第五章

第102話 下山中の一幕

 召喚勇者として異世界に呼び出された望子みこを始めとした冒険者一党パーティ奇想天外ユニークは、魔王を討伐し元の世界へと帰る為に他の大陸にあるという魔王城を目指す旅をしていた。


 そんな中、港町ショルトへ行く為にリフィユざんを越えようとしていた彼女たちの前に舞い降りた鳥獣の亜人族デミ翼人ウイングマンとの交流の末、彼らを襲う黄色の風の正体を調査する事となり、その元凶であった風の邪神ストラを何とか討伐した望子たちは、彼らからのもてなしを充分に受け、集落を後にしたのだった。


 地球であれば丁度おやつの時間という事もあり、望子の作った焼菓子クッキーをサクッとかじった鳥人ハーピィのハピが、

「……そういえばウル、昨日ルイーロさんと何か話していた様だけれど。 治療術士ヒーラーがどうのとか」

 同じく小腹が空いたからと、干し肉をガジガジしている人狼ワーウルフのウルにそう声をかける。

「ん? あぁ、ちょっとな……フィンの回復薬ポーションも少なくなってきたし、一党パーティ治療術士ヒーラーを加えるべきじゃないか? ってアドバイスされたんだ」

 すると彼女は下山する足を止める事無く顔だけをハピに向け、翼人ウイングマンの頭領ルドの父親、ルイーロとの話の内容を簡潔に纏めて答えてみせた。


 そんな折、海豚の下半身に大きな水玉をつけて、ふわふわと浮かびながら山を下りる人魚マーメイドのフィンが、

「あー、回復役かぁ。 でもなぁ……まだ増やすの?」

 自分が作った回復薬ポーションを話題として挙げられた事によって会話に加わり、こちらも望子お手製のサンドイッチをもぐもぐとみつつ首をかしげると、

「まぁ確かに……例えばここにレプが加わるとして、治療術士ヒーラー入れると合わせて七人だろ? 基準を知らねぇから何とも言えねぇが……多く感じるよなぁ」

 言いたい事は分かるぜとばかりにそう口にして、ウルはブチッと干し肉を噛みちぎる。


「……ろーちゃん? どうしたの?」


 その時、それまで輪に入らず黙々と話を聞いていた白衣の少女、上級魔族のローアを不思議に思った望子が、おなかすいたの? と自分が食べていたパンを差し出し、彼女の顔を覗き込む様にして問いかけると、

「む? あぁいや……」

 ローアは何でも無いといった様子で苦笑し、首を緩やかに横に振ってみせたが、

「……おいローア、気になる事があんなら早めに言っとけよ。 またいきなり邪神とか嫌だからな」

 ジロっと彼女を睨みつけ、懸念を心の内に秘めがちなローアを咎める様にウルがそう言った。


 するとローアは流石に同じ轍を踏むのはまずいと感じたのか、慌てた様子で頷いて、

「そ、そうであるな。 といっても大した事では無いのであるが……ミコ嬢は、召喚勇者なのであるな?」

 何故かそんな事を確認する様に望子に尋ね、

「……え? う、うん。 そう、みたいだね」

 なんでいまさら? とは思いつつも、望子は頷き彼女の問いかけを肯定する。


「召喚勇者という事は、ミコ嬢やウル嬢たちをこの世界に呼び出した者がいるという事である。 召喚術士サモナーしかり賢者ワイズマンしかり……しかり」


 ローアが顎に手を当てつつ、望子が異世界に呼び出されたという事実と、それをおこなった何某かの存在を示唆し、いくつかの候補を挙げてそう告げると、

「「「!」」」

 亜人ぬいぐるみたちの脳裏に、極端な程自分たちに怯えていた神官姿の金髪の女性の姿が浮かんだ。


「その反応……心当たりがお有りか?」


 ほぼ同時に目を見開いた三人を見ていたローアが、望子から受け取ったパンを口にしながら問い、

「……あぁ、三つ目の奴にな」

「という事は……聖女であったか。 ならば話は早い。 聖女であれば大抵の場合、ある程度の治療術を修めている筈であるし、勇者召喚サモンブレイヴを行使出来る程の魔力があるならこの一党パーティ奇想天外ユニークでも充分通用するのでは、と思うのであるが……如何に?」

 代表してウルがそう答えると、彼女は成る程と頷きつつもそんな風に彼女たちへ提案する。


 望子はいまいち話の流れが掴めておらず、疑問符を浮かべていた為、ウルたち三人が主に考えていたが、

「つってもよぉ……ミコを異世界ここに強制的に連れて来た奴だぜ? はっきり言ってあたしは嫌なんだがな。 そもそも何処にいんのかも知らねぇし」

 真っ先に口をひらいたウルがそう主張すると、ハピとフィンもほぼほぼ同意見だったのか無言で頷き、

「むぅ、そうであるか。 悪くない案だと思ったのであるが……それならば仕方あるまい」

 折角の妙案が却下された事に若干の不満をいだきながらも、ローアは大人しく引き下がる。


(わたしをここにつれてきたおねえさんか……あのひとのせいでおかあさんにあえなくなって……でもそのおかげでみんなとはなせるようになって……んー)


 一方、望子はウルの言葉で漸く話を理解し、王城で見た聖女の姿を思い出しつつ、パンをもぐもぐとしながら自分なりに色々と考えていた。


「そもそも何て名前だっけ。 聞いた気もするけど……やたらビクビクしてたって事しか覚えてないや」


 怯えていた原因が自分たちに……もっと言えば自分にあるという事を全く自覚していないフィンがそう口にすると、ハピがあぁ、と声を上げて――。


「えぇと確か……『カナタ』、だったかしら」


 ……そして、物語は望子たち一行が新たな仲間としてローアを連れ立ち、ドルーカの町を後にしたところまで遡る――。

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