい声音に、ウルは思わず身を引いた。
ほんの一瞬、フィンの存在そのものから有無を言わせぬ絶対的な恐怖を感じたからだ。
やはり同じぬいぐるみでもフィンが一番なのは間違いないのかと、ウルが改めて己の序列を知る中、蚊帳の外のキューはといえば。
(扱い上手いなぁ……参考になるよ)
イグノールとの戦いの最中、全くと言っていい程に御する事の出来なかったウルを、たった一言で黙らせてみせたフィンの手腕に素直に感服しつつ二人の後を追うのであった。
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