第158話 もう一度強く決意を
望子とカナタが真剣な表情で注目する中、ローアはこほんとわざとらしく咳払いしてから、
「元来召喚魔術とは……
「が、それはあくまでも一般的な召喚魔術の話。 秘術中の秘術、
そんな中、ローアが普遍的な召喚魔術と
「……術者の、願い?」
先程までの話の流れからそうじゃないかと思った答えを口にした彼女に対し、ローアは満足げに頷いた。
「その通りである。 もし先程お主が言った通りの願いを込めてミコ嬢が召還されたというのであれば、その願いが成就し次第元の世界へ帰還出来る……かもしれぬのである。 希望的観測であるがな」
そしてローアが再度口を
「ほ、ほんと? わたし、かえれるの?」
未だ僅かに涙を目に溜めたまま、おそるおそるローアの方へ手を伸ばして問いかける。
ローアはそんな望子の手を、安心させる為か同じくらいの大きさの褐色の手で包み込んでから、
「うむ。 とはいえその為には今以上に強くならねばならぬのである。 少なくとも……ウル嬢たちより」
まるで親が子供に言い聞かせるかの様に、望子の黒い瞳を見つめて優しくも厳格な声音でそう告げた。
すると望子は、空いた方の手でゴシゴシと涙を拭って、キリッとした表情を見せながら、
「……っ、がんばる! わたし、もっとがんばって……みんなをまもれるくらいにつよくなって……まおうをたおして、おかあさんのところにかえるよ!」
ローアの謎の迫力にも負けず、改めて決意を口にしつつ褐色の手をぎゅっと握り返す。
その時、ローアは脳内で違う事について思案しており、何故か少しだけ暗い表情を見せていた。
(
これも決して確かな事では無いが、カナタの願いとはおそらく魔王討伐だけでは無く、
「……うむ、その意気であるよ」
そこにはきっと、
……最早彼女の中では、魔王と勇者を天秤に掛けたとしても……どちらにも傾かないのかもしれない。
一方、望子とローアのやりとりを見ていたレプターは、何故かジーンと感動した様な表情を浮かべ、
「……やはり、ミコ様は救世の勇者たるに相応しいお方だ。 私も今以上に力をつけ、お役に立たなければ」
先程の望子の世界を救う宣言に感銘を受けたのか、なぁ、と共感を求めてフィンに声かけたものの、
「ん? うん、そーだね」
どうやらフィンはそれとは別に気になる事があったらしく、ふわっとした返事を返す。
(そういやレプは
フィンが考えている
そんな中、ローアの推論が終わってからもしばらく俯いて沈黙を貫いていたカナタはというと、
(……あの時、咄嗟に考えた方法が本当に正しいかもしれないなんて……っあ! そういえば私の話……最後まで聞いてもらえてない……!)
完全にその場しのぎで口にした『魔王討伐』が、他でも無い魔族によって推された事に呆然としていたのだが、突然彼女はハッとして自分の話の途中だったと思い出し、決して快活では無い顔をパッと上げる。
「ではそろそろショストへ戻ろうではないか。 まもなく夕刻となる、ウル嬢たちも待っている筈であろうしな。 ミコ嬢、すまぬが
段々と赤らみ始めていた空を見上げつつ、望子の背負う鞄を指差して、そう声をかけようとしたのだが。
「ちょ、ちょっと待って! まだ話が――」
「かなさん」
自分の話……もとい、決意表明がまだ終わっていないのだと宣言しようとしたカナタの言葉を遮って、
「ぅ、え? な、何……?」
突然かけられたその声に驚きつつも、カナタがそう返すと望子が彼女に近づき顔を覗き込んで――。
「それ、おおかみさんたちがいるときじゃだめ?」
極めてきょとんとした可愛らしい表情を湛えて尋ねると、え、とカナタの思考が止まる。
「お、おおかみさん? ……あっ」
何の事だと困惑してしまっていたゆえの思考停止の後、そこから大して思案する事も無く、何故か頭から抜けていた彼女にとってフィンと同様に恐怖の対象である二人の
(そ、そうだわ、
そう、カナタが覚悟を見せなければならないのは何もここにいる望子たち三人だけでは無く、フィンと同じ様に彼女が恐怖に感じていた
「なにをはなしたいのかはわからないけど……ここではなせるってことは、ふたりのまえでもいいよね?」
「ぁ、え、えぇ……」
口を閉じてしまったカナタの顔を再度覗き込み、怒っている訳では無いが何故か妙な気迫を纏った望子が尋ねると、そんな望子に一瞬呆気に取られていたカナタは思わず肯定の意を示す返事をしてしまった。
すると望子はカナタの返事に満足げにうんうんと頷き、ペチンと小さな手で乾いた音を鳴らして、
「じゃあそうしよう。 はいろーちゃん、えにぐま?ってかばんのことだよね。 このなかにそれいれるの?」
自分なりに話題を切り替えてから、よいしょと背負っていた
「うむ。 ミコ嬢も知っての事とは思うのであるが、この中は時間が止まっているゆえ……これらの鮮度を落とす事無く納品出来るのであるよ」
一方、
「……そっか。 それじゃあ、てつだうよ」
分かっているのかいないのか、とりあえず返事をした望子は早速作業に取り掛かろうとする彼女を手伝う為に、てててと小走りで近寄っていった。
それを見たレプターは、望子を庇う為の臨戦態勢を解いてバッと立ち上がってから、
「ミコ様、私もお力添えを」
『きゅー!』
力仕事ならお任せ下さいと声を上げ、そんな彼女を真似る様に望子の肩に乗っていたキューもスッと片手を挙げて、自分も手伝うよとばかりに一鳴きする。
「ありがとうとかげさん。 きゅーちゃん? もね」
一方の望子が二人の申し出を嬉しく思いニコッと笑って、肩に乗るキューの葉っぱで出来た髪に当たる部分を細い指で優しく撫でつつ礼を述べると、
「……っ、い、いえ! これくらいは!」
『きゅっ♪』
かたや望子の笑顔に目を奪われていたレプターはハッと我に返って慌てて返事し、かたや望子の優しい撫で方に目を細めていたキューは笑顔で短く鳴いた。
そんな折、いつの間にか座り込んでいた姿勢からふわっと宙へ浮かび上がっていたフィンが、
「……ねぇ、聖女サマ」
「っ、な、何か……?」
未だにぺたんと地面に座り込むカナタに声をかけると、カナタは身体を震わせながらも反応する。
「ハピはどうか知らないけど、ウルはボクと同じかそれ以上にキミの事嫌ってるよ。 せいぜい頑張ってね」
「……っ、か、覚悟の上よ……」
そんな彼女に対して、さも嘲笑うかの様な表情で告げられた紛れも無い事実に、されどカナタはそう言い返して神官服の裾をぎゅっと握っていた。
「ふーん? ま、どーでもいいけど」
それを聞いたフィンは、結局はみこ次第だしと考えつつ、心底興味無さげに返してみせたのだった。
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