第124話 『獣宿』のグラニア
一方、互いに口上を終えたその瞬間、レプターは抜き放った
「行くぞ!
一本の大きく鋭い槍となって突進する
かつてのウェバリエの分析通り、
グラニアもそれが分かっていたのか、はたまた余裕からなのかは分からないが、
「……ふん」
彼女の渾身の
「!? な、何だと……っ」
本来であればこの
(貫くどころか……! 何だこの硬さは!?)
脳内でそう叫んだ彼女の言葉通り、槍と化した
「そら、お返しだ」
そして、予想通りとばかりにニヤッと笑ったグラニアはそう言って、もう片方の腕を
彼女は一瞬、得意とする
「っ! 『
(お、重……っ! だが、これしきで……!)
明らかに通常の
「……ほぉ、今のを防ぎ切るかよ。 おめぇ、攻撃は大した事ねぇが……防御だけは一級品だなぁ」
一方、グラニアが心底感心した様に、拍手はしないまでも彼女を称賛するかの如き発言をすると、
「黙れ……! 貴様の様な屑に褒められて、も……? 何だ、何を考えている?」
レプターは息を切らしてそう言おうとしたのだが、いつの間にか
「そうだ、さっきおめぇを喰らうっつったが……やめだ。 丁度部下も減った事だし、おめぇを餌に魔獣や魔蟲を集めて苗床にでもなってもらう事にしよう。 手駒も増えるしつまみも増える、良い事づくめだ」
するとグラニアは考えが纏まったのか、ニィッと笑ってレプターを指差しながら、彼にとっては最良の、レプターにとっては最悪の、そんな案を口にしたが、
「……悪いが私の身体は頭の
当然レプターがそれを受け入れる訳も無く、彼女は脳裏に黒髪黒瞳の愛らしい少女の姿を浮かべて、ハッキリとした声音で告げつつ改めて
「……あの方とやらが誰かは知らねぇし、興味もねぇが……それを決めるのはおめぇじゃねぇ……この俺だ――『
そう呟いたグラニアの身体がバキバキと音を立て、少しずつ大きく、そして異形の存在へと変異する。
「……はは」
それを見ていたレプターはといえば、彼女自身の意に反して力無い乾いた笑みが漏れていた。
(……貴様の父親の方が余程化け物ではないか)
ほんの数日前、自分を化け物だと
「レプター! 間に合っ……!? 何、あれ……!」
『きゅーっ!?』
その時、漸くレプターに追いついたカナタとキューが、目を見開いてしまったのも無理はないだろう。
今や彼の姿は元々巨大だった身体が更に大きくなり、
「か、カナタ! キュー!? 何もこんな時に――」
その声で二人の存在に気がついたレプターは、暗に逃げろと叫ぼうとしたのだが、
「『
そんな彼女の声は、同じく洞穴を走って来ていたアドライトの詠唱によって遮られ、その詠唱が終わると同時に展開した両腕の
「支援します!『
一方、自分の役割を理解しているピアンは彼女をサポートする為、
「
それを受けたアドライトは横目でピアンを見つつ頷いてから矢を放ったかと思えば、次の瞬間にはグラニアの巨体と然程変わらない大きさの
そんな折、漸く変異が完全に終わったのか三つの頭全ての目がゆっくりと開けたグラニアは、
『ん? 何だ――』
高低入り混じった不気味な声でそう呟こうとしたのだが、彼の視界を埋め尽くす様に二羽の雷鳥が飛んで来ている事に気づき、咄嗟に
その衝撃からカナタたちを守る為、翼を広げて足に力を込め、
「やったか……?」
爆発の衝撃が少しずつ収まった頃、確認する様におそるおそる半透明の
『……ふぅ。 思わず防いじまったが、そもそも俺に
「な、無傷だって!? 私は手心など加えて……!」
そんな事を口にしながら三つの頭全てで極めて醜悪な笑みを浮かべたグラニアに、アドライトは信じられないといった様子でそう叫び放つ。
『悪ぃなぁ
「……成る程ね、
臨時とはいえ
(という事は……やはり、吸い込まれていたのだな)
それを見ていたレプターは先程穴の奥に吸い込まれた毒の行方を察し、同じく悔しそうにしていた。
『おめぇらは俺が今までどれ程の命を喰らってきたかなんて知る由もねぇんだろうが……少なくとも、俺に属性を付与した魔術や
グラニアが自身の
「……面倒な事だね」
アドライトは苛立ちを隠そうともせず舌を打って、
(だから言ったのによぉ……! とにかく逃げ――)
相手が初代のみだと分かった時点で隠れていた三人の
『聞こえてるぞこの裏切り者共ぉ! こそこそしてねぇで出てきやがれぇ!』
そんな小声すら今のグラニアには聞こえていたのだろう、突如洞穴中に響き渡る大声をかけられた事で、
「ぎゃあっ! バレてんじゃねぇかぁ!」
「そりゃそうだろ、耳も鼻も強化されてんだろうし」
アングは同じ程の大声で驚き、逆に冷静さを取り戻していたケイルは彼を諭す様にそう言って、
「もう諦めろ、俺は……覚悟を決めたぞ」
かたやオルンは、自分の武器である色違いの宝珠を埋め込んだ二本の
「……生きてここから出られっかなぁ」
そんな折、
「それも、俺たち次第だろうな」
あくまで平静な様子でそう答えたオルンと、それを聞いて頷くケイルを交互に見ていたアングは、
「……だああああっ! やりゃいいんだろやりゃあ!」
そんな風に叫びながらガリガリと頭を掻いた後、その膂力を存分に活かし、身の丈程の
(魔術が、効かないって……治療術も? いや、そんな耐性があるなんて聞いた事無いわ)
レプターやアドライトたちより少し後ろの方に控えていたカナタが、グラニアの言葉を脳内で整理し、
「……
小さく小さく呟いたその声は、幸か不幸か戦闘を繰り広げんとするレプターたちの耳には届かなかった。
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