第262話 閉じ込められた!
日光が射している訳でもないのに、どこか暖かい。
柔らかい黄緑色の光の粒子が宙を揺蕩う結界の中を歩く三人は、つい先程まで雨でも降りそうな曇天の下を歩いていたのに、いざ結果の中に入ってみるとそんな感想しか出てこない事に僅かながら驚きつつ──。
「不思議だな……外が見えなくなってしまった」
「多分、外からも見えてないんでしょうね」
カナタたち三人が結界の中へと完全に足を踏み入れた瞬間、何故かは分からないが結界の外の朽ち果てた森の姿も人魚や魔族の姿も見えなくなっていたが、それについては取り敢えず置いておく事にしたらしい。
考えても理解が及びそうにないからかもしれない。
「そ、そういえば……ローアさんは『神力の集まる場所に』って仰ってましたけど……具体的には、どの辺りなんでしょうか。 この結界の中なら、どこでも?」
そんな中、割と落ち着いているカナタたちとは対照的に、あわあわとした様子のファルマは結界の中を忙しなく見回しながら、『植える場所』を明確に指定されていなかった事を思い出して二人に声をかけるも。
「単純に、あの祠の前の地面じゃ駄目なのかしら?」
「いいんじゃないか? それとも確認してから──」
やはり特に焦っていない──というより焦っている余裕もない二人は同じタイミングでファルマから祠の方へと視線を移し、ローアの話では女神が宿っているらしい祠の辺りでと結論づけつつ、『確認してからの方が』とレプターが結界に触れようとした、その時。
「……ん……?」
「「?」」
間違いなく自分たちが入ってきた筈の結界に触れた彼女は、さも何かしらの疑問を覚えた様に首をかしげており、それを見た二人もまた首をかしげてしまう。
「レプター? 何かあったの?」
「いや、これは……まさか」
そんな神官二人を代表してカナタが『何事か』と問いかけると、レプターは彼女からの問いに答えるより先に自分が感じた違和感の真相を突き止めるべく、ゆっくりと歩きながら結果の至るところに手で触れて。
漸く、その違和感が間違いでなかった事に気づく。
「……馬鹿な、出口がなくなったのか……?」
「え、と、閉じ込められたんですか……!?」
そう、いつの間にか彼女たちは結界の中に閉じ込められてしまっていた様で、その事実に驚くというより警戒心を強める方に重きを置いているレプターの隣では、ファルマが一層の焦燥感を覚えてはいたものの。
「さっき私がレプターに声をかけた時は開いていた筈よね……? もしかして、ダイアナ様は私たちを──」
どうやら、カナタはカナタで『女神の不興を買ったのでは』と違う意味で焦っており、ほんの少しだけ震える手をもう片方の手で抑えつつ、それを口にしようとした彼女を手で制したのは他でもないレプターで。
「──……逆、なのかもしれないな」
「「逆……?」」
だとしたら、わざわざ招き入れる必要もない筈だと判断したうえで、『閉じ込められた』のではなく『外にいる者と隔離した』のではと暗に告げるも、いまいち要領を得ない二人は控えめな声で揃って尋ね返す。
すると、レプターは『つまり』と前置きして──。
「私たちを閉じ込めたのではなく結界の外にいるフィンとローアに見られない様にする為に、この結界の中と外を断絶したのかもしれない。 確証はないが……」
「……お二人が……その、魔族だからですか……?」
これから行う樹人から神樹人への進化や、あるかもしれない女神との邂逅を魔族だったり魔族もどきだったりする二人に見られないところで済ませるべく、こういう仕掛けをしたのではと推測する中で、ファルマは思わずフィンごと『魔族だから』と括ってしまい。
「……フィンは魔族ではないがな」
「あっ、す、すみません……!」
翻って、その小さな疑問を聞き逃さなかったレプターが、とことんまでに表情を顰めて『仲間を魔族呼ばわりされるのは不愉快だ』とばかりに声音を低くした事により、ファルマは即座に頭を下げて謝意を示す。
ここで関係を悪くする訳にはいかなかったから。
「多分、貴女の考えで合ってるとは思うわ。 この中から結界の外が全く見えなくなったのも、きっと──」
一方で、カナタは機嫌を損ねたレプターを宥める為にも彼女の推測に同意したうえで、そこへ補足する様に外が見えなくなった事を重ねて言及しようと──。
「けれど、ここで考えてても仕方ないわ。 まずは何より、キューの進化を優先させましょう。 いいわね?」
「……あぁ、そうだな」
「は、はい!」
したものの、それを遮ったのは他でもない彼女自身であり、ここでの最優先事項はキューの進化であると改めて認識させつつ二人を見遣った事で、レプターは納得がいってなさそうにしながらも頷き、ファルマは自分の失態を挽回するべく一層やる気を搾り出した。
その後、自身の手が汚れてしまう事も構わずにファルマが祠の前の死んだ地面を浅く掘り、そこに苗木と化したキューをカナタが植えた──まさに、その時。
「うわっ!?」
「ぐっ!?」
「きゃあっ!?」
突如、祠が黄緑色の強い閃光を放った事によって三人の視界は次第に塗りつぶされていき、あまりに突然の事態に三者三様の悲鳴を上げてしまったところで。
場面は、とある
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