第122話 到着からの正面突破
その後、カナタの治療術、
そしてレプターが
「あれが、君たちの?」
茂みの中に紛れて片膝をつき、小声でそう問いかけたアドライトの視界には、おそらく盗賊であろう二人の
「あぁ……俺ら
そんな彼女の問いにアングはそう答え、いつ見つかるか気が気で無いのか忙しなく辺りを見渡している。
「随分とまぁ……都合の良い横穴があったのだな」
そこへ割って入る様にレプターが、大して隠れる気も無いのかすくっと立ったまま怪訝な表情で呟くと、
「いや、あの穴自体は初代が掘ったらしいぜ。 残念ながら俺たちはそれを直接見た訳じゃあねぇんだが」
種族上仕方ない事ではあろうが、不気味な様子でチロチロと舌を出しつつケイルがそう言った。
「例の、
それを聞いたカナタは、彼らからの情報、そして報告書に記されていた情報、そのどちらにもあった初代が授かっている
「おそらくな。 あの人は……文字通り喰らってきた獣の姿と力をその身に再現出来るんだ」
すると三人の中では唯一冷静な混血の
「あんな大きな穴を掘ってしまうって事は、
んー、と人差し指を唇に当て軽く唸ったピアンが、巨大な爪に魔力を込め、地面を裂く様にして掘り進む土竜型の魔獣を思い浮かべてそう言ったが、一方アングはそれを聞いてハッと嘲る様な笑みを浮かべる。
何ですか? と、ピアンが少しイラッとした様子でアングを睨みつけて低い声をかけると、
「んな事あの人には関係ねぇ。 一度目の前に立ち塞がったなら何だって喰っちまう。 魔獣も魔蟲も……果ては俺たちやてめぇらの様な
思い出したくもねぇがな、と付け加えて渋面を惜しげもなく晒す彼の言葉に、
「……!」
「う"っ……え」
元々虐げられる事の多い種族である
いつも通りカナタの肩の上に乗るキューが心配そうにか細く鳴いている中、アドライトは顎に手を当て、
「……
授かったその瞬間に異常になったのか、或いは元よりそういう存在だったのか……そんな事を考え、頼りにしている
「え? ……え!? ちょ、ちょっとレプター!?」
きょろきょろと視線を動かすアドライトに同調する様にふとアジトの方を見たカナタの視界に、足早にそちらへ歩いていくレプターの姿が映る。
カナタたちが身を隠す茂みと横穴との間に一切の遮蔽物が無い以上、当然歩哨も彼女に気づく訳で、
「ん? 何だてめ……ぇ、あ?」
「は!? い、いきなり何しやげぁっ」
ゴゴゴゴ、という音が聞こえてきそうな程に怒気と殺気を纏った女騎士が歩いて来た事に違和感を覚えつつも高圧的に声をかけようとしたが、先日彼らの仲間を葬った、翼で斬り裂く
とうに事切れた盗賊たちの横を悠然と通り抜け、シュインッと音を立て
「聞け、
洞穴に響き渡らんばかりの大声で、自分の名前と職業、ここへ来た理由と殲滅する旨を伝え、怒り心頭といった様子で
「いや、それは初代だけで……!」
一方、オルンが突然の事態に慌て、誰に言い訳するでも無いそんな事を迫真の表情で呟く中、
「いやいや何やってんだよあいつは! てめぇら作戦とかねぇのか!? それともこれが作戦なのか!?」
そんな事より! と叫び放ったアングが、
「そんな訳は無いけど……こうなっては仕方がない、不得手だけれど正面突破だ。 カナタ、流石に君を連れてはいけない、ここに残って待機を――」
彼女は
「私も、行くわ。 大丈夫、キューもいるし。 ね?」
だが彼女の意に反してカナタは首を横に振り、足手まといにはならないからと肩の上の
『きゅー!』
まるで任せてとでもいう様に、肩の上で立ち上がったキューを見たアドライトは、ふぅと息をつき、
「……分かった。 ではなるべく私の近くに」
決意は固いのだろうと諦めて、これだけは守ってほしいと告げると、カナタは神妙な表情で頷く。
「私はアジト内を跳ね回り、隙を見て支援魔術を。 戦闘はお任せする事になると思いますけど……」
「あぁ、頼りにしてるよ。 それじゃあ――」
それを聞いたアドライトは彼女の支援魔術の重要さは身を持って理解している為、そう言いつつ
「お、おい! 俺らは!? このまま放置かよ!」
そこへ割り込む様にアングが三人を代表して慌てた様子で叫んだ事で、彼女たちは思わず足を止めた。
するとアドライトは、人が変わった様に冷ややかな視線を彼らに向けながら溜息をつき、
「そんな筈無いだろう? 君たちも戦うんだ、死にたくなければね。 ほら、一旦武器も返してあげるよ」
ニコッと笑いながら担いでいた大きな袋を開き、没収していた彼らの武器を地面に放り投げる。
「……はっ!? き、聞いてねぇぞそんなの!」
案内までじゃねぇのかよ、とケイルがグバッと口を開いて叫び放ったものの、
「緊急事態だからね。 飲めないのなら……少々手間だけれど、寝首を掻かれるのも嫌だし――」
潰しておこうか、とまるで家畜に告げるかの様にそう言って、展開済みの
三人はしばらく悔しそうに歯噛みし顔を見合わせた後、ぐうぅ、と低く唸ってから、
「……だああああっ! くそっ、やるしかねぇのか!」
アングが
「言っておくが……初代とは戦えんぞ。 俺たちとて、喰われたくはないからな」
彼に同調しつつも、オルンは初代との戦闘だけは避けたいと意見すると、横のケイルも同じく頷き、
「構わないよ、それは私たちでやるから」
かたやアドライトはその主張を受け入れ、他の雑魚を頼むよと言いつつ彼らを縛る根っこを雷の矢で焼き切り、拘束を解いて話を終わらせる。
(……本当は、彼らに一芝居打ってもらって、略奪の戦利品としてアジトに潜入……初代だけを討って残りを拿捕しようと思ってたんだけどね……はぁ)
――今彼女が脳内で呟き嘆息した様に、アドライトたちは事前にしっかり策を練っていたのだ。
だがそれも、盗賊たち以上に直情的で、それでいて正義感溢れる
「今更言っても遅い、か」
文句を言うだけなら誰にでも出来る、彼女は
「……行こう、盗賊退治だ」
その言葉と共に、アジトで獅子奮迅の活躍を見せているのだろうレプターに追いつき、サポートする為に、彼女たちは茂みから飛び出したのだった。
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