第373話 邪魔立てするなら殺すだけ
当然、先の二体との戦いと同じ様に血で血を洗う
──……は、いなかった。
そもそも、『拮抗』とはどういう状態か。
互角、伯仲、鍔迫り合い──要は互いの実力が並んでおり、すぐに決着の刻が訪れるとは思えないといった状態の事を指すのだが。
結論から言ってしまうと、その戦いは今。
ならば、そのどちらかの内──フィンとカリマはどちらの立ち位置に居るのだろうか。
それは最早、誰の目にも明らかだった。
『──あっははは!! キミってこんな弱かったっけぇ!? それともボクが強くなり過ぎちゃったのかなぁ!? ねぇラスガルドぉ!!』
「ぐ……!! よもや、これ程とは……!!」
──そう。
フィンが、ラスガルドを
……いや、もう少し正確に言うのなら。
「……要らなかッたな、アタシ……」
フィンが、
ほんの少しも、カリマの助力を受けずに。
とはいえ、ラスガルドは決して弱くない。
破壊力では
魔王軍幹部筆頭に相応しい実力を有しているのは疑いようもないのだが──それでも。
『重く、鋭く、もっと大きく!
「
これまでよりも更に凶悪さを増しに増したドス黒い水の戦斧を振り下ろすフィンに対抗する様に、ラスガルドも己の翼を巨大な剣に変化させての一撃を振るい、相克させるも。
「ぐ、うぅ……っ!? うおぉおおおお!!」
互いの力が触れ合った瞬間、鍔迫り合う事さえ許されずに押し切られそうになったラスガルドだったが、それでも幹部としての意地を見せて、どうにか弾いて一旦距離を取る。
それを受けたフィンは、
『いいねいいねぇ! まだまだいくよ!!』
「望む、ところだ……!!」
ウルともまた違う戦闘狂な一面を覗かせた上で更に凶悪な形の水の武器を顕現させる彼女に、ラスガルドも引っ張られる様に闇の魔術で肉体を強化させつつ特攻していく中で。
(……完ッ全に蚊帳ン外になッちまッた……)
カリマは一人、壁を背に突っ立っていた。
ただ単純に、やる事がないからである。
いや、もう少し正確に言うのであれば。
やれる事が何一つ、ないからである。
(何が『ちッたァ役に立てるかもな』だよ、これなら
これでも彼女は、この部屋に入って実際に戦いが始まるまで、その言葉通り多少ならフィンの役に立てるかもしれない、延いては望子の為に働けるかもしれないと本気で考えていたのだが、それは全くの思い違いだった。
どうやっても自分は、この戦いに介入する事は出来ない──と、そう確信していた時。
『ちょっとカリマ! ボーッとしてないでキミも何かしてよ! こんな奴さっさと殺して、みこのところに行かなきゃなんだからさぁ!』
「え、おォ、そうだな、そりャそうだ……」
あくまでもラスガルドから視線を外さぬまま、フィンから飛ばされた檄に込められた望子への想いを感じ取ったカリマは、それを正論と捉えたが故に朧げながらも魔力を纏う。
ここが、ウルとフィンの最大の相違点。
望子への想いの大きさを比べる事に意味はないが、かたやウルは気分次第で優先順位を決め、かたやフィンは決して何を置いても望子が最優先という優先順位を変化させない。
ただ、これはウルがおかしいのではなく。
壮絶な戦いの最中でも一人の少女の事しか考えられない、フィンがおかしいのである。
「……大した忠誠心だな。 あの幼き勇者に秘められていた力を知った今なら理解は出来るが、それでも貴様程の強者が
そんなフィンの忠誠心──忠誠心ではなく過剰な程の愛なのだが──を見上げた物だと素直に評価しつつ、だとしてもフィン程の猛者があの様な子供に従っている事実を受け入れない、とラスガルドは本音を口にせんと。
──したのだろうが。
『──黙れ』
「がっ!?」
彼の言葉が最後まで紡がれる事はなく、いつの間にかフィンの口から、正確には頭骨の口の中から超高圧縮かつ音速で放出された水流でラスガルドの喉に大きな穴が穿たれた。
『今、何を言おうと──……いや、やっぱいいや。 どうせ、みこを馬鹿にしようとしたんでしょ? もう聞き飽きたよ、そういう戯言』
(馬鹿な……! この私が反応さえ出来ず──)
どうやらフィンはラスガルドが口にしようとした事を、これまでの経験からすぐに察していた様で──実際その通りだからタチが悪い──その口を閉じろと言わんばかりに喉を貫かれたラスガルドは掠れた様な呼吸音を鳴らしながら喉を再生させつつフィンを睨む。
以前の戦いでは予備動作が遅く大きいからこそ幾らでも対処は出来たし、今回についても何とか反応自体は出来ていたのに、たった今ラスガルドへ向けて放たれた水流に彼は。
……ほんの少しも反応出来なかったから。
一方で、彼の自分への苛立ちや不甲斐なさからくる歯噛みなど知る由もないフィンが。
『ねぇカリマ。 ここからは、ちゃんと手伝ってよ。 さっさと終わらせて、みこに追いついて──魔王は、ボクが殺してやるんだから』
「……何、だと……?」
『何? 何か文句あんの?』
卑怯だ何だと言われようが知った事ではないとばかりに、カリマへの助力要請と共に魔王を軽んじる発言をした瞬間、喉を再生し終えたラスガルドから今までと違う憎々しげな声が漏れた事でフィンが問い返したところ。
「あの御方は、魔王コアノル=エルテンス様は……私が唯一、幾ら歳月を重ねようとも敵わぬと思わされた絶対強者。 貴様では──」
思い出したくもない、されど何処か誇らしげでもあるかの様に薄紫の双眸を閉じて過去を振り返る彼の口振りからすると、どうやら彼もイグノールと同様に魔王へ挑戦し──イグノールと違い彼の場合は魔王の許可がなければ挑む事も出来なかったらしいが──そして完膚なきまでの敗北を喫していたらしく。
その時の戦いを振り返れば、たとえフィンでも勝てない筈だと主張しようとした──。
『唯一って、いつの話してんの? ボクに手も足も出てないんだから唯一じゃなくない?』
「……あぁそうだ、その通りだとも。 私と貴様の力関係は完全に逆転しているのだろう」
『だよねだよねぇ! じゃあ、
しかし、フィンはラスガルドの主張も虚しく『唯一』という部分にしか興味を惹かれなかった様で、その後のラスガルドの呆れた様な諦めた様な溜息混じりの返答にも、ただただ『死か退くか選べ』と選択を強いるのみ。
「断る。 むざむざと道を明け渡す事など出来よう筈もあるまいよ──我が忠誠を侮るな」
『あっそ。 まぁどっちでもいいけど──』
されどラスガルドがそれを黙って受け入れる訳もなく、ここまでの彼ともまた異なる圧倒的な覇気と魔力を纏った上での改まった宣戦布告に、それでもフィンは興味なさげで。
『──邪魔立てするなら殺すだけ。 あの時のリベンジも兼ねて、ボロ雑巾にしたげるよ』
「来い! 最強の
ただ、あの幼き勇者へ通ずる道を邪魔するのなら排除すればいいだけの話だと告げて更に魔力と神力、過去に吸収した魔族の魔力をも込めた数十体の海豚型の砲台を浮遊させるフィンの挑発に、ラスガルドは鋭く吼える。
第二ラウンドの、幕開けだった──。
(……取り敢えず、出来る事からやるかァ……)
カリマも、少しやる気になった事だし。
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