第175話 牢屋敷前の合議
望子たちと合流した三人に対して、先程発生した黄緑色の強い光について簡素に説明すると、
「あの光はそういう……まぁ、あんたたちは色々規格外だからねぇ。 別に驚きはしないけど」
「ははは! 確かに――ん? どうしたグレース、随分と顔色が悪ぃ気がするが……」
かたやファタリアは大して表情も崩す事無く葉巻をふかし、かたやオルコは自分が驚いてしまっていた事を棚に上げつつ高笑いしていたが、彼女がふと目線を下に遣り、やたら静かなグレースに目を向ける。
すると、当のグレースは
「……それはそうでしょうね。 何せ、皆さんやあの二人が邪神と……話でしか聞いた事の無い存在と接触してて、挙句その一角を討伐していたなんて……正直言って、私の理解の許容範囲をとうに超えてますよ」
この中で唯一、望子たちやカリマたちが邪神に遭遇していたという事実を知らされていなかった事実を愚痴の様に漏らしてしまっていた。
「ごめんなさいね。 貴女にも話しておくべきか迷ってはいたのだけれど、余計な心配ごとを持ち込む必要は無いんじゃないかって思ったのよ」
そんな中、思い切り当事者であるハピが望子の黒髪を撫でながらそう言って軽く頭を下げたものの、
「……そのお気遣いは大変嬉しいのですけどね。 まぁいいです。 本題に移りましょう」
それよりもとグレースは彼女の謝罪を手で制し、話題を切り替えるべくその場の全員をグルッと見回す。
全員の目が自分に向いた事を確認したグレースは、いかにも町長然とした精悍な表情を湛えて、
「結論から言っておきます。 私は、先程フィンさんから聞いた提案に賛成は出来ません」
「……町長だから?」
フィンの
「それもありますが……海賊たちの犠牲になった方たちの中にはショストの住民も含まれています。 そちらの……カナタさんでしたか? 貴女を始めとした神官の方が
「……だから処刑するべき、か」
一方のグレースはフィンの言葉を肯定しつつも、自分は町長である前に一人のショストの住人であり、遺族の事を考えるのなら生かしておく選択肢など無いのだと告げた事で、その気持ちは分からないでも無いレプターがうんうんと頷いている。
――それもその筈、ドルーカの街にて望子を揶揄した挙句ウルとの決闘に敗北し、一月以上も喪失状態にあった冒険者たちを殺そうとした過去があるからだ。
そんな折、自分の意見を語り終えたグレースが、ふぅと息をついたかと思えば突然自嘲気味に苦笑し、
「……まぁ、ここまで語りはしましたが、私は単なる非力な
「……俺らに、委ねるって?」
さもお手上げだという様に両手を肩の辺りまで上げてファタリアとオルコを見遣ると、それで察したオルコがおずおずと彼女に問いかける。
――当のグレースは、お願いしますと頷いた。
その後、オルコがうんうん唸って思案する一方、ファタリアは紫煙を
「あたしは別にどっちでもいいよ。 前にも言ったと思うけど、あたしはこの町に来て日が浅い。 ショストにも住人たちにも大して思い入れは無いからね」
興味も無さそうに空中で胡座をかきながら、以前もウルたちに話した、自分がこの町のギルドマスターとして就任させられた理由を思い返してそう語る。
それを受けたオルコは、組んでいた腕を解きつつも渋面を湛えたままの表情で望子たちを見つめ、
「俺は……本音を言うなら、あいつらに生きていて欲しくねぇ。 欲しくはねぇが……他でも無いこの町の恩人のお前らが言うんなら、受け入れねぇ訳にも……」
グレースとほぼ同じ正直な主張を口にしながらも、彼女たちに感謝しているというのも事実なんだよなと言うと、ファタリアと違って真剣に悩んでいるのだろう事が理解出来たウルたちも、本当にこれでいいのかと思考の海へと飛び込みそうになってしまう。
その時、こほん、と随分わざとらしい咳払いが辺りに響き、全員がそちらへ目を向けるやいなや、
「で、あれば。 取り敢えず
「え……?」
その咳払いの主であり、いつの間にか望子の隣に立っていたローアがニヤリと笑って提案するものの、当の望子は要領を得ていないらしく首をかしげていた。
「あぁ、それいいかも。 ぬいぐるみに出来たら連れていく。 出来なかったら処刑。 どうかな?」
一方、それを聞いたフィンはうんうんと頷いて、彼女の提案に補足する形で三人に確認し、
「あたしはそれでいいよ」
「まぁ……俺もいいぜ」
ファタリアはあっさり、オルコは若干渋ってからフィンとローア合同の提案を了承してみせる。
そして、全員の目がグレースに向いた事で、彼女はこの状況で否定は難しいかと判断して、
「……分かりました。 私はそちらの……ミコさん、でしたか? 貴女の力を直接見てはいないので、何とも言えませんが……とにかく、入りましょうか」
目の前にいる黒髪の少女が
「っし、じゃあ行くかミコ……ミコ? どうした」
全員が彼女に続いて牢屋敷へと向かう中、何故か望子がその場に立ち止まっている事に気がついたウルがきょとんとした表情で問いかけると、
「……え、あ、う、うん」
彼女の言葉でハッと我に返った望子は、繕った様な笑みを浮かべて返事をして、首をかしげながらも自分を待ってくれているウルについていく。
――望子は、今更になって悩んでいた。
望子の知る『海賊』とは、お気に入りの絵本の中に登場する柔らかなタッチで描かれた、悪者ではありつつも何処かひょうきんな者たちの事であり、
(……そんなに、わるいひとたちなの?)
婚約者、というのはよく分からなかったが、誰かが死んでしまっているのだという事は理解出来ていた為に、もしかしたら今から会う海賊たちは思っている以上に悪い人なのではないかと考えてしまっていた。
――だとしたら。
(ぬいぐるみにできる、のかな……?)
仲良くなってないと駄目なのではと自分なりに推測していた望子は、小さな胸に不安をいっぱいに詰め込んで、グレースが
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