第十二章

第287話 水底に澱む怨嗟

 ──怨めしい。



 ──あぁ、怨めしい。



 異界よりの人族ヒューマン風情に封印される程度の力しか持たぬ矮小な存在如きが、この母なる海を穢すとは──。



 ──何が『生ける災害リビングカラミティ』か。



 随分と好き勝手に暴れてくれた様だが、どちらが災害と呼ぶに相応しいか目に物を見せてやるとしよう。



 ……あぁ、怨めしいのはあの愚者だけじゃない。



 私の可愛い──『眷属』たちもそうだ。



 優しさなんかを始めとした不要な感情を全て取り除いた事で、あんなにも従順になっていたというのに。



 ……今となっては、まるで普通の女性であるかの様な体たらくとなってしまっている──なんてザマだ。



 おまけに、あれだけ注いでやった力を薬か何かで消されているらしいし、その力も返ってこないときた。



 絶対に、絶対に──この手で取り戻してみせる。



 ……無論、眷属たちを誑かした者も怨めしい。



 千年以上も前に、あの愚者も含め全ての羽虫どもを封印した人族ヒューマンと同じ世界から喚び出されたあの少女。



 同じ世界の出身というだけじゃない、あの黒い髪も黒い瞳も瓜二つに思えるし、何かの関係があるのかもしれないけど──そんな事は、もうどうだっていい。



 私の可愛い眷属を奪った代償は払ってもらう。



 ……その命を以て。



 何しろ──同胞の仇でもあるのだから。



 あの娘は満足して死んでいった──それは分かる。



 けれど、それで割り切れるものじゃあない。



 もう、この世界で生き残っているのは私だけだ。



 土、風──そして火も最近になって吸収された。



 あろう事か、あの愚者の首魁──『魔王』に。



 それを考えれば、まずは魔王を──と言いたいところだけど、あれを討ち滅ぼすにはまだ力が足りない。



 ……たとえ少女でも、あれは紛れもなく召喚勇者。



 あれの傍にいる、あの人魚マーメイドごと吸収出来れば──。



 私の──の悲願を達成出来るかもしれない。



 決して楽ではないだろう。



 返り討ちに遭う可能性も充分にある。



 それでも、やる以外の選択肢を選ぶつもりはない。



 ……そうでしょう?



 ストラ、ナイア、アグナ──私の大事な同胞なかまたち。



 貴女たちの仇、勝手に討たせてもらうわ。



 この世界に最後に残った『邪なる神』である私が。











 水を司る邪神──……『ヒドラ』がね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る