第236話 やってない
ウルがフラグじみた呟きを口にする一方。
大陸ごと揺らすかの様な地響きと、それと同時に巻き起こった彼女たちの視界を覆ってしまう程の、あまりに多量のカビが含まれた土埃の中にあって──。
「凄まじいな、勇者と聖女の力というのは……」
『きゅー! きゅー!』
未だにキューを肩に乗せたまま空を飛んでいたレプターは、カビが自分たちの方へ来ない様にと
地球でいう、アトラクションか何かだとでも思っているのかもしれないが──それは誰にも分からない。
一方、望子の事を
(……あの聖女、前より強くなってない……?)
どうやら、ここに辿り着く前に一行が訪れた港町の近海に出没した悪霊、
魔術の威力や範囲、効果などは術者の想いの強さで大きく変化するが、こと普通の
望子と共に戦える、望子の力になれる──そんな想いが魔術となり、この結果を生んだのかもしれない。
とはいえ、フィンが元より望子以外に興味がないというのは言うまでもなく、『まぁいいや』と早々に視線を外して未だ仰向けに倒れたままの龍を見遣る。
イグノールは──ピクリとも動かない。
「……おいハピ、こいつ死んでんのか?」
そんな中、最もイグノールに近い位置で戦いを続けていたウルは、その炎を全身に纏う事でハピやフィンと同じ様にカビを防ぐ事に成功していたが、それでもこの悪臭だけはどうにもならず鼻を覆いながら問う。
しかし、実のところ心なしかその悪臭が薄れている様な気がしないでもない──と考えてもいたのだが。
「……どうかしら。 ちょっと分からないわね」
「あ? 何で──あぁいや、そうか……」
翻って、普段ならその翠緑の瞳で生物を見通せば息があるかないかぐらいは見抜ける筈のハピが、ふるふると首を横に振って『生死の判別が不可能』と暗に告げると、ウルはその理由を問おうとして──やめた。
何を隠そう──もう随分と長生きなローアを除けばウルは一行で唯一、
数瞬の後、彼女にしては珍しく思案に耽っていたものの何やら思い至ったのか後方へ顔を向けて──。
(……そうだ、
蛇の道は蛇だと言わんばかりに、イグノールに手を加えた張本人であるローアに確認を取ろうとしたのだが──その時、奇妙な違和感に襲われたウルは咄嗟に未だ倒れたままの状態のイグノールへと視線を戻す。
一瞬、腐乱臭が完全に消えた様に感じて──。
────────────────────────
そんな折、目の前で極大の青い熱線を放った
「……おいおい、アタシらの立つ瀬がねェなァ……」
真っ先にハッと我に返ったカリマは、めらめらと燃える蒼炎と化した望子を見ながら『護るべき対象』に護られてしまった事を情けなく思い、そんな負の感情に沿う様に彼女の十本の触手も萎れてしまっている。
「あら、ミコたちが活躍するのはいい事じゃない?」
だが、ポルネは対照的に望子やカナタには驚きつつも、いかにも勇者や聖女といった力を見せた二人を称賛しカリマの肩に手を置きながら、『ね?』と望子の方へと視線を向けようとした──その瞬間だった。
『──ふぇ、あぁああああ……』
「「「!?」」」
突如、蒼炎の
その姿は、まさに幼少期のリエナというところ。
「み、ミコ!? 大丈夫!?」
「具合でも悪ィのか!?」
あまりに突然の事態であったものの、カリマとポルネはすぐさま望子に駆け寄り地面に膝をついてしまっていた少女を支えんとするが、どうやら
そんな状態で二人が望子を心配していると──。
『う、うぅん、だいじょうぶ……ちょっと、きがぬけちゃったみたい……まだ、まりょくもあるのに……』
それが肉体的になのか精神的になのかはともかくとして、どう見ても望子は疲弊しきっており、まるで命の灯火であるかの様に蒼炎が明滅を繰り返している。
尤も、これは望子の魔力が切れかけている証──ではなく、あくまでも術者たる望子の疲れを示しているだけであって、それこそ望子の膨大なまでの魔力自体はまだまだその小さな身体に内在されているのだが。
「無理はしちゃ駄目よ、こんな幼さで超級を扱えてる時点で凄いんだから──気休めかもだけど、ほら」
その時、聖女ゆえかそれを誰より早く察したカナタが望子の傍で同じ様に膝をつき、おそらく精神的な疲労だと判断して
『あ……うん……ちょっと、げんきでたかも……?』
それを受けた望子は、カナタの言葉通り正直に言えば気休めでしかなかったとはいえ、その気持ちが嬉しかったのか力無い笑みを浮かべて返答し、カナタもそれを分かってはいたが余計な口出しはせずに頷いて。
「……そう、よかった。 後は皆に任せて──」
戦いが終わったといっても後始末があるだろうと思い直し、それらは仲間たちに任せれば大丈夫だから少し休もうと提案しようと──したのだろうが。
「──っ!! ミコ嬢!!」
『……え? ろーちゃ──』
その声は、あまりに迫真の声と表情を持って叫ぶローアの呼びかけに遮られてしまい、いきなり名前を呼ばれてきょとんとした望子がそちらを向こうとした。
──その時。
──ぞるっ。
と、そんな不気味な鈍い音を立てて望子やカナタの目の前にある地面が奇妙に盛り上がったかと思えば。
そこから地面を割る様に姿を現したのは、まるで極限まで研いだかの如き鋭さを持った二本の琥珀色の突起物であり、それは一瞬で望子とカナタに接近する。
「く……!
『──!!』
フィンの
そして、気づいた時には──。
『……か、は……?』
かたや──
「う"、あ"っ──あ"ぁああああああああっ!!」
かたや──おそらく防御は無理だと踏んで回避しようとしたのだろうが、結局は回避しきれなかったカナタの左腕の肩から先を綺麗に切断していたのだった。
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