第296話 海戦の開戦
つい先程まで、ウルたちが飛ばされた先の世界について語っていたローアが姿を消し。
『ろーちゃん!? どうしたの──えっ』
彼女が消えた事よりも、この船の外──海から何かが現れた事を翠緑の瞳で視抜いていたハピの驚きの声によって、ローアが船室の外へ転移した事を察した一行が外に出ると。
「お、おいアレは……っ!?」
「
元より海住まいだったという事もあり、それらを最も見慣れているカリマとポルネは真っ先に船を包囲する魔物たちの名を叫んだ。
「……見間違いであってほしかったけれど」
更に、それらを船室に居ながらにして看破していたハピも、あの時と同じ軽くない頭痛を覚えつつ如何にも苦々しい呟きを漏らす。
とはいえ、あの時──
「……あんな黒かったっけ」
また、フィンはフィンで以前に遭遇し、そして討伐した個体とあまりにも色が違いすぎる事に疑問を持たざるを得なかったが──。
「さぁ? キューたちは見てなかったし、ね」
「そ、そうね……どうなのかしら」
それを聞いていたのが当時は単なる
(……試してみるか──)
その一方、望子たちの下へと飛んでいった後、再び甲板へ戻る事になったレプターはといえば、この瞬間にも自分たちを喰らわんと蠢く魔物たちに何らかの対策を講じんとし。
『『『ヴュアァアアアアアアアッ!!』』』
「ッ、おい来るぞ! やッていいよな!?」
「いーんじゃない? ボクもやろっかな──」
不定形な己の身体そのものを武器として鞭の様に振るい、この船を沈めようと襲いくる
──した、その瞬間。
「──『動くな』」
『『『ッ!?』』』
レプターの口から発せられた、たった一言の制止の言葉で禍々しい色合いの津波が如き
「「「「「……!?」」」」」
また、その一言によって動きが止められた訳ではないものの、カナタを始めとする一部の強者を除いた一行や魔族たちが驚く一方。
「
「お母さんの加護のお陰だよね?」
「十中八九、相違ないであろうよ」
「ふふん!」
これといって驚いている訳でも慄いている訳でもないローアは、以前と比べ物にならない覇気を放つレプターの
それが、キューにとって母親の様な存在でもある
「……なーんか嫌な事思い出しちゃった」
「奇遇ね、私もよ」
また、フィンやハピは望子が聖女により召喚されたその日に遭遇し、そして敵対する事となった魔王軍幹部筆頭、ラスガルドの口から発せられた『力ある言葉』とレプターの言葉が同じ事に気がついてげんなりしている。
『……どうしたの? なにかあった……?』
「……んーん、何でもないよ」
『そ、そっか……』
そんな二人の機微を察した、まだ風の邪神の状態を維持したままの望子が、いつもと立場が逆転したかの様にフィンの顔を上から覗き込みながら尋ねるも、『あれは知らなくていい事だよね』と判断した彼女は首を振り。
いまいち納得してなさそうな表情を浮かべていた望子も、それどころではない事態だという事は理解していた為、話を終わらせた。
そして、どう見てもあの時とは見た目の異なる
「……ミコ嬢、あちらは──……
『えっ? え、えーっと──』
その動作を中止させたのは、『望子の脳裏に浮かぶ
『……おおかみさんと、いぐさんと──』
やはり大海原だけが広がっている世界の中心に突如として現れていた、まるで巨大な龍の背の様な足場に立つ
──そして。
『──……? だれ、だっけ……?』
「……誰、とは?」
絶対に──……そう、絶対に初見である筈だが、それでも何故か
『なんか、おっきいおんなのひとが──おんなのひと、なのかな? よく、わかんないんだけど……そのひとが、ふたりとはなしてる』
「大っきい女の人? それ、もしかして──」
すると望子は、『ん〜?』と首をかしげて唸りつつ子供相応の語彙力を以てして、ウルたちと相対している『身体の大きな女性っぽい何か』について説明し、それを聞いていたフィンがよもやと思い至って顔を向けると。
「おそらく水の邪神──ヒドラであろうな」
「……成る程、今は
ローアもまた、フィンと同じ考えに至っていたらしく、その『大っきな女性』とやらが水を司る邪神──ヒドラであると結論づけ。
こうして邪神の力を纏った
そんな中、空に浮かんだまま
(……っ、止めきれないか……! やはりあの
動けない──といっても満足に動けないというだけで、じわじわと一行へ這い寄っている
『『『ヴィ、ア"、ァア"ア……ッ!!』』』
「く、お……っ」
事実、
「……元を断たねば、という事であるな」
『ろーちゃん?』
それに気がついていたのは当事者であるレプターだけではなかったらしく、とても危機感を抱いている様には見えないローアの呟きがたまたま聞こえていた望子が覗き込むと。
「ミコ嬢、我輩を
『そ、そうなの? まぁ、いいけど……』
「うむ、よろしく頼む」
突如、ローアはウルたちと同じ様に自分を
──その時。
「ま、待って! お願い、私も連れてって!」
「頼む! 足手まといにはならねェから!」
『えっ? で、でも……危ないよ?』
二人の会話が耳に届いたからか、ハッと我に返って駆け寄ってきたポルネとカリマが自分たちも邪神討伐に力を貸すと豪語してきたものの、どうにも望子は気乗りしない様で。
それもその筈、ローアくらいに余裕たっぷりといった様子ならまだしも、カリマもポルネもそんな感じでは決してなく、『いいのかなぁ』と思ってしまうのも無理はなかった。
「危ねぇのなンざ分かッてる! けど、アタシらは元々
しかし、カリマたちにもそれ相応の理由がある様で、そもそも自分たちが邪神と知らずに力を借り受けてしまった事が原因であり。
「……そう、だからあの人は間違いなく私たちを──……延いては私たちの支配権を奪ったミコちゃんに怒りを覚えている筈よ……」
『そ、そんな……でも、だったら──』
その事もあって、ヒドラは間違いなく自分たちや望子に深く昏い怒りを抱くとともに自分たちを取り戻そうとするだろうと告げる。
とはいえ、それならば尚の事こちらの世界に残って、ウルたちの勝利を待つ方が──と幼いなりに考えた望子の言葉を遮ったのは。
「……この船の護りを担うレプ嬢、ミコ嬢が傷ついた場合に癒す役割を担う聖女カナタとキューは残るべきであろうが、お主らは?」
『えっ? ろ、ろーちゃん……?』
この船──というよりは、こちらの世界に残って望子とともに在るべき者たちの役割についてを語るローアの声であり、びっくりした様子の望子にも構わず彼女は残りのフィンとハピの動向についてを問いかけたのだが。
「ボクは残るよ、っていうか当然でしょ?」
「えぇ、そうね。 私も残るわ」
「……愚問であったな」
当の二人は何を今更と言わんばかりの表情と声音を以て、『望子以外に優先すべき事などない』と暗に告げて居残りをすると言い。
結局、ローアとカリマとポルネの三人が新たに
『……いかさん、たこさん……それと、ろーちゃんも。 おおかみさんと、いぐさんをおねがい──……でも、むちゃはしないでね?』
何よりも友達や仲間たち、そして同盟者すらの無事をも願う望子からの
異世界の表と裏を跨いでの、水を司る邪神ヒドラとの本格的な戦いが幕を開ける──。
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