第157話 研究者の正体
一方、ローアの言葉に違和感を覚えたのは何もカナタだけでは無かったらしく、
「……待てローア、
「……ぇ、ぅわっ!」
視界に映る白衣の少女にそう声をかけようとしたレプターの脳裏に一瞬嫌な予想がよぎり、彼女は瞬時に望子を自分の背後へ移動させ、突然の事に驚いた望子は涙目のままレプターの後ろへ回される。
とはいえ望子も、今何が起こっているのかは把握出来ていた為ガシッとレプターの腕に抱きついて、
「……っま、まってとかげさん! ろーちゃんは、だいじょうぶだから……だいじょうぶなまぞくだから!」
未だ僅かに流れる涙も気にせず、言葉に詰まりながらも彼女を止めようとそう口にした。
「ま、魔族!? キュー、離れて!」
『きゅ?』
しかし、何なら魔族に対しても強い恐怖を持っていたカナタは、望子の言葉にいち早く反応しローアの肩に乗るキューに向けて叫ぶも、当のキューはローアに怖気など微塵も感じていない様だった。
そんな中、いつまでも疑惑の視線を向けられ続けるのも面倒だと考えたローアが軽く息を吸って、
「……
そう呟くと同時に彼女の白い肌が少しずつ褐色となり、それまで隠されていた二本の山羊の様な角と蝙蝠の様な黒い羽、先の尖った細長い尻尾が露わになる。
『きゅー!?』
そんな突然の事態に驚いたキューはパッとローアの肩から離れて、何故かカナタでもレプターでも無く、
「ぅわ、え!?」
「キュー!?」
わざわざレプターの背後にいる望子に飛びつき、望子は驚きつつも小さな
(……いや、ミコ様は勇者だ。 初見の
さも当然の様に望子を過剰に評価し、脳内でそう結論づけてローアに視線を戻した。
……とはいえ、彼女の考えは決して間違ってはおらず、キューが望子に飛びついたのは望子が召喚勇者であり、この世界に
「ろ、ろーちゃん……」
「あーあ、バラしちゃうんだ」
一方それを見たレプターは、一層警戒を強めつつも自分の腕に抱きついている望子に顔を向けてから、
「まさか本当に……しかしミコ様、大丈夫とは一体」
勇者たる望子と魔族のローアが何故一緒に、そして望子がそれを理解しているという事はウルたちもそうなのか、と様々な疑問を乗せて問いかける。
えっと、と望子が口を開こうとしたその瞬間、パチン、とローアが指を鳴らして全員の視線を集めて、
「それは我輩から説明しよう。 何、難しい話でも無いゆえ、に済ませるのである」
本調子では無い望子に代わり、ローアは自分が望子たちの
自分が上級魔族である事、先程までの姿は
「では貴様は……勇者であるミコ様の監視役にして、同時にミコ様の仲間であり、友人でもあると?」
レプターにとってもローアにとっても、最も重要な部分をもう一度確認する様にレプターが尋ねると、
「うむ。 であるな? ミコ嬢」
「うん。 ほんとだよ、とかげさん」
ローアは頷きつつも望子に視線を向けて話を振り、それを受けた望子が優しい声音で肯定する。
一方、勇者の
「……そう、ですか。 いえ、いいのです。 ミコ様が決定された事なのであれば、私に否やはありません」
何か考えがあっての事なのだろう、とそう判断し、一応後でここにはいない二人にも確認しようと考え、レプターはゆっくり首を横に振った。
そんな折、この
「……さて、先程の話に戻るのであるが……魔王様を倒せばミコ嬢たちが帰る事が出来る、そう提案したのはお主なのであるな? 聖女カナタよ」
「ぅ、え、えぇ……」
話題を自分が介入する前のものに戻しつつ、紫色に妖しく光る瞳でカナタを射抜いて問いかけると、カナタはビクビクしながらも何とか返事を返す。
ローアはうむ、と頷いて、いつの間にかフィンと同じく地面に座り込んでいたカナタを見下ろし、
「一つ尋ねたいのであるが……聖女カナタ、ミコ嬢を召喚する際、お主は召喚勇者に何を願った?」
右手の人差し指をピンと立てて、
「……
一瞬だけ望子にチラッと視線を向けてから、カナタはか細く掠れた声でそう答えてみせた。
最も、あの場で真にそう願っていたのは彼女だけであり、周囲の臣下たちは国の政治と自らの保身の事しか頭に無く、カナタに王命を下した今は亡きルニア王国の王、リドルスは
……強いていえば、優秀な宰相であったルドマンだけは……カナタと同じ願いを持っていたのだが。
一方、カナタの答えを聞いたローアは、ふぅむ、としばらく唸って何かを思案していたが、
「で、あれば……魔王様を倒せば、という仮説はあながち間違いとも言い切れぬのである」
顔を上げ、ゆっくりと口を
「「え……?」」
望子とローアがほぼ同時に声を上げてローアに視線を向けると、彼女は何故か随分と得意げな表情を晒して……ゆっくりとその口を
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