第243話 龍の規模での隠し玉
余談だが──。
ウルたち三人に
その苦痛を何とか乗り越えた三人ともが
本来、
一つは、ウルたちやリエナが刻む『
今は過去のものとして扱われる旧式の技術。
では、もう一つは?
それこそが、レプターが刻んだ『
ともすれば高い死の危険と常に隣り合わせとならざるを得ない
では、どうしてリエナはウルたち三人に対して、わざわざ危険性の高い
それは、ウルたちに魔力限界を超えるだけの器があるかどうかという事と、その自ら死地へと向かう様な方法を受け入れるだけの覚悟があるかという事を。
どうしても、確認しておきたかったから。
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閑話休題。
レプターの
このままいけば──と、レプターだけでなくローアやカナタまでもが、この状況に希望的観測を抱く。
「……っ、ローア、今更だがフィンは……」
だからか爆発以外の事に思考を回す余裕も出来ており、この爆発の中にイグノールとともに取り残されている筈のフィンの安否をレプターがローアに問うも。
「……分からぬ。 普段のフィン嬢であれば命を落とす様な事はなかろうが、あの爆発では流石に……」
「……ミコ様の為にも救いたいところだが……!」
ローアとしても、それこそ世界最強を決するかの様な衝撃の中にあって、いくらフィンが勇者一行で最も強く、そのうえ異形の存在へと姿を変えていたとしても耐えられないのではと考えており、それを察したレプターは悔しげに歯噛みしつつも彼女の無事を祈る。
彼女が死んだら、きっと望子は折れてしまう。
そして、それは逆もまた然りなのだと──。
レプターは、そう確信していた。
ゆえに生きていてほしいと心から願い、その超人的な感覚を持ってフィンの声や鼓動を探っていた時。
「──ん!?」
「む……」
「え、何……?」
両者ともに
しかし、レプターもローアもカナタの声に答える事なく、お互いに驚いた顔を見合わせてから頷き。
「……今のは、まさか……ローア」
「うむ、おそらくは──」
どうやら同じ事を考えているのだろうと理解した二人は、これまた同じタイミングで息を吸って──。
「「──イグノール」」
「え……!?」
示し合わせた訳でもないのに同じ者の名を口にした二人の発言に、カナタは目を剥いて驚いてしまう。
「ど、どういう事……!? あの爆発の中で、まだ生きてるの!? いくら強いって言っても下級でしょ!?」
カナタにとって最初に遭遇した魔族は上級で最高位の
「……下級でも魔王軍幹部が一体。 正直に言って、あれを肉体的な強さで上回る同胞を我輩は知らぬ」
「そ、そんな……!」
しかし、どうやらローアとしては充分に予想の範疇であったらしく、かの魔王軍に所属する全ての魔族の中でもイグノールは、そこらの上級はおろか下手をすれば|魔王コアノルさえ上回りかねない耐久性を兼ね備えていると明かした事で、カナタは絶望してしまう。
あの時、宝物庫で遭遇した
尤も、それはイグノールに限った話であり、デクストラが魔王軍最強というのも間違ってはいないが。
「そ、それで……何が聞こえたの……?」
そんな折、気を取り直す様に首を振ったカナタが二人に対し、イグノールが何を言っていたのかを問う。
当然、彼女には声など聞こえていなかったから。
すると、ローアは横目でチラッとカナタを見つつ。
「……朧げに、ではあるが……奴は、あの状況で何やら探し物をする様な独り言を呟いていたのである」
あの爆発の中にいるとは思えない程の呑気な声音で聞こえてきた、『どこだったっけか……あぁ、これだこれ』という言葉を、そのまま口にしてみせる。
ぐちゃぐちゃ──という何かをかき混ぜているかの様な水音も聞こえていたが、それは伝えなかった。
「探し物……? 一体、何を──」
同じ魔族であるローアすら分からないのに自分が分かる筈もない、と半ば思考を放棄してしまっていたカナタが、ローアの言葉を反復していた──その時。
「──!! あれは!?」
「!? どうしたの!?」
二人の会話を聞きながらも結界に込める力を緩めていなかったレプターの視界に、その結界の中で爆ぜている魔力とは異なる魔力の光が見えた事で目を見開きつつ叫んだ事で、カナタは驚いて勢いよく振り向く。
「……あの、輝きは──っ!! まさか!?」
そこには、その爆発による光にも劣らぬ程の閃光が結界を貫く様に放たれており、それを見たレプターは一瞬だけ黙考し──その光の正体に気づくと同時に隣に立つ白衣姿の上級魔族の方へ顔を向けんとした。
自分が気づいたという事は──と考えて。
「……『
そんな彼女の予想通りに──というのが幸か不幸かはともかく、ローアは憎々しげに強く舌を打ちつつ十中八九イグノールが行使したのだろう技の名を呟く。
「ど、
『きゅ〜……?』
一方、誕生して間もないキューは勿論、ある程度の知識を有するカナタでさえも知るところではなかった為、二人揃ってパチパチと瞬きをするしかない様だ。
「……っ! あれは……あれは、
翻って、ローアが口にしたものと自分が予想していたものが同じだった事により、その予想が確信へと変わったレプターは声を荒げて『ありえない』と叫ぶ。
それもその筈、
だからこそ、どう見ても既に命を落として朽ち果てている、あの龍にあの
それが、レプターの確信じみた見解だったのだが。
「……おそらく、ではあるが……イグノールは、あの龍の記憶から
一方のローアは、レプターとはまた違う確信じみた見解を持っていたらしく、イグノールが龍の脳を弄って
ぐちゃぐちゃ──という水音も、イグノールが龍の脳味噌を乱暴にかき混ぜていた音だったのだろう。
「そんな非常識な事が……ありえるのか……?」
それを聞いたレプターは、これまで散々に望子やウルたちの非凡な力を見てきたにも関わらず、イグノールの異常さに驚き少しずつ声が小さくなっていく。
そんなレプターをよそに、ローアは『ガリッ』と音を立て右手の親指の爪を噛みつつ何かを考えており。
(……我輩や部下たちの技術を盗み見ていたか。 とはいえ、それも先程まで忘れていたのであろうが……)
そう──。
本来、記憶の操作や改竄、或いは抽出といった技術はローアを始めとする
尤も、ローアの予想通りに望子とカナタの力で記憶や経験を取り戻すまでは完全に失念していた様だが。
「……っ、ローア、正直に答えてくれ。 あれは──」
その時、思考の海に飛び込んでいたローアに対して力無い声をかけたレプターが、ほんの少し言い淀んでから何かを尋ねようとしたのだが、ローアは彼女の言いたい事を既に察していたのか小さな手で制し──。
「この結界では持たぬ──とだけ言っておこう」
「やはりか……! なら、どうすれば──」
並の
何を隠そう──あの龍は、かつての召喚勇者が移動手段と戦力を兼ねて仲間にしていた個体であり、その力は並の龍とは一線を画すものがあったのである。
そして、その並外れた力を持つ筈の龍を単身で撃沈させて魔王城まで持ち帰ったのが他でもない──。
当時は単なる下級魔族だった筈の──イグノール。
それを目の当たりにした当時のローアは、その龍をベースとして彼を強化する事を着想したのだった。
とはいえ、この事実を伝えたところで詮無き事。
「……我らにも、そして大陸にも被害を出さない様にするというなら──最早、上に逃がすしかあるまい」
「上──っ、そうか!!」
そう考えたローアが首を横に振り、まずはとばかりに事態を収束させる為の解決策を提案すると、レプターは瞬時にローアの口にした策を理解してみせる。
──爆発と
そう言っているのだろうと──。
「ローア!
「──防げ、と。 承知した」
その為、横に大きく広げていた翼を縦に大きく広げながらもローアに指示を飛ばそうとした瞬間、先読みしたローアの極めて短い言葉にレプターは頷き──。
──今、世界最強の
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