第210話 魔蟲たちの声
サーカ大森林の主たるウェバリエが、リエナからの
「──で? 森の主が手ぇ貸してくれるとはいえ……結局、五人で探索する事になるのか?」
よくよく考えてみると……たとえ森の主だとしても当てがないのであれば、この広く暗く不気味な森を調査する人員が一人増えたというだけ。
「……まぁ、効率が良いとは言えねぇわなぁ」
それが分かっているからこそ、アングは昼時とは思えない程に仄暗い森の奥を見つめながらブツブツと苦言にも似た呟きを漏らし、ケイルも同意する旨の発言をしつつ『くあぁ』と欠伸を溢しているのである。
「……こうやって簡易的な拠点を作ってしまうくらいだし、ある程度は時間がかかる事を見越してたんでしょうけど……私そこまで気が長い方じゃないのよ」
「何か妙案でもあるのか?」
そんな彼らの愚痴に対してウェバリエが、アドライトたち四人が組み立てた天幕を見遣り、『他に用事がある訳じゃないけれど』と付け加えつつ何やら当てでもありそうな物言いをした事で、それを真っ先に察したオルンは彼女を見上げて問いかけた。
「私に心当たりはないけれど……魔蟲たちはどうかしらね? 私も森の中に糸を張り巡らせているけれど、いつも動き回ってるのは他でもないあの子たちだもの」
するとウェバリエは最初に首をふるふると横に振ってから、一切の心当たりがない……或いは覚えていない自分の代わりとして魔蟲たちの存在を口にする。
たった今ウェバリエの言葉にもあったが……彼女は常に森中に
「成る程、
そんなウェバリエや森の事情を把握していたらしいアドライトも、細いながらも最低限の筋肉がついた腕を組みつつ『うんうん』と頷いて賛同している。
「さて、まずはどの子にしましょうか──」
その後、アドライトを除く三人の
「──じゃあ、あいつらにしてくれよ」
「……あいつら?」
星の数程に……というのは誇張しすぎだが、結構な種類がいる魔蟲たちの中から話を聞く対象を選んでいた彼女に向けてケイルが口を挟んできた事により、きょとんとした表情のウェバリエが尋ね返した。
「さっき言ったろ? 俺らの仲間がやられた魔蟲。 全身を穴だらけにしてくれやがった……あの蜂どもだよ」
「「!」」
するとケイルは回想に出てきた魔蟲……同種以外の魔力を帯びた肉を好物として、標的と定めた獲物を
半年前、彼らを襲った魔蟲は……奇しくも勇者一行を散々追いかけ回した魔蟲と同種だったのだ。
「蜂……あぁ、
それを受けたウェバリエは、あっさりと彼の意見を了承して蜘蛛糸を『ピンッ』と弾いて召集をかける。
……どうやらサーカ大森林においての蜂の魔蟲といえば、
その後、しばらくすると──。
──ブゥウウウウ……ン!
「「「……!」」」
森の奥から聞こえてくる耳障りな羽音が近づいてくればくる程、彼らは過去の惨劇を脳裏に浮かべて思わず警戒し、臨戦態勢を整えずにはいられない。
「『──────』」
そして五人の目の前に現れたのは……地球における兎ぐらいの大きさをした随分と凶暴な風体の三匹の蜜蜂であり、それらに対してウェバリエが口をパクパクと動かして何かを伝えると、その内の一匹が伸ばされた彼女の腕に留まり、話を聞く姿勢に移ったらしい。
「……何度か遭遇した事も討伐した事もあるけど、ああして腕に留まってるのを見るのは初めてだね」
そんな中、ウェバリエは腕に留まった個体に向けて何やら口をパクパクと動かしており──。
「……お、おい。 何してんだ?」
彼女の行動に違和感を覚えずにはいられなかったアングが、どう見ても自分より強い
「え? あぁ、ごめんなさいね。 この子たちとの会話に言葉はいらないの。
「……な、成る程……?」
それに気がついたウェバリエは、ふと彼の方へ視線を向けたかと思えば悪びれもしない形だけの謝罪をしつつ、『ちょっと待っててくれる?』と空いた方の手をヒラヒラと振ってアングとの会話を終わらせる。
一瞬、『普通の』という妙に強調された様に聞こえた彼女の言葉を変に思ったアングだったが、『専門外の事を気にしても仕方ねぇか』と首を横に振った。
それからも、『ブンブン』という大小や間隔の様々な羽音と、『カチカチ』という顎を打ち鳴らす音を使い分けているらしい鋭刃蜜蜂との会話をしていたウェバリエは何やら納得した様に頷いた後──。
「……そうね、尤もだわ」
小さく小さく呟いて、『ありがとうね』と腕に留まっていた個体に声をかけるやいなや、三匹の鋭刃蜜蜂は羽音を響かせて飛び立ち、森の奥へと消えていく。
「話は終わったみたいだね」
「えぇ、一応ね」
「……で? 当ては見つかったのかよ」
そんな彼女の一連の動作を見ていたアドライトが声をかけて、それにウェバリエが応えるのと殆ど同じタイミングでアングが頭を掻きつつ口を挟んだ。
「……残念ながら、あの子たちは知らなかったわ」
「……ま、そう上手くはいかねぇよな」
するとウェバリエは至って無表情のまま首を横に振り、『魔道具についての情報は得られなかった』と返答した事で、それを聞いたケイルは『大した期待はしていなかった』と言わんばかりに溜息を溢す。
「でも、あの子たちはあの子たちなりに意見してくれたわ。 役にたちそうな代替案をね」
「「「代替案?」」」
「えぇ、それじゃあ早速……会いに行きましょうか」
そんな彼の嫌味めいた言葉にも特に機嫌を損ねる事はなく、あくまでも淡々とした様子でウェバリエが新たな『当て』について少しぼかして告げると、疑問に感じたアングたち三人の声が思わず重なってしまう。
「会いにって──まさか」
一方、ウェバリエの抽象的な物言いにも何やら思い当たるものがあるらしいアドライトが、先程の三匹の鋭刃蜜蜂が飛び去っていった方向を見た後、ウェバリエに向き直ってから問いかけると、彼女は『我が意を得たり』とばかりに無言で頷いてみせた。
そしてウェバリエは、『やっぱりか』と呆れた様に溜息をつくアドライトと、そんな二人の会話を聞いても全く要領を得ていない三人の
「──
──そう、告げた。
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