第260話 ディアナ神樹林跡地
──その森は、いみじくも死んでいた。
伐採されてしまった訳でも火災が発生した訳でもない、かの
森林の跡地と、そうでない場所とをハッキリと区分けするかの様に黄色や緑色、或いは白や黒のカビによる線引きがされたその光景は、どうにも非現実的で。
「──……気味悪ぅ」
そう表現してしまうのも無理はないと言えよう。
「あの龍──
「……見る影もないな」
その一方で、フィンの呟きを耳にしたファルマは誰に聞かせるでもない独り言の様に、メイドリアの住人が話していた十年前までの風光明媚なディアナ神樹林を語るも、とてもではないが神々しさを感じる事など出来ず、レプターは何とも言えない虚しさを抱いた。
「これは流石に……進化の条件を満たせるとは──」
一行において最初に神樹林へ向かう事を了承したローアも、この状態では神々の加護など残存しているかどうかすら怪しいと踏んで早々に興味をなくしかけていたのだが、そんな彼女の呟きを遮ってみせたのは。
「──……まだ、残ってると思うわ」
「……何?」
誰に聞かせるでもなく、されど妙に力のある声だったからか全員の耳に届いたカナタの呟きであり、そんな彼女に全員が注目すると同時にローアが聞き返す。
「神々の──ダイアナ様の加護は残ってるし、もっと言うとダイアナ様自身のお力も少しだけ感じるのよ」
「本当か!? では、キューも……!」
すると、カナタは自分でも気づかない程度の淡い光を瞳に纏わせつつ、きょろきょろと辺りを見回して荒廃した森林から漂う神々の加護の残留思念を感じ取っていたらしく、それを聞いたレプターは先程まで抱いていた虚しさから一転、希望を強く胸に抱いていた。
「でも、その方法が私には分からないのだけど……」
「そこは、ほら。 ローアさんがいますし、ね?」
「任せていいのか? ローア」
とはいえ、どうやったら進化するのかという明確な方法を教わらぬまま出立したカナタとしては不安もある様だが、まず間違いなく把握しているだろう魔族がいるから大丈夫だとファルマがローアへ目を向けるとともに、レプターも同じく目を向け確認せんとする。
「うむ。 かつては
「「か、解剖……」」
そんな一行の視線を受けたローアは、どうにも得意げで──それでいて好奇心を抑えきれない様子で過去を振り返り、『解剖』という物騒な言葉が出てきた事にファルマは顔を引き攣らせ、カナタに至っては
「……その
その妙な空気の中、如何にも元気のない声色で口を挟んだフィンの言葉に対し、ローアは『ふむ』と唸ってから少しだけ思案する様に顎に手を当てつつ──。
「
「そ、そうなのか……ふふ」
神樹人の種族名の由来を明らかにしたうえで、その神懸かった力に並び立つのはレプターも属する
上位種という括りなら、カリマの属する
今、彼女の中に湧いた僅かな愉悦は『私が一番、ミコ様のお役に立てるのでは』と考えての事だったが。
「……それでも
しかし、そんなレプターとは対照的に至って真剣かつ決して明るくはない表情を浮かべつつ、それでも元の身体に戻らなかった場合の第二案を尋ねたところ。
「さすれば我輩にはお手上げであるし、それこそ神頼みするしかあるまいなぁ。 この様な荒廃した森林を植物の女神が見捨てていなければ──の話ではあるが」
「……そうならない様に祈るしかない、って事だね」
ローアはフィンの問いかけに対して大袈裟に両手を上げた姿勢を取ってから、とても魔族とは思えない神に縋る様な物言いをしつつも、やはり不遜な態度は変わらぬままにそう告げた事で、フィンは深く長く溜息を溢しながら飛び魚の如き翼を広げて再び進み出す。
別に、どちらでもよかったのだ。
望子を助けられるだけの力が残りさえすれば──。
その後、一行は神樹林跡地を奥へ奥へと進むも。
「どんどん気味悪くなってくんだけど……」
「全くだな……」
フィンの言葉通り奥へ向かえば向かう程に死んだ森は不気味さを増していき、まるで地面から大きな白骨が不揃いに生えているかの様な光景を見て、『アドライトなら何と言うだろうか』とレプターは少し前に出会った
「でも、それと同じくらいダイアナ様のお力も──」
「はい、強く感じます。 私みたいな一神官でも」
そんな中、神官コンビのカナタとファルマは完全に死んだ筈の森から、ひしひしと神の力を肌で感じ取っていた様で、お互いに顔を見合わせ頷きつつ少しだけ気持ちも逸り、それに伴い歩く速度も僅かに上がる。
とはいっても、そんな二人を先に歩かせる訳にもいかないと考えたレプターの歩行速度も必然的に上がった為、結局のところ全体の移動が円滑になった事で。
「──……ん? あれは何だ……?」
「ふむ。 おそらく、あれが──」
本来ならば距離的にも時間的にも、もう少し後に一行の前に姿を見せる筈だった『何か』が、この一行で最も感覚が優れたレプターとローアの視界に移り、かたや見た事もない物相手に首をかしげ、かたや見た事はなくとも何となく察しがつき興味ありげに唸る中。
「……祠?」
カナタの呟きが、『何か』の正体を明確にした。
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