第297話 ローアから見た幻夢境
『『『──クェエエエエエエッ!!!』』』
「「……っ!!」」
望子の魔力──そして、ストラから授かった邪なる神力が合わさった黄緑色の光の中から現れた半透明な三体の
今まで感じた事のない──されど、どこか懐かしい感じもしなくはない奇妙な感覚に苛まれたせいで、ただでさえ心の準備が不充分なカリマとポルネが不安げに目を瞑る一方。
「……ついに、ついにかの世界へ──」
最早、知的好奇心を隠しきれていないというより、もう隠すつもりなど毛頭ないらしいローアは邪神たちが創造した世界──
あわよくば、この手に──などと考えていた事が伝わった訳でもなかろうが、その直後に半透明な
三人の視界もまた、次第に暗くなり始め。
そして、次の瞬間には──。
「──……? う、おッ!? 足場が……ッ」
「し、下は──本当に海しかない……!」
先程まで間違いなく船に居た筈だというのに、こうして驚きを露わにするカリマたちの眼下には何処までも広がる青い海しかなく。
元々海に棲んでいたのだから問題ないのでは──と思うかもしれないが、この高さから落ちてしまえば水棲生物でも死んでしまう。
それを分かっているからこそ、カリマもポルネもあたふたとしてしまっているのだが。
そんな中、
「──素晴らしい」
ただ──……ただ、そう呟いていた。
誰が見ても感極まっていようと分かる、そんな昏いながらも明るい表情と声音を以て。
それもその筈、ローアは
その忸怩たる思いが、よもや同じ様に思い焦がれていた召喚勇者の手により叶ったともなれば、こうなってしまうのも無理はなく。
「これが
ローアは、その外見相応の幼い子供の様な含み笑いとともに、改めて
下を見れば海しかなく。
上を見れば空しかない。
しかし、この世界の至るところに水を除く元素を司る邪神の痕跡が残っている事を確信しており、その瞳にもう少し力を込めると。
(……かつて、此処には液体の様に流動を続ける不定形な大陸があり……その大陸には土だけではなく四柱全ての眷属《ファミリア)が棲息していた)
妖しく煌めく薄紫の双眸には、この世界に間違いなく存在していた筈の巨大かつ流動的な陸地の姿が幻影の様に映し出されていた。
その大陸には、かの土を司る邪神ナイラの
(……
おそらく、カリマとポルネは『あちらの世界』限定の
この力は、ただ単に彼女の眼力や想像力が常軌を逸しているから──という曖昧なものではなく、かつて彼女が何某かから掠め取る様に読み取り、そして模倣した力であった。
では、その何某かとは誰の事か──。
それは、他でもない彼女の創造主であり。
恐るべき魔王でもある、コアノルだった。
時間にしてみれば一秒にも満たない、一瞬の隙を突いて魔王の力を盗み取り、そして模倣する事が可能な魔族は実力的に四体だけ。
魔王の側近──デクストラ。
魔王軍幹部筆頭──ラスガルド。
そして、
だが、デクストラとラスガルドは魔王に対して絶対なる忠誠を誓っていたし、イグノールに至ってはそんな事を成せる技量がない。
つまり、ローガンにしか出来ない──というよりローガンしか実行に移そうとさえ思わない事を彼女は実際に
尤も、コアノルが彼女の所業に気づいているかどうかは今でも謎のままなのだが──。
(こうして水を除く三柱が消滅した今でも痕跡が残っているのは……おそらく
とはいえ、そんな事など今は頭の片隅にもないローアは、ストラを始めとした三柱の邪神たちが勇者──或いは魔王に吸収されても
「──……む?」
漸く、カリマたちの姿がない事に気づく。
そして今よりも更に下へ意識を向けると。
「アタシが海に一撃ぶッ放しャあ、ちッたァ落下の衝撃も抑えられンじャねェかァ!?」
「ま、待って! それなら私がやった方が!」
「間に合わねェよ! やッぱアタシが──」
いつの間にやら身を寄せ合い、それぞれの八本と十本の脚を絡めたうえで落ちていく二人の姿がそこにあり、どうやら落下の衝撃を
たった今この瞬間にも青白い斬撃を海面ギリギリで放とうと備えるカリマを、『遠距離攻撃可能な私の方がまだマシな筈』と抑えるポルネという痴話喧嘩じみた光景が映った。
(……我輩とした事が、失念していたな)
どうやら──というのもあれだが、ローアは
「──
「「!?」」
生物の収納は出来ない、ローアを始めとする一部の強者のみが干渉する事が出来る亜空間を──どういう訳か二人の落下点に展開。
間もなく自分たちが落水する地点より少し上辺りに突如として出現した空間の穴に、カリマとポルネが声を上げる事も出来ず驚いたのも束の間、二人の身体が
「ゥぐッ!?」
「きゃあ!?」
──……
奇しくも、カリマたちを受け止める形で。
「カリマ嬢、ポルネ嬢。 無事で何より」
「お、おォ……」
「お陰様でね……ありがとう」
「う、うむ……」
「「?」」
最早、球状かつ半透明な浮き輪の様になっていた
多少なり、ローアの気まずげな反応に違和感を覚えていた様だが──それはさておき。
「……ねぇ、ウルたちは何処にいるの?」
「そういやそうだな、近くに居ねェのか」
きょろきょろと一面の大海原を見渡していた二人から発せられたのは、よくよく考えずとも本来の目的であるところの邪神討伐の為に不可欠なウルたちの所在についての疑問。
ウルたちを転移させた望子が同じ手段を以て自分たちを転移させたのだから、てっきり近くに居るのだとばかり思っていた様だが。
「……おそらく扱いきれていなかったのであろう。 ミコ嬢もまた、発展途上であるゆえ」
ローアとしても確信はないものの、きっと望子が風の邪神の力を使いこなしきれていない事が原因なのだろうという推測を述べた。
尤も、『扱いきれていない』というのはあくまでも『
「まァ確かに、まだまだ餓鬼だもンなァ」
「……殺されるわよ、フィンに」
「!? つ、告げ口すンなよ!?」
「はいはい、分かっ──」
一方、ローアが何気なく口にした『発展途上』という言葉を深読みしたカリマに、ジトッとした視線を向けたポルネが厄介な保護者の名を告げて軽く脅すやいなや、カリマが大袈裟なくらいに怯えていた──……その時。
「「──!?」」
「……む?」
突如、二人の身体を粘りつく邪気か何かが這い回り、その邪気が飛来してきた方角へ身体ごと顔を向けた
「……おい、ポルネ……今のは──」
「……えぇ、間違いないわ」
「……
自分だけでなく、おそらく相方も同じものを感じた筈だと確信していたカリマのおずおずとした声に、ポルネはこくりと首を振り。
いまいち要領を得ないローアが何事かと問いかけると、二人は互いに顔を見合わせて。
「「──……
「……何?」
……そう、口にした。
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