第169話 海底での着想
カナタと二人の神官たちが
「お、確かあの島の近くだったよね……っと」
そんな彼女のごく普通の視力でも見える位置に、先日の海賊討伐にて訪れた海域である事を示す、ほぼ岩肌の島が映った為、フィンは振り返って息を吸い、
「船に乗ってる人たち全員にお知らせー! もうちょっとで海賊たちのアジトだった場所の上を通るよ!」
冒険者や船乗り、ギルド職員……そして、何故か声が聞こえてこないローアと二人の船長たちを含め、この船に乗り合わせた全員に声を届け始める。
「そこに着いたらボクと例の二人で積荷をどんどん海の上まで運んでいくから、キミたちはそれを船まで引き揚げる準備をしてて! よろしくねー!」
「「「おぉおおおお!!!」」」
町を救ってくれた恩人の言葉だからか、はたまた見目麗しい
そんな彼女の声は問題無く船内まで届いていたのだろう、白衣の少女が扉を開いてこちらへと歩み寄り、
「……すまぬフィン嬢、遅くなったのである」
その後ろに連れ立っていた二人の
――無論、
「ん? いや別に……それよりローア、さっきまで一体何をやって……あれ? そっちの二人、目のやつは?」
それを受けたフィンは、船内にいた彼女たちの声が聞こえなかった事を尋ねようとしたが、それよりも先に船長たちの片目を覆っていた眼帯が無くなっている事に気がつき、何気無く指を差して問いかけた。
すると二人はチラッと互いの顔を見合わせた後、何故か揃って自虐気味な笑みを湛えつつ、
「……もう、いらねェからな」
「えぇ、隠す必要も無くなったしね……」
まるで、自分たちを縛っていた何かから解放されたかの様に、そこそこ明るい声音でそう口にする。
――そんな彼女たちの瞳が既に、両目共に同じ色に戻っていた事からも、ローアの言う『邪神の加護を消す方法』が上手くいったのだろう事が
「ふーん……で、ローアはどうすんの?」
それがおそらく例の邪神の加護がどうの、というやつなのだという事は薄々理解出来ても、そもそも然程興味が無かったフィンがローアへ向き直ると、
「我輩はここで待っているのである。 まぁ海中でも活動出来るが……こうも人の目があってはな」
「あっそ……」
この姿で海に潜るのも、と彼女はフィンの問いかけに対して苦笑いで答える一方、本当にこの為だけについて来たのかとフィンは思わず呆れ返ってしまう。
その後しばらくして、乗組員たちによる引き揚げの準備も佳境に差し掛かったのを確認したフィンが、
「っし、行くよ二人とも」
「「……」」
気を引き締める為か両手で軽く頬を叩いた後、船長たちに声をかけ、彼女たちが無言で頷いたのを見たフィンは、二人と共に海へと飛び込んでいった。
先日も海に潜る機会はあったが、あの時は未だ邪神の加護の影響もあってか何やら薄暗く感じていたという事もあり、海中を優雅に泳ぐ魚や、その魚を喰らわんとしている魔物や魔獣……そんな自然の摂理を愉しげに見つめる
「んー! やっぱり海はいいなぁ。 別に海で産まれた訳でも無いのに、自然に心躍っちゃうっていうか」
クルクルと横回転しながら、海の底にあるアジトだった場所へ潜っていくフィンが、満面の笑みを浮かべてそう言うとここまで沈黙していたポルネが、
「……それじゃあやっぱり、貴女って本当に
おそるおそるといった様子で、先程ローアから聞いたフィンたちの正体について問いかけてきた。
「え、ローアが? いやまぁ……別にいいけどね? そうだよ、ボクと……あの時キミたちの討伐に参加してた二人の
そんなポルネの質問に、いくら処刑されるかもしれない身とはいえ簡単に話しちゃっていいの? とここにはいないローアに呆れつつもフィンが肯定すると、
「確か、ミコってのが
「……そんな事まで話したの? あの魔族めぇ……」
今度はカリマが、より一層隠しておかねばならない筈の望子の正体さえもバラしていた事を明かし、フィンはいよいよ
そして漸く巨大な二枚貝を模した海賊たちの元アジトへ辿り着いたはいいものの、フィンはここまでの海中散歩でとある事が引っかかっており、
「……っていうかさぁ。 キミたち、雰囲気変わったよね。 その目のやつもそうだけど」
「あ、あぁ……そう、かもしれないわ」
「憑き物が、落ちたからだろォな……」
彼女たちからやたらと感じられる解放感に、本当に反省してるのかなと
それを見ていたフィンはといえば、憑き物という無駄に凝った表現をされた事で首をかしげていたが、
「憑き物……あ、邪神の加護ってやつ? 消せたんだ。 けどさ、それ意味ある? どうせ処刑されるのに」
どうやら
「……あのローアって魔族の話だと、邪神の加護を受けたまま命を落とすと……その死体は勝手に起き上がって邪神の下へと向かい、
「流石にそれはアタシらも嫌だったからよォ……じゃあ思い残す事はねェのかっつーと嘘になるがな……」
「ふーん……ま、キミたちが納得してるならそれでいいけど。 それじゃあそろそろ作業を――」
すると彼女たちが先程と同じく顔を見合わせ、おそらくローアが過去に遭遇したらしい邪神に当て嵌めて語ったのだろう加護についての話を憚られる様な口調で答える一方で、それでもやはり大して興味は無いフィンは振り返って積荷を海上へ運び出そうと――。
――した、その時。
「……んん?」
そんな風に唸り、首をかしげた彼女の脳内に随分と恣意性の入った考えが浮かび上がり、
「そういえば、二人もボクと同じ
「え? えぇ、そうだけど……それが、何?」
「いや……う〜ん」
フィンが改めて二人の方を向いて何気無く問いかけたものの、その質問の意図が分からない二人を代表して、ポルネがおずおずと聞き返し、その声にフィンはいよいよ腕まで組んで本格的に思案を始めてしまう。
(な、何なのかしら……)
(分からねェ、分からねェが……アタシらにとって良い事じゃねェってのは確かだろォぜ……)
一方、突拍子も無く思考の海へと飛び込んでしまったフィンを見ていた二人は、おそらく聞こえていないだろうと思い、コソコソとそんな事を呟き合う。
(何で、ウェバリエとかアドとかリエナとか……それに
望子はこれまで自分たち三人を除いて、レプターとピアン、二人の
(っ、もし、かしたら……)
――その時、フィンは一つの可能性に辿り着く。
もしかすると、望子がぬいぐるみに出来る
(ボクと同じ、
――そうだ。
――どうせ、死が確定しているのなら。
――有効活用、すべきでは?
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