第361話 それでも、わたしは──
一方その頃、時を同じくして──。
望子やレプター、カナタやローアを欠いた勇者一行が三幹部との戦いを始めた場所や。
カナタが魔王の側近に一方的な恨みを抱かれた挙句、戦いを挑まれた場所とも異なる。
同種たる魔族でさえ、ごく僅かの限られた者しか立ち入る事を許されぬその場所にて。
「……のぅ、ミコよ。
『……っ!』
これらの事実──望子の母親が女神である事や、その影響で望子の寿命が普通の人間とはかけ離れている事、既に女神としての力を失った柚乃は望子を残して寿命を迎える事。
それらを踏まえた場合、望子と同じで途方もなく寿命の長い
「其方が真に妾の物となるなら、この瞬間も我が城に向かって来ておる其方の仲間も害さぬと約束しよう──……さぁ、どうする?」
『……』
魔王の所有物になると誓いさえすれば、ウルを始めとした望子の仲間たちには手を出さないし、もし既に戦いが始まっているのなら魔王の権限でそれも止めてやろうという一見すると至れり尽くせりな条件まで加えられ。
望子は、しばらく俯いて熟考していたが。
『……わた、しは……っ』
「うむ」
何かを決意したかの様な薄紫の瞳を湛えて褐色の顔を上げ、その口で何らかの言葉を紡ごうとする望子の二の句を待つコアノルに。
『それでも、わたしは……っ!!』
「うむ──う、おっ?」
望子は、まるで今という隙を狙っていたとばかりのタイミングで姿を変えて、その変化のついでに発生した
しかし、それ自体は予想し得たものの。
「ミコ、その姿は……」
蒼炎の内より出でた勇者の姿には、さしもの魔王も目を奪われてしまっていたらしい。
『わたしは! おかあさんにあいたい! ひとりぼっちになるってわかってても、おかあさんがにんげんじゃなくてもかんけいない! あなたをたおして、このせかいのひとたちをたすけて! わたしはおかあさんにあうんだ!!』
「……成る程、相容れぬ様じゃの」
つまり、かの
まるで、どちらを望子が選んでも構わなかったとでも言いたげに、コアノルは微笑み。
「まぁ、それも良いじゃろう。 力で捩じ伏せ自由を奪い、その愛らしい顔を恐怖と涙で歪ませるのもまた一興──あぁ、愉しみじゃ」
『……っ、ぜったいに! かつ!』
互いに望んで一つになる純愛も捨て難くはあるが、どちらかが片方を無理やり組み伏せて蹂躙する歪愛も悪くはない──そう呟いた魔王の昏く艶やかな笑みは望子を恐怖させ。
されど、だからこそ思い通りにはならないと心を奮わせ、勢いそのままに攻勢に移り。
リエナやイグノールとの訓練で教わった事全てを、コアノルにぶつける様に攻撃する。
『いいかい? 突き刺すんじゃなく、その向こうにある物を貫くつもりで伸ばすんだ。 そうすりゃ自然と蒼炎は槍に成ってくれるさね』
蒼炎の九尾を槍に変えた灼熱の刺突。
『まだまだ足んねぇなぁミコ! ほら、その羽は何の為にあんだ!? 飛ぶ為だぁ? 馬鹿言ってんじゃねぇ、斬り裂く為だろうがよ!!』
六枚の羽で
『……今はまだ仔狐でも、いずれ成長すれば立派な武器になる。 精進するんだよ、ミコ』
背後に召喚した炎の狐による高温の咆哮。
『その気になりゃあ、どっからだって魔力は放出出来る! 例えば──角とかからなぁ!』
四本の角から放つ直線状の闇の波動。
『ほら、言っただろう? 戦いは数だってね』
『言ったろ!? 量は質に勝るってなぁ!』
炎と闇、二つを混成させた
一般的な
二つの全く異なる性質を持つ力を巧みに操り、それぞれが魔王軍幹部クラスさえも葬り得る程の威力を誇る蒼炎と闇黒が無数に襲い来ているというのに──……いうのに、だ。
「……ふむ、よぉ使いこなしておるものよ」
──魔王コアノル、未だ戦慄せず。
ただ躱したり相殺したりするだけでは飽き足らず、それらを眼前まで引きつけ観察する様にまじまじと視てから行動に移している。
(ミコ独りで修得したとは思えぬが──……イグノールや
その貌は、どこか
そんな魔王の胸中は如何なるものか──?
(……
それは、この瞬間も望子の首元で歪な存在感を放つ立方体、
(ふふ、あの頃が懐かしいのう……)
……コアノルは、この激闘の最中にあり。
昔を振り返る余裕さえ、あった様で──。
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