第164話 人狼と龍人の悩み
望子やカナタが主体となって冒険者ギルドにて、カナタ、レプター、そしてキューの三人を
同時刻、身体を動かしたいからと冒険者ギルドで適当な
「それにしても、ギルドは随分と賑わっていたな。 貴女たちの話では……海賊に返り討ちに遭い意気消沈した冒険者で埋め尽くされているという話だったが」
リフィユ
「そりゃまぁ……
その一方で
「成る程……つまりはそれも、貴女たちの功績という事か。 流石は勇者様の……ミコ様の仲間たちだな」
それを受けたレプターが、まるで自分の事の様に得意げな表情で彼女を……彼女たちを称賛するも、
「……まぁ、そうっちゃあそうかもな。 つっても今回は……いや今回も、か。 主に活躍したのはフィンの奴で、あたしは大した事はしてねぇよ」
今回の海賊討伐においても、今までの戦いと同じ様に、結局美味しいところフィンに持っていかれていたウルは、ハッ、と嘲る様な笑いをしてみせる。
……無論、不甲斐ない自分に。
「そう謙遜するな。 貴女たちが一人残らず有能だという事は、私が誰より知っているよ」
「……そうかい」
そんな彼女の自虐的な発言をあくまでも無用に
誰より知っているという言葉自体はフォローとして悪くは無いが、おそらくウルたちの事を最もよく理解しているのは……かつて彼女たちが訪れたドルーカの町の魔具士である
それを分かっているからこそ、ウルは若干不満げな様子なのかもしれないが……それは彼女にしか分からない事であり、当然彼女自身もそれを口にはしない。
「だが一ついいか? 何故貴女は……この
その時、レプターが唐突に今回の
「……それはあたしが一番分かってる。 けどな、これにはちゃんとした理由があんだよ」
「ほぅ。 聞かせてもらっても?」
どうやらウルは全てを理解している上で尚、今回の
「
「……それは、どういう……?」
その後、言い憚られる様な事なのか、しばらく口ごもっていたウルが口を
すると、ウルは深く深く溜息をついてから進めていた足を止め、屈強な自分の右手を見つめつつ、
「ハッキリ言ってあたしは脳筋だ。 他の事には向いてねぇってのも分かってる。 けどな、今やその戦闘でさえフィンに劣ってんだ。 このままじゃ駄目なんだよ」
拳をぎゅっと握りしめて悔しげに語る一方、ノーキン? と聞き慣れない単語に困惑していたレプターだったが、肉体派という事か? と話の流れから判断する。
「……成る程。 だからこそ、捕獲
そして大方彼女の主張を理解したレプターがそう言うと、ウルは表情を笑顔に戻してから、
「そういうこった。 で、お前は詳しいのか? その……
レプターの言葉を肯定しつつ、話題を切り替えるべく改めて今回の捕獲対象……かつてドルーカの冒険者ギルドにて、受付嬢から簡単な解説を受けた事のある魔蟲についての知識の是非を問うてみた。
「ある程度は……まぁ厄介な魔蟲だが、大して強くは無い。 少なくとも、これまで貴女たちが戦ってきた存在に比べれば遥かに劣ると言ってもいいだろう」
一方、あぁ、と頷いてから今回の捕獲対象である魔蟲……
「へー、じゃあ何が厄介なんだ?」
淡々と語ってみせたレプターに対し、ウルは山を歩く足を止めぬまま首をかしげて問いかけた。
「
レプターが自身の知る
「ほーん……なぁレプ、それって成虫の話だよな? じゃあよ、幼虫捕まえて育てさせりゃ---」
ウルはさも妙案だと言わんばかりに手を叩き、おそらく毛虫なのだろう幼虫を捕らえればと提案したが、それを読んでいたかの様にレプターは首を横に振る。
残念だが、と前置きしてから、彼女は
「
この世界にも存在する至って普通の虫や、魔蟲でも比較的弱い種を例に挙げて、結局その樹にはいなかったのか首を横に振りながらそう語り、話を続ける。
「幼虫だからこそ、外敵への対抗手段として成虫より遥かに強い毒性を持った毛針を備え……それをほぼ無尽蔵に外敵へ放ち、鎧や盾で防いだとしてもまるで侵食するかの様にジワジワと猛毒に蝕まれてしまう」
そんな風に、つらつらと幼虫の危険性について語り出したレプターに対し言葉を挟む暇も無いウルは、
「何だよそれ……じゃあどうすりゃあ……んー」
結局成虫を何とかして捕獲するしかないのだと理解させられ、心底呆れた様子で別案を考え出す。
(……最も、今の私に
そう脳内で呟いていたレプターの考え通り、彼女はサーカ大森林で一戦交えた
その時、何故か脳内で考えを広げながらも、ふふっと微笑んでいたレプターに違和感を
「……? 何笑ってんだよ」
ウルが心底怪訝そうな表情を浮かべつつ、何なら若干イラッとした口調で問いかけると、
「あ、あぁすまない。 少し……そう、嬉しくて」
「嬉しい? 何がだ」
その一方で、彼女は少しあたふたとして、ははは、と言い訳でもするかの様に苦笑していた。
するとレプターは、あぁそれは、と前置きして、先程のウルと同じく浮かない表情を見せ、
「先日私はこの山で……あの方の中に居る何某かでは無く、ミコ様自身の力を垣間見た。 相手は単なる魔獣だったし、一瞬の出来事だったが……それで充分思い知らされたよ。 ミコ様は既に、私より強いのだと」
望子が邪神の力を使って魔獣を屠ってみせた……そんな光景を見て以来、望子たちとの再会を喜びながらも悲観的な考えを持っていた事を明かす。
「その時私も……ウル、貴女と似た様な事を考えたんだ。 ここまで追いかけて来たはいいが、最早貴女たちに……何よりミコ様に、私は必要無いのでは? と」
守るべき存在よりも劣っている様ではな、と沈黙を貫いていたウルに向けてやや自嘲する様に語ると、
「……似た者同士って訳か」
一方のウルは、ハッ、と自虐気味に鼻で笑いながらも、正直彼女の言った事……特に『ミコに自分は必要無い』という部分が心に響いており、他人事じゃねぇな、と改めて少しの危機感や焦燥感を
「あぁ、だから少しだけ……っ、ウル、あれだ」
少し感傷に浸るかの様なウルの呟きに、苦笑いを浮かべて返事をしようとしたレプターの視界に、そこそこ大きな樹に張り付いた捕獲対象の姿が映り、
「ん……? あぁあれか。 思ってたよりでけぇし……そんで結構綺麗な羽してんな」
ウルも釣られてそちらを見遣ると、そこには受注書に描かれていた個体よりも一回り大きく、それでいて随分と煌びやかな模様の羽を持つ数匹の
「時間はある。 色々試してみよう」
個体差もあるから慎重にな、と忠告してきたレプターの言葉に頷きながらも、ウルは彼女に聞こえない程小さくか細く……されど確かな決意を込めて――。
「あたしの存在価値、あたし自身が証明してやる」
――そう、呟いた。
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